リーダーシップに「正解」はあるのでしょうか?カリスマ性があればいい、厳格に指導すれば成果が出る——そんな単純な話ではありません。人と人との関係性や、仕事の性質、職場環境によって、求められるリーダー像は大きく変わります。
こうした考え方を体系化したのが「フィードラーのコンティンジェンシー理論」です。この理論は、リーダーの資質そのものよりも、「どのような状況に適したリーダーなのか?」という視点で、マネジメントを考える重要な手がかりになります。本記事では、この理論の基本から実際の現場での応用まで、わかりやすく解説していきます。
第1章:フィードラーのコンティンジェンシー理論とは?
「フィードラーのコンティンジェンシー理論」という言葉を初めて聞いた方も多いかもしれません。この理論は、リーダーシップのあり方を「状況によって変わる」と捉えるもので、リーダーの性格やスキルだけでなく、「どんな場面で活躍できるか」を重視します。
ビジネスや教育、医療など、組織で人を導く立場にある方々にとって、この理論を理解することは、チームの力を引き出す大きなヒントになります。まずはその概要を、丁寧にひもといていきましょう。
■ 理論の成り立ちと背景
「フィードラーのコンティンジェンシー理論」は、アメリカの心理学者フレッド・フィードラーによって1967年に提唱されました。彼は当時主流だった「万能型リーダー」の考え方に疑問を持ち、「すべての場面で有効なリーダーシップスタイルは存在しない」と主張しました。
この理論の最大の特徴は、「リーダーのスタイル」と「状況要因」の組み合わせによって、成果が変わるという点にあります。リーダーