「こんなにつらいのに、病気じゃないと言われた…」

―そんな経験は、少なからず多くの人が抱える心のひっかかりです。

心療内科や精神科を受診しても「異常なし」と言われたとき、自分の苦しさが否定されたように感じてしまうこともありますよね。

でも、それは決して“気のせい”でも“弱さ”でもありません。

本記事では、医師の診断と自分の感覚がずれる理由や、心と体の不調が見えづらい背景を丁寧に解説しながら、安心して前に進むためのヒントをお伝えします。

第一章:医師から「病気ではない」と言われたけれど…その背景とは?

心療内科で「病気ではありません」と言われたとき、多くの人が戸惑いを感じます。

「でも、体はつらい」「気持ちが不安定で仕方ないのに」といった思いが湧いてくるのは、ごく自然なことです。

この章では、医師の診断と自分の感覚が一致しない理由、医学的には「異常なし」とされながらも続く“未病”の状態について解説していきます。心と体の不調がなぜ“数値”や“診断名”に表れにくいのか、その背景を一緒にひも解いていきましょう。

医師の診断と自覚症状が一致しないとき

「自分では明らかに体調が悪いと思っているのに、検査結果は異常なし」

──このギャップに強い違和感や不安を覚える方は少なくありません。

特に、心療内科のように「目に見えにくい不調」を扱う診療科では、医師が下す診断と本人の実感が食い違う場面が起きやすくなります。

これは決して、患者の感じているつらさが「間違っている」わけではありません。むしろ、医学の側において「見えるものだけで判断する限界」があるからこそ起こるのです。

たとえば、医師が診断を下す際には、DSM-5(精神疾患の診断基準)やICD(国際疾病分類)など、一定の基準に基づいて判断が行われます。しかし、これらの基準に明確に当てはまらないケースも多くあります。

「日常生活に支障が出るほどではない」「期間や頻度が診断基準を満たさない」などの理由で“診断名がつかない”だけであり、本人が感じているつらさや違和感がないことにはなりません。


診断基準に当てはまらない“未病”の状態について

医学の世界には「未病(みびょう)」という概念があります。これは「明確な病気ではないが、健康とも言えない状態」を指し、東洋医学だけでなく、近年は予防医療の文脈でも重視されるようになっています。

心の健康も同様で、診断名こそつかなくても、以下のような症状は“未病”のサインと考えられます。

  • 何となく気分が落ち込む日が続いている
  • 眠れない・寝つきが悪い
  • 朝起きた瞬間から疲れている
  • 食欲がない/逆に過食傾向
  • 人との関わりが億劫に感じる

これらは、抑うつ症状や不安障害の初期サインである可能性もあり、状態を放置すると悪化するケースもあります。診断名がないからといって、「何もする必要がない」というわけではないのです。


心と体の「不調」は数値に表れないこともある

「異常なし」という診断に戸惑う理由のひとつは、私たちが健康を「数値」で判断しがちだからかもしれません。血液検査や画像診断など、明確な数値で結果が示される検査に異常がないと、「問題ない」と言われやすくなります。

しかし、心や自律神経のバランスといった要素は、そうした数値で直接評価しにくい分野です。

たとえば、ストレスによる自律神経の乱れは、以下のような症状として現れます:

  • 胃の不調や動悸、めまいなどの身体症状
  • 過呼吸や不安発作
  • ぼーっとする/集中できない
  • 意欲の低下・慢性的な疲労感

これらは「身体的な病気」として診断できる枠を超えており、いわば「心と体の間」にあるグレーゾーンの症状とも言えるのです。

まとめ
  • 医師の診断は「基準に当てはまるか」で判断されるため、自覚症状と食い違うことがある
  • 診断名がつかなくても、つらさを感じている状態は“未病”であり、ケアが必要
  • 心や自律神経の不調は数値に表れにくく、「異常なし」と言われても安心できないことがある
  • 不調の正体が“診断名”で説明されなくても、自分の感覚を大切にしてよい

「異常なし」と言われたけれど、やっぱりつらい

―そんなあなたの気持ちは、とても自然で正当なものです。

では、その不調の正体は一体なんなのでしょうか?

次章では、「病気ではないけれど不調が続く」原因として考えられる心の状態やストレス反応、そして症状の背景にある心理的要因について詳しく解説していきます。自分自身をもっと深く理解するヒントが、きっと見つかるはずです。

第二章:続く不調や不安の正体を探る

「病気じゃない」と言われたけれど、心や体の不調がなかなか消えない

—その状態には、必ず何らかの背景があります。目に見える診断名がつかなくても、心理的なストレスや環境要因によって不安や症状が長引くことは少なくありません。

この章では、考えられる心の状態や症状の正体について、代表的な例とともに丁寧に解説していきます。「原因不明」の不調に悩む方が、自分の状態を少しでも理解できるようになるきっかけになれば幸いです。

病気不安症(心気症)について

「本当にどこか悪いのでは?」「この症状は深刻な病気かもしれない」と、強い不安にとらわれ続ける状態を、病気不安症(心気症)といいます。

これは、医学的に異常が見つからないにも関わらず、病気に対する過度な恐れや心配が頭から離れない精神的な状態です。

たとえば…

  • 微熱が続くと「何か重大な病気かも」と何度も病院を訪れる
  • 健康診断の結果を過剰に不安視して眠れなくなる
  • SNSやネット検索で病気情報を調べ続けてしまう

こうした不安は、本人にとってはとてもリアルなものです。単なる「心配しすぎ」では片づけられず、日常生活に支障をきたすこともあります。

病気不安症は「自分の心配に気づけない」ことが特徴であり、自分自身を安心させる力が弱まっている状態ともいえます。


不安障害・抑うつ状態・身体表現性障害などの可能性

続く不調の背景には、以下のような精神的状態が隠れていることがあります。

不安障害(全般性不安障害)

日常生活のささいな出来事にも強い不安を感じ、「何か悪いことが起きるかも」と先回りして心配してしまう傾向が特徴です。
【主な症状】

  • 胃の不調・動悸・呼吸が浅くなる
  • 集中力の低下・イライラ感
  • 寝つきが悪い・眠りが浅い

抑うつ状態

明確なうつ病の診断が出るほどではなくても、「気分が晴れない」「何をするのもおっくう」「以前楽しめていたことに興味が持てない」などの抑うつ状態は、不調の背景としてよく見られます。

気分の落ち込みは身体的にも表れやすく、慢性的な倦怠感・頭痛・食欲不振など、心と体の症状が混在することが多いです。

身体表現性障害

精神的なストレスが、身体症状という形で現れる状態です。

  • 頭痛・腹痛・吐き気・息苦しさ・しびれなど
  • 医学的検査では異常がない
  • 「また症状が出たらどうしよう」という予期不安も強い

これらは「ストレス反応の身体化」とも呼ばれ、自覚しづらいストレスが原因となるケースが多くあります。


自律神経失調症やストレス性の身体反応について

「なんとなく体調が悪い」「朝からだるい」「気圧や環境に敏感」など、説明しづらい不調が続くときに考えられるのが、自律神経の乱れです。

自律神経とは?

  • 交感神経(活動・緊張モード)
  • 副交感神経(休息・リラックスモード)

この2つがバランスよく働くことで、呼吸・血流・消化・体温などがスムーズに保たれています。
ところが、ストレス・過労・睡眠不足・栄養の偏りなどが続くと、このバランスが崩れ、身体症状として現れるのです。

自律神経が乱れるとよくある症状

  • めまい・のぼせ・冷え
  • 食欲不振・便秘・下痢
  • 息苦しさ・動悸・不眠

特に、真面目で責任感が強い方や、感情を抑え込みやすい方ほど、こうしたストレス性の身体反応が起きやすい傾向があります。

自律神経の乱れについては、こちらの記事でも詳しく紹介しています。


感情の抑圧や生活環境が影響することもある

自分でも気づかないうちに、「本当の感情」を押し込めてしまっていることが、不調の原因になっている場合もあります。

感情を抑え込むと起きること

  • 言いたいことを我慢し続けている
  • 「こうあるべき」という思考に縛られている
  • 他人の期待に応えようと無理している

これらは慢性的なストレスとなり、自律神経や免疫機能に影響を与える可能性があります。

騒音・人間関係・照明や空間の圧迫感など生活環境の影響も、心身に微細なストレスを与えることがあります。
また、仕事の忙しさや育児、介護などの慢性的な負担があると、「ストレスを感じている暇がない」まま限界を迎えてしまうことも。

まとめ
  • 「病気じゃない」と言われても、不調が続く背景にはさまざまな心の状態がある
  • 病気不安症は「過度な病気への不安」が続く状態で、自己安心感が低下している
  • 不安障害・抑うつ状態・身体表現性障害なども、原因が見えにくい不調の要因となる
  • 自律神経の乱れは、ストレスによって身体に現れる「心の声」である
  • 感情の抑圧や生活環境の影響も、無視できない大きな要因となる

自分の中にある「説明できない不調」の背景に、ここまでさまざまな可能性があることを見てきました。原因が明確でなくても、それは“気のせい”でも“怠け”でもありません。

では、そんなときに私たちはどうすればいいのでしょうか?

次章では、「医師の診断に納得できないとき」「不調が続くのにどうしてもモヤモヤするとき」に、自分の心とどう向き合い、次の一歩を踏み出すか。その選択肢を丁寧に解説していきます。

第三章:医師の診断に納得がいかないときの対応策

「病気じゃないと言われたけど、やっぱり納得できない」「自分のつらさをちゃんと理解してもらえた気がしない」

—そう感じるのは、あなたが自分の心と丁寧に向き合っている証拠です。

心の問題は目に見えにくく、医師との相性や診察スタイルによって、伝わり方や受け取り方も大きく変わります。

この章では、診断に納得がいかないときにどう対応すればいいか、セカンドオピニオンの考え方や信頼できる専門家の選び方についてわかりやすく解説していきます。

セカンドオピニオンを検討する

「この診断で本当に合っているのかな?」「他の専門家にも意見を聞いてみたい」と感じたとき、それは決して医師を疑うことではなく、自分の心と体を大切にする行動です。

セカンドオピニオンとは、主治医以外の医師に自分の状態や診断、治療方針について意見を求めることです。特に心の不調の場合、「納得できる説明が得られない」「治療方針に迷っている」「もっと自分に合った選択肢があるか知りたい」といったときに有効です。

セカンドオピニオンを検討すべきタイミング

  • 診断名はついたが、症状や不安が改善しない
  • 「異常なし」と言われたが、日常生活に支障がある
  • 医師の説明が一方的で、話をじっくり聞いてもらえなかった
  • 薬の処方だけで、心の状態への理解が乏しいと感じる

セカンドオピニオンの心がまえ

  • 「主治医に申し訳ない」と感じる必要はありません
  • あなたの心と体のケアに、納得感と安心感が何より大切です
  • 比較のためではなく、納得するための選択肢として受け止めてみましょう

他の心療内科・精神科・カウンセラーを検討する

心のケアは「誰に相談するか」が非常に重要です。診断が正しくても、あなたが“話せる・安心できる”と感じられる相手でなければ、回復への道のりが遠回りになってしまうこともあります。

医師(心療内科・精神科)を選ぶ際のチェックポイント

  • 話を途中で遮らず、最後まで聞いてくれるか
  • 病名や症状だけでなく、生活背景にも関心をもってくれるか
  • 薬の説明や副作用に対して丁寧な説明があるか
  • 質問に対して否定的な態度をとらないか

医師の診断とは別に、臨床心理士や公認心理師などの心理職に話を聞いてもらうことも有効です。
心理カウンセラーは診断や投薬は行いませんが、以下のような場面で大きな力になります:

  • 自分の気持ちを整理したい
  • 思考のクセや感情の扱い方を学びたい
  • 症状が軽度で、まずは話すことから始めたい

「どこに行ったらいいかわからない」「合わなかったらどうしよう」

—そんなときは、いくつかの施設の情報を比較して、気になるところに問い合わせてみるのも一つの手段です。

口コミよりも、「自分にとって話しやすそうかどうか」を重視しましょう。初回でしっくりこなかったら、遠慮せず別の専門家を探してOKです。

心の治療・ケアにおいてもっとも大切なのは、「この人なら話せる」と思える専門家と出会えるかどうかです。これは、医学的な知識や技術と同じくらい重要な要素です。

なぜ“信頼関係”が必要なのか?

  • 自分の気持ちを正直に話せることで、より的確な支援が受けられる
  • 安心できる場があることで、自己肯定感が回復していく
  • 継続的な対話の中で、自分自身のパターンや強みに気づけるようになる

人と人との関係なので、合う・合わないがあるのは当然です。
「最初の一件で決めなければならない」と思わずに、信頼できる相手を探す過程そのものも、あなたにとって大切な“自己理解の時間”になります。

まとめ
  • 医師の診断に違和感がある場合は、セカンドオピニオンを検討してOK
  • 心療内科・精神科・カウンセリングはそれぞれ特徴があるため、自分に合った支援先を選ぶことが重要
  • 話をきちんと聞いてくれるか、信頼できそうかどうかが判断のポイント
  • 心の回復には「安心して話せる相手」が不可欠
  • 合う専門家を探すこと自体も、自分を大切にするプロセスの一つ

自分の感覚を信じて、納得できる専門家を探すことは、心のケアにおいてとても大切な第一歩です。診断名や処方の有無だけではなく、「どう感じているか」「どう過ごしていきたいか」を大切にしていきましょう。

次章では、病院やカウンセリングに頼るだけでなく、自分自身でできる心のセルフケアや日常生活での整え方について詳しく解説していきます。あなたの心が少しずつ穏やかになるヒントをお伝えしていきます。

第四章:自分でできる不安や不調への対処法

医療機関や専門家のサポートはとても心強いものですが、「普段の生活の中でできること」に目を向けることも、心の安定にはとても大切です。

日々のセルフケアは、小さな積み重ねが心身の回復力を育ててくれます。

この章では、深呼吸やマインドフルネスなどの具体的な方法から、生活習慣の見直し、感情の扱い方まで、不安や不調と上手に付き合うためのシンプルな実践法をご紹介します。

今すぐに取り入れられるヒントがきっと見つかるはずです。

深呼吸・マインドフルネス・ジャーナリングなどの簡単なセルフケア

深呼吸:感情の波をやさしくなだめる

不安や緊張が高まっているとき、呼吸は浅く速くなりがちです。深くゆっくりとした呼吸は、副交感神経を優位にし、自然と心拍や筋緊張を落ち着かせてくれます。

おすすめの腹式呼吸法:4-4-8法

STEP1
鼻から4秒かけて息を吸う
STEP2
4秒間息を止める
STEP3
口から8秒かけてゆっくり吐く

これを3〜5回繰り返すだけでも、気持ちが安らぎやすくなります。

マインドフルネス:今この瞬間に戻る

マインドフルネスとは、「今この瞬間に意識を向ける」心のトレーニングです。不安や不調に悩むときは、過去の後悔や未来の不安に意識が引っ張られていることが多いため、現在に意識を戻すだけでも心は軽くなります。

実践方法(1分でできる)

  • 静かな場所に座る
  • 呼吸に意識を向け、「吸っている」「吐いている」と心の中で唱える
  • 思考が浮かんでも否定せず、「考えが浮かんだ」と気づいて呼吸に戻す

マインドフルネスについて詳しく知りたい方はこちら → マインドフルネスの効果を脳科学で解説|集中力・睡眠・ストレス・うつ病に効く理由とは?

ジャーナリング:心のもやもやを書き出す

頭の中で考えていることを「紙に書く」だけで、不安や混乱が整理されやすくなります。これがジャーナリングです。
「どう感じているか」「何が気がかりか」「何を望んでいるか」など、思ったことを自由に書き出してみましょう。

書き出すだけで脳の情報処理が進み、自然と気持ちが整っていく感覚が得られる人も多いです。


スマホ・カフェイン・生活リズムの見直しによる心身の調整

生活習慣は、心の安定と深く関係しています。以下の3つは特に見直す価値が高いポイントです。

スマホの使用を見直す

情報の多さ、通知の音、SNSでの比較意識…。スマホは無意識のうちに脳に“緊張状態”を与えています。

対策ポイント:

  • 就寝1時間前は画面から離れる(ブルーライトが睡眠に影響)
  • 通知をオフにする/SNSの使用時間を制限する
  • スマホから離れて“無刺激の時間”を持つ

カフェインとの付き合い方

コーヒーやエナジードリンクなどに含まれるカフェインは、交感神経を刺激し、気持ちを高ぶらせる作用があります。不安や動悸が強い人には、少量でも過敏に反応することがあります。

対策ポイント:

  • カフェインの摂取は午後2時までに控える
  • 緑茶やハーブティー(カモミール・ルイボス)などを代用する

睡眠・起床時間の安定

生活リズムの乱れは、自律神経のバランスに直結します。特に「朝の光を浴びること」は、セロトニン(心を安定させる神経伝達物質)を活性化する上でとても大切です。

小さな習慣の例:

  • 朝起きたらカーテンを開けて光を浴びる
  • 休日も起床時間を大きくズラさない
  • 寝る前のスマホ断ち・照明を落とすなど、入眠儀式をつくる

「自分の感情に名前をつけてみる」など、感情認識のトレーニング

「なんだかモヤモヤする」「理由はわからないけど不安」——このような曖昧な気持ちを、少しでも言語化することが、感情を落ち着ける第一歩になります。

感情を言葉で認識することで、脳の前頭前野が働き、扁桃体(恐怖や不安を感じる部分)の活動が落ち着くことがわかっています。これは「感情のラベリング」と呼ばれ、認知行動療法などでも取り入れられています。

STEP1
今の気分を一言で表すなら?(例:イライラ/不安/焦り/さみしさ)
STEP2
その感情を感じた“きっかけ”は?
STEP3
その感情に「OK」を出す(例:「そう思ってもいいよ」「無理もないよ」)

感情に「良い・悪い」の評価をせず、ただ名前をつけてみる。これだけでも、自分の心に寄り添う第一歩になります。

まとめ
  • 深呼吸やマインドフルネスで神経を落ち着け、今に意識を戻すことができる
  • ジャーナリングは思考の整理や感情の外在化に役立つ
  • スマホやカフェイン、睡眠リズムは心の安定に影響大
  • 感情に名前をつけて言葉にすることで、脳が落ち着きやすくなる
  • 小さなセルフケアの積み重ねが、心の安定力を高めていく

自分の手で心を整えるための方法には、特別な道具も、難しい知識も必要ありません。むしろ、毎日の中で「どう感じているか」に気づくこと、それにやさしく応えてあげることが、心の回復には大切なのです。

次章では、そうしたセルフケアや生活習慣が、実際にどのようにメンタルヘルス全体に影響するのか、科学的な観点から紐解いていきます。心のケアが「自分らしく生きること」につながっていくプロセスをご一緒に見ていきましょう。

第五章:必要に応じた専門的サポートの受け方

セルフケアや生活習慣の見直しは心の安定にとても大切ですが、時には「一人では抱えきれない」と感じることもあるでしょう。そんなときにこそ、専門的なサポートを受けることは、とても自然で大切な選択です。

相談する相手がいること、自分のことを理解しようとしてくれる人がいること。それだけで、心は少しずつ回復へと向かっていきます。

この章では、心理カウンセリングの種類や資格の違い、公的機関や継続支援の受け方など、サポートの選び方についてわかりやすくご紹介します。

心理カウンセリングの種類と利用タイミング

「カウンセリングを受けるのは重い悩みのある人だけ」と思われがちですが、実際はもっと幅広い場面で利用されています。少しでも心に負担を感じたとき、それは十分カウンセリングを検討するタイミングです。

主なカウンセリングの種類

  1. 来談者中心療法(ロジャーズ式)
     ― クライエントの話を共感的に受け止め、自己理解を促すスタイル。穏やかに気持ちを整理したい人に適しています。
  2. 認知行動療法(CBT)
     ― 思考のクセや行動パターンを見直す実践的アプローチ。不安やうつ、パニック、強迫などにエビデンスがあります。
  3. 精神分析的カウンセリング
     ― 無意識や過去の体験を深く掘り下げ、自分の内面と丁寧に向き合っていく療法。時間をかけてじっくり向き合いたい人向けです。

受けるべきタイミング

  • 話を聞いてもらいたいのに、身近に相談できる人がいない
  • 不安や落ち込みが2週間以上続いている
  • 対人関係や仕事、家族のことで常に心が休まらない
  • 「自分のことがよくわからない」と感じる

これらの状態は、「我慢せずに話していい」サインです。


公認心理師・臨床心理士など資格と役割の違い

カウンセラーにもさまざまな資格があり、それぞれの役割や活動領域が異なります。

公認心理師(国家資格)

2017年に創設された唯一の心理職の国家資格です。医療機関・学校・企業・福祉分野など幅広く活動しています。医師と連携することも多く、保険診療の一部として関わるケースもあります。

臨床心理士(民間資格・日本臨床心理士資格認定協会)

長年にわたり心理支援の専門家として社会的信頼を築いてきた資格です。教育・医療・司法・産業分野などで幅広く活躍しています。

※公認心理師と臨床心理士を両方保持しているカウンセラーも多くいます。

項目公認心理師臨床心理士
資格区分国家資格民間資格
活動領域医療・教育・産業・司法全般主に医療・教育分野
関連制度医師の指示下での活動が前提自律的な活動が中心

どちらの資格であっても、重要なのは相性と信頼感です。


自治体や学校・職場などの相談窓口も検討対象になる

身近な場所にも、相談できる窓口はたくさんあります。すべてを一人で背負わなくても、まずは「つながる」ことから始めてみましょう。

自治体の相談窓口

  • 保健所・精神保健福祉センター:うつ・不安・依存などの相談を無料で受け付けている地域機関
  • 子育て支援センター・女性相談センター:ライフステージごとの不安に対応
  • 市区町村の福祉課:経済的・生活的困難も含めて支援が可能

学校のスクールカウンセラー・保健室

学生であれば、スクールカウンセラーや保健室の先生に気軽に相談してOKです。専門職が在籍している場合もあります。

企業の産業医・EAP(従業員支援プログラム)

会社員の場合、職場にも相談窓口があるケースがあります。産業医やEAP担当のカウンセラーに相談すれば、職場環境の調整や専門機関への橋渡しもしてもらえることがあります。


「一度話しただけでは変わらなかった」と感じる方もいるかもしれません。しかし、心のケアは“薬のように即効性がある”ものではなく、時間をかけて整えていくプロセスです。

継続することのメリット

  • 安心できる「居場所」として心の避難所になる
  • 少しずつ自分の感情やパターンに気づけるようになる
  • 対話を通して、新しい視点や選択肢が見えてくる

カウンセリングを継続するポイント

  • 初回で相性を判断せず、2〜3回通ってみる
  • 「話すことがない」ときこそ、心の揺れに気づくチャンス
  • 定期的に振り返ることで、自分の変化を実感できる

継続支援の中で、自分の心を“育てていく”感覚を持てるようになっていきます。

まとめ
  • カウンセリングは気軽に受けてよいもので、重い悩みに限定されない
  • 心理支援には多様なアプローチがあり、自分に合った方法が選べる
  • 公認心理師・臨床心理士にはそれぞれ得意分野がある
  • 自治体・学校・職場など、無料や身近な相談窓口も活用できる
  • 継続的な対話は、心の回復と成長にとってとても大切なプロセス

「病気ではない」と言われたけれど、つらさが続く。そんなときに自分の感覚を信じ、セルフケアと専門家の支援をバランスよく活用していくことは、心の安定を取り戻す大切な一歩です。

本記事では、心と体の不調の背景から、実践的なケア、専門家との関係づくりまでを段階的にご紹介してきました。あなたの心に少しでも安心が届き、「自分はこのままでも大丈夫」と感じられるようになることを心から願っています。