うつ病の苦しみを抱えながら働き続けることは、想像以上に心身に大きな負担をかけます。
「もう限界かもしれない」「退職した方がいいのだろうか」――そんな思いでこのページにたどり着いた方も多いでしょう。
うつ病による退職は、甘えではありません。むしろ、ご自身の健康を守るための大切な選択肢のひとつです。
本記事では、うつ病で退職を考えるときに知っておきたい判断基準や、実際の退職手続きの流れ、退職後に利用できる支援制度について、専門的な知見を交えながらわかりやすく解説します。
うつ病で退職を考えるとき、まず知っておきたいこと
うつ病で退職を考えるのは甘えではない
うつ病で退職を考えることに、罪悪感を抱いている方はとても多いものです。
「周りに迷惑をかけるのではないか」「ここで辞めたら負けなのではないか」と、自分を責めてしまう方も少なくありません。
しかし、うつ病は脳の働きに不調が生じる医療的な状態であり、決して「気持ちの問題」や「根性」で乗り越えられるものではありません。
世界保健機関(WHO)も、うつ病を「重大な健康障害の一つ」と定義しており、適切な治療や休養が必要であることが明言されています。
特に、日本では「頑張ることが美徳」とされる文化が根強く、うつ病による退職を「甘え」と捉える誤解が根強い傾向にあります。
しかし、これは医学的には根拠がない考え方です。
自分を守るために環境を変えることは、甘えではなく、正当な自己防衛行動だと考えていいのです。
退職すべきか続けるべきか迷うときの判断基準
退職を決断するか、それとも休職や配置転換などで乗り切るか──。
この選択は、非常に悩ましいものです。
以下のチェックリストを参考に、ご自身の状況を客観的に整理してみましょう。
【うつ病で退職を検討すべきサイン】
- 仕事に行こうとすると強い体調不良(頭痛、吐き気、動悸)が起こる
- 通勤中や仕事中に涙が止まらなくなる
- 休日も仕事のことを考えて眠れない、心から休めない
- 業務に集中できず、大きなミスや事故を繰り返してしまう
- 上司や同僚からのサポートが得られず、孤立感が強い
- 医師から「休職や退職を検討するように」とアドバイスを受けている
もし複数項目に該当する場合は、無理に続けるよりも「一度仕事から離れる」選択肢を検討すべきサインといえるでしょう。
なお、会社によっては産業医面談や配置転換、在宅勤務など柔軟な対応をとってくれる場合もあります。
まずは「すぐに退職」と焦らず、休職制度の利用や働き方の見直しも含めて選択肢を広げて考えることが大切です。
▶️ 判断のために考えたいこと
- 現在の仕事環境に、心身を回復できる余地があるか
- 休職・配置転換で改善できる可能性があるか
- 退職後の生活設計(支援制度の利用など)に目処が立ちそうか
うつ病かどうか、自己診断してみたい方はこちら → うつ病セルフチェック診断|気づかれにくい心のサインとセルフケアの第一歩
無理を続けることがもたらすリスク
「もう少し頑張ればなんとかなるかも」と思って、無理を重ねてしまう方も少なくありません。
しかし、うつ病の状態で無理に働き続けることには、深刻なリスクが伴います。
【無理を続けた場合に起こりうるリスク】
- 症状の悪化
軽度だった抑うつ症状が、重度のうつ病に進行するリスクがあります。 - 回復までの期間が長期化
早期に休養を取った場合に比べ、治療・社会復帰までにかかる期間が長くなる傾向が指摘されています。 - 自尊心の低下と自己否定感の強化
ミスや叱責の積み重ねにより、「自分はダメな人間だ」という否定的な自己認知が強まってしまいます。
つまり、無理を続けること=「がんばり」ではなく、深刻な状態に繋がりかねないのです。
ご自身を守るために、早い段階での「環境を変える勇気」も、とても大切な選択肢だということを忘れないでください。
▶️ 無理を続けるリスクまとめ
- 症状悪化により、長期的な回復が難しくなる
- 自己肯定感が著しく低下する
- 命に関わるリスクが高まる可能性がある
- うつ病で退職を考えることは決して甘えではなく、医学的にも必要な選択肢
- 「続けるか退職するか」は、心身の状態、職場環境、支援制度の有無を冷静に整理して判断
- 無理を続けることは、うつ病の悪化や自己否定感の強化、最悪の場合は命の危険につながるリスクがある
- ご自身を守るために「環境を変える選択肢」を持つことは、未来への大切な一歩
ここまで、うつ病で退職を考える際に大切な基本的な考え方をお伝えしてきました。
続く章では、具体的に「うつ病で退職を決断した場合、どのような流れで手続きを進めればよいのか」について、わかりやすく解説していきます。
うつ病で退職するときの基本的な流れ
うつ病で退職を決意したとしても、いざ具体的な行動に移すとなると「何から始めればいいのか分からない」と戸惑う方も多いのではないでしょうか。
特に、体調が万全でない中で手続きを進めるのは、大きな負担になりがちです。
この章では、うつ病で退職をする際に必要な基本ステップを、ひとつずつ整理して解説します。
まずは診断書の取得を
うつ病で退職を検討する場合、最初に行うべきは医師からの診断書を取得することです。
これは、ただ「気持ち」で退職を申し出るのではなく、医学的に「就労継続が困難な状態」であることを示すために非常に重要です。
診断書が必要な理由
- 会社側に病状を客観的に説明できる
- 休職や傷病手当金の申請時に必要になる
- 退職時のトラブル防止に役立つ
- 特定理由離職者(失業保険上の優遇措置)の証明資料になる場合がある
診断書は、主治医に「現在の症状と、就労継続が困難な状態であること」を記載してもらう形になります。
このとき、「〇月〇日まで療養を要する」などの具体的な期間が書かれていると、後々の手続きがスムーズになります。
▶️ 注意点
- 医師によっては即日発行できないこともあるため、余裕を持って依頼しましょう
- 休職を挟む場合は、休職期間に合わせた診断書の更新が必要になることもあります
診断書をもらうまでの段取りが詳しく知りたい方はこちら → うつ病の診断書をすぐにもらうには?取得の流れとポイントを解説
会社への伝え方のポイント(直属の上司・人事部)
退職の意思を伝えるとき、まず基本となるのは直属の上司に報告することです。
しかし、うつ病で心身の状態が不安定なときに、直接対面して話すことはとても大きな負担になることもあります。
そんなときは、無理をせず、事前に電話やメールで「相談したいことがある」と伝え、面談の日時を調整してもらう方法をとりましょう。
「体調が優れず、対面での面談が難しい場合は、電話やメールだけで相談できないか」と申し出ることもできます。
あなたができる範囲で動くことが、何より大切です。
伝え方の基本ポイント
退職理由を伝える際は、基本的に「一身上の都合により退職を希望します」という表現で問題ありません。
会社に対して、うつ病の診断名や具体的な症状を詳細に説明する義務はありません。
病状を知られることに不安を感じる場合は、「体調不良のため」とだけ、簡潔に伝えましょう。
ただし、就業規則によっては、退職届の提出や退職願の提出期限が定められている場合もあります。
事前に会社のルール(就業規則)を確認して、スムーズに手続きを進められるよう準備しておきましょう。
▶️ 伝え方のポイントまとめ
- 退職理由は「一身上の都合」でOK
- 病名を無理に伝える必要はない
- 会社の退職手続きを事前に確認しておく
うまく伝えられるか不安なときの対策
うつ病の状態では、急に質問されたり、引き止められたりすると、うまく言葉が出なくなることもあります。
そうしたときに備えて、事前に話す内容をメモしておくことをおすすめします。
また、トラブルを防ぐ意味でも、面談時のやり取りを記録(メモや、場合によっては録音)しておくことが安心材料になります。
特に、パワハラ的な対応や無理な引き止めが心配な場合は、一人で対応せず、家族や信頼できる人に同席してもらうのも有効な手段です。
【退職を伝えるときの例文】
「体調不良が続いており、主治医からも就労継続は難しいとの診断を受けました。そのため、誠に心苦しいのですが、退職させていただきたく、ご相談に伺いました。」
無理にすべてをうまく伝えようとしなくて大丈夫です。
一番大切なのは、あなた自身の体と心を守ることです。
引き止められたときの対処法
退職を申し出ると、会社側から引き止められるケースは少なくありません。
特に人手不足の職場では、
「もう少し様子を見てはどうか」
「部署を異動すれば負担が減るかもしれない」
といった提案をされることがあります。
もしも、職場環境の改善によって体調の回復が見込めるのであれば、提案を再検討するのもひとつの選択肢です。
ですが、「もう限界だ」「環境が変わっても無理だ」と感じているなら、引き止めには応じる必要はありません。
あなたが感じている限界は、誰よりも確かなサインです。
それを無視してしまうと、症状が悪化するリスクが高まります。
引き止められたときの伝え方の例
「医師とも相談し、現状ではまず休養が必要という結論に至りました。」
「体調を優先に考えたいので、退職の意思は変わりません。」
「今後の回復と生活を考え、治療に専念したいと考えています。」
自分の気持ちが揺らぎそうなときは、「一度持ち帰って考えさせてください」と伝えてその場で答えないようにしましょう。
▶️ ポイント
- 引き止めに応じるかどうかは、あくまで「自分の体調最優先」で判断
- 即答を避ける、第三者を交えるなど、自分を守る工夫をする
トラブルを避けるために知っておきたい注意点
うつ病による退職では、特に次のようなトラブルが起こりやすくなります。
- 退職届を提出しても受理してもらえない
- 無理な引き止めや、パワハラまがいの対応をされる
- 有給休暇が未消化のままになったり、未払い賃金が発生する
- 離職票に不利な理由(懲戒解雇など)を書かれる
これらのリスクを避けるためには、できるだけ証拠を残すことが大切です。
トラブル防止のために心がけたいこと
- 退職に関するやり取りは、なるべく書面やメールで記録を残す
- 感情的な応酬を避け、冷静に、簡潔に対応する
- 退職手続きがこじれた場合は、弁護士、労働組合、退職代行サービスなど第三者機関を利用する
特に、心身の負担が大きいときは、「一人で頑張ろうとしないこと」がとても大切です。
専門家の力を借りることは、決して「弱さ」ではありません。
それは、自分を守るために必要な「賢い選択」です。
▶️ ポイント
- 必要に応じて外部サポートを早めに検討する
- 自分を責めず、「安全な退職」を最優先に考える
- 退職を考えたら、まずは医師に相談し、診断書を取得する
- 会社には「体調不良による一身上の都合」で簡潔に伝える
- 引き止められても、自分の体調を最優先に冷静に対応する
- 退職トラブルを避けるため、記録を残し、外部支援も活用することが重要
ここまで、うつ病で退職する際の基本的な流れと注意点を整理しました。
次は、「退職後にどのような支援制度が利用できるのか」について詳しくご紹介します。
傷病手当金や失業保険など、生活を支える制度を正しく理解し、安心して療養に専念できるようにしていきましょう。
うつ病で退職した後に使える支援制度
うつ病で退職した後、「この先、生活は大丈夫だろうか」と不安に感じる方は多いものです。
しかし、私たちには、困ったときに支えてくれる公的な支援制度がいくつか用意されています。
以下に、うつ病によって収入が減少・停止した場合に活用できる主要な制度をまとめました。
制度名 | 対象となる方 | 主な内容 |
---|---|---|
傷病手当金 | 健康保険に加入している会社員・公務員 | 休職中の給与の約2/3を最長1年6ヶ月支給 |
自立支援医療(精神通院) | 精神科に継続的に通院する方 | 医療費の自己負担が原則1割に軽減 |
障害年金(精神障害) | 働くことが難しいと診断された方 | 毎月一定額の年金が支給される(20歳以上対象) |
生活保護 | 所得や資産が一定基準を下回る方 | 最低限の生活費や医療費などが支給される |
※制度ごとに申請条件・必要書類・審査基準があります。詳細は各制度の公式情報をご確認ください。
「会社員」ならまず、傷病手当金を確認しよう
会社員・公務員の方で、うつ病のために連続3日以上仕事を休み、4日目以降も就労できない状態であれば、「傷病手当金」を受け取れる可能性があります。
この制度は、加入している健康保険(協会けんぽや健康保険組合など)から支給され、給与の約67%が最長で1年6ヶ月支給される仕組みです。
※申請には医師の意見書(診断書)と会社の証明が必要です。
医師の診断書について詳しく知りたい方はこちら → うつ病の診断書をすぐにもらうには?取得の流れとポイントを解説
「働けない」期間が長引いた場合は、障害年金の検討を
うつ病が長期化し、働けない状態が続く場合には「障害年金(精神障害)」を検討しましょう。
これは就労に著しい制限がある場合に、月額で支給される国の年金制度です。
20歳以上であれば申請可能で、精神障害者保健福祉手帳の等級とは連動していないため、単独で申請できます。
精神障害者保健福祉手帳とは?
精神障害者保健福祉手帳の主な目的は、精神疾患のある方が社会参加しやすくなるよう、生活上の支援を受けられるようにすることです。
この制度は、厚生労働省が所管し、各自治体(市区町村)を通じて交付されています。
生活保護は「最後のセーフティネット」
貯金がなくなってしまった、家族からの支援も受けられない、働けない状態が続いている——そのような方には、「生活保護」も選択肢の一つです。
「働けない理由」にうつ病などの精神疾患がある場合も、医師の診断や証明があれば支給対象になります。
申請はお住まいの自治体(福祉事務所)で行い、収入・資産状況を確認した上で支給可否が決定されます。
精神疾患に対応した「自立支援医療」
通院治療が継続的に必要な方にとって、医療費の自己負担が大きな障壁になることもあります。
そんなときには「自立支援医療(精神通院医療)」制度を活用しましょう。
この制度を使えば、医療費の自己負担が原則1割に軽減されます。
申請は役所や保健所で行え、医療機関によっては申請を代行してくれることもあります。
コラム:給付金と補助金の違いを知ろう
どちらも金銭的な支援を受けられる制度ですが、給付金と補助金では大きな違いがあります。
特に、うつ病の方が利用しやすいのは「給付金」系の制度です。
比較項目 | 給付金 (うつ病の支援はこちら) | 補助金 |
---|---|---|
返済の必要 | なし | 一部あり(条件付き) |
対象 | 個人が多い | 法人・事業者が多い |
目的 | 生活支援・医療支援 | 事業や雇用の維持など |
申請先 | 社会保険窓口・役所 | 省庁・自治体・補助金事務局 |
支援制度を組み合わせて使うコツ:ひとつの制度だけに頼る必要はありません
多くの方が誤解しているのが「どれか1つしか使えないのでは?」という点です。
実際は、複数の制度を併用することで、生活や治療の安定につなげられるケースが少なくありません。
◆組み合わせの一例
以下は、うつ病で働けない方が実際に利用できる支援の組み合わせ例です。
例1:会社員で休職中の方
- 傷病手当金 → 収入を補う
- 自立支援医療制度 → 通院費を軽減
- 精神保健福祉手帳 → 交通費や税制優遇
例2:無職で就労が困難な方
- 障害年金 → 月々の生活費支援
- 自立支援医療制度 → 医療費の負担減
- 生活福祉資金貸付 → 緊急の生活資金補填
- 精神保健福祉手帳 → 障害者雇用枠や割引制度の利用
◆申請の順番・時期を考えるとよりスムーズに
制度の中には、「先にこの制度を使っていると有利になる」といったものもあります。
たとえば、障害年金の申請後に精神保健福祉手帳を申請する際、年金の証書があれば診断書が不要になるケースも
そのため、制度の特性と手続き時期のバランスを考えることが大切です。
◆手続きに不安がある方へ
「手続きが煩雑で、途中であきらめてしまいそう…」という方は、社会保険労務士(社労士)や精神保健福祉士などの専門家にサポートを依頼するのも有効です。
特に障害年金のように難解な制度は、プロの力を借りることで申請がスムーズに進みます。
- 退職後は、傷病手当金を優先的に活用し、生活の安定を図る
- 生活が困難な場合は生活保護も申請可能。就労支援制度を活用すれば、段階的な社会復帰を目指すこともできる
- 制度を正しく理解し、安心して療養に集中することが大切
ここまで、退職後に利用できる支援制度についてご紹介しました。
安心して療養に専念するためには、これらの制度を上手に活用することがとても重要です。
次の章では、うつ病で退職した後の「過ごし方」や「再スタートに向けた準備」について、心と体の両面からサポートできるような実践的なアドバイスをお伝えします。
うつ病で退職した後の過ごし方・再スタートに向けて
うつ病で退職をした後、心のどこかで「早く次に進まなければ」と焦ってしまうことがあるかもしれません。
しかし、うつ病からの回復には、時間と丁寧な自己ケアが欠かせません。
この章では、退職後にどのように心身を回復させ、どのタイミングで復職・転職活動を始めるべきか、また新しい職場を選ぶ際に意識したいポイントについて、一緒に整理していきましょう。
焦らず心身を回復させるためのポイント
退職後の最大のテーマは、「焦らず、しっかりと回復に専念すること」です。
うつ病は、心と脳が疲弊した状態です。
回復には、適切な休養とケアが欠かせません。
【回復期に大切にしたいこと】
- 休息を「積極的に」取る
「何もしないことに罪悪感を覚える」方も多いですが、今は「治療」が最優先。安心して休みましょう。 - 生活リズムを整える
昼夜逆転を避け、できる範囲で朝起きて夜眠るリズムを保つことが、心身の安定に役立ちます。 - 自分に優しくする
「今日できたこと」に目を向ける習慣を持ちましょう。できなかったことより、小さな達成を大切に。 - 信頼できる人に支えてもらう
一人で抱え込まず、家族や友人、医療者に相談しながら過ごすことが、安心感につながります。
【医学的な補足】
うつ病の治療は一般的に「急性期(症状が強い時期)」→「回復期(症状が軽減していく時期)」→「維持期(再発防止を図る時期)」という段階で進行すると考えられています。
これはDSM-5に明示されているものではありませんが、多くの臨床現場や治療ガイドラインで採用されているモデルです。
このプロセスを尊重し、無理なステップアップを避けることが、再発防止にもつながります。
▶️ ポイント
- 休むことは治療の一環
- 睡眠・食事・日光浴を大切に
- 小さな「できた」を積み重ねる意識を持つ
復職・転職活動を始めるタイミング
「そろそろ動き出した方がいいのかな?」と感じる時期についても、不安があるかもしれません。
無理をしてしまうと、せっかく回復した心身を再び疲弊させるリスクがあります。
【転職・復職を考え始めるサイン】
- 朝起きたときに、「今日も悪くないかも」と感じる日が増えてきた
- 生活リズム(起床・就寝・食事)が安定してきた
- 医師から「徐々に社会復帰を考えてもいい」と言われた
- 仕事に対する前向きな気持ちが少しずつ戻ってきた
このようなサインが見え始めたら、焦らず、少しずつ外に目を向ける準備を始めましょう。
【転職・復職までのステップ例】
- 主治医と相談し、復職・転職可能かを確認する
- まずは短時間の活動(散歩や軽作業)でリハビリ
- 少人数・短時間のアルバイトやボランティアを試す
- 本格的な就職活動に移行する
▶️ 注意点
- 症状に波があっても焦らない(回復には「良い日・悪い日」があるもの)
- 最初は無理せず、「できる範囲でできること」から始める
再就職先選びで大切にしたい視点(職場環境・働き方)
うつ病からの再出発では、職場選びがとても重要になります。
環境が合わないと、再発リスクが高まってしまうため、慎重に見極めましょう。
【再就職先選びのポイント】
- 過度なストレスがかからない業務内容か
過剰なノルマ、長時間労働、常時マルチタスクなどは再発リスクを高める可能性があります。 - 柔軟な働き方ができるか
リモートワークや時短勤務、フレックス制度などがあると、自分のペースを保ちやすくなります。 - メンタルヘルスへの理解があるか
社内に産業医やメンタルヘルス対策が整備されている企業は、安心して働きやすい環境といえます。 - 少人数・チームワーク重視の職場か
あまりにも個人プレーに偏る職場より、チームで助け合う文化のある会社が、心理的安全性につながります。
また、障害者雇用枠での就職も一つの選択肢です。
うつ病や適応障害など、精神疾患を持つ方のための特別な配慮が用意されていることが多く、無理なく働き続けられる環境を整えやすくなります。
▶️ 大切にしたい視点
- 「年収」や「会社の規模」よりも、「自分が無理なく働ける環境かどうか」を最優先に考えること
- 退職後は、焦らず心と体の回復を最優先にする
- 復職・転職のタイミングは「生活リズムの安定」や「前向きな気持ちの芽生え」がサイン
- 再就職先は、柔軟な働き方や心理的安全性を重視して選ぶことが大切
- 「社会復帰」=「元通りに戻る」ではなく、「自分に合った新しい生き方」を探すプロセスと捉えよう
退職に踏み切れないときは誰かに相談してもいい
うつ病で退職を考えていても、「本当に辞めていいのだろうか」「このまま続けた方がいいのではないか」と悩み、なかなか踏み切れないこともあるかもしれません。
そんなとき、すべてを一人で抱え込む必要はありません。
この章では、医師、家族・友人、弁護士や退職代行サービスといった、頼れる存在について、それぞれの役割と活用方法をわかりやすくご紹介していきます。
相談先1:医師に相談する
退職や働き方について悩んだとき、最も信頼できる相談先のひとつが、主治医や心療内科・精神科の医師です。
うつ病という状態にあると、どうしても自分自身のことを客観的に見るのが難しくなってしまいます。
「自分はまだ働けるかもしれない」
「休むなんて、ただの甘えじゃないか」
──そんな思考にとらわれてしまうのは、決して珍しいことではありません。
でも、心の病においては、自分だけで判断するよりも、外からの視点で状況を整理してもらうことがとても大切です。
冷静な専門家の意見に耳を傾けることが、あなたの「これから」を考えるうえで、優しく確かな道しるべになります。
医師に相談するメリット
- 現在の体調を医学的に評価してもらえる
→ 日々の症状の変化を踏まえて、客観的な状態像を教えてくれます。 - 退職や休職について、専門的な観点からのアドバイスをもらえる
→ 「もう少し働けそう」なのか、「まずはしっかり休むべき」なのか、具体的に助言してくれます。 - 必要に応じて診断書を作成してもらえる
→ 傷病手当金や休職・退職の際に重要な証明書類となります。
医師に相談するときのコツ
医師との対話では、「きちんと話さなければ」と緊張する必要はありません。
むしろ、感じていることを、そのまま言葉にすることが大切です。
うまく説明できなくても大丈夫。あなたの言葉を丁寧に受け止めながら、必要な情報を汲み取ってくれます。
以下のようなことを、できる範囲で伝えられると、より的確なアドバイスにつながります。
- 仕事に関して感じている負担やストレス(「朝になると涙が出る」「メールを見るのが怖い」など)
- 退職を検討しているが迷っているという気持ち
- 「もし働くとしたら、どんな働き方なら可能なのか?」という素朴な疑問や希望
▶️ ポイント
医師は、あなたの「意志」だけでなく、「健康状態」を見て助言をくれる味方です。心の整理がつかないときこそ、安心して頼ってください。
精神科医に行くべき目安について詳しく知りたい方はこちら→【専門家が解説】うつ・ストレスで悩んだら相談を|カウンセリングの受診目安・種類・流れの完全ガイド
家族・友人に相談する
うつ病の状態では、何もかもを「自分ひとりでなんとかしなきゃ」と抱え込みがちになります。
でも、本当に大切なことは、ひとりで背負い込まないことです。
家族や親しい友人と話すことで、心の重荷が少し軽くなることもあります。
自分の弱さをさらけ出すことは、恥ずかしいことではありません。
むしろ、信頼できる人と気持ちを共有することが、心の回復にはとても大切なのです。
家族・友人に相談するメリット
- 感情面での共感や励ましを受けられる
→ 専門的なアドバイスでなくても、「つらかったね」と受け止めてくれるだけで救われることがあります。 - 退職後の生活について、一緒に考えてくれることがある
→ たとえば「実家に戻って少し休もう」「家計のことはしばらく任せて」など、現実的なサポートをしてくれる場合もあります。 - 迷ったときに冷静な視点を提供してくれることもある
→ 感情が揺れているとき、第三者の視点が冷静な判断の助けになることも。
相談するときのコツ
- 「ただ聞いてほしい」か「アドバイスが欲しい」かを先に伝える
→ 相手が戸惑わず、あなたの気持ちに寄り添いやすくなります。 - 泣いたり、感情があふれても大丈夫
→ 信頼できる相手は、あなたの感情を否定せず、やさしく受け止めてくれるはずです。 - 退職後の生活についての不安も遠慮なく話してみる
→ たとえば「お金が心配で…」「生活面で迷惑をかけるかも」といった気持ちも、打ち明けることで一緒に考えるきっかけになります。
必要なら弁護士や退職代行サービスも検討
もし退職手続きで会社側とトラブルになりそうな場合や、精神的な負担が非常に大きい場合には、弁護士や退職代行サービスを利用することも選択肢になります。
【弁護士に相談するメリット】
- 退職に関する法的トラブル(未払い賃金、パワハラなど)に対応できる
- 会社側と直接やり取りする必要がなくなる
- 精神的な負担を大幅に軽減できる
弁護士に依頼すると費用はかかりますが、適正な条件でスムーズに退職できる可能性が高まります。
特に、強引な引き止めや退職届の受理拒否といった問題が懸念される場合には、積極的に検討すべきです。
【退職代行サービスの利用について】
最近では、弁護士監修型の退職代行サービスも増えており、「もう自分では会社とやり取りできない」という精神状態のときに、代行業者を通して退職手続きを完了させることが可能です。
▶️ 注意点
- 退職代行業者の中には、法的知識が不十分な業者もあるため、弁護士資格の有無や実績を確認する
- 退職後の傷病手当金申請なども考慮するなら、適切なアドバイスができる専門家を選ぶ
- 医師に相談し、医学的な視点から退職や休職のアドバイスをもらう
- 家族や友人に不安を打ち明け、感情面の支えを得る
- 精神的・法的に負担が大きい場合は、弁護士や退職代行サービスを利用する選択肢もある
- 一人で抱え込まず、周囲の力を借りながら、安心できる退職プロセスを進めよう
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
うつ病での退職は、決して「逃げ」ではありません。あなたがご自身を大切にするための、勇気ある選択のひとつです。
焦る必要はありません。
今は、心と体をゆっくりと癒す時間です。きっとまた、あなたらしい歩み方が見つかるはずです。
困ったときは、周りの力を借りながら、一歩ずつ進んでいきましょう。
この記事が、あなたのこれからを少しでも明るく照らすヒントになれば、とても嬉しく思います。
【合わせて読みたい関連記事】
うつ病からの復職・再就職が難しいと感じるあなたへ ― 焦らず自分らしい働き方を探すために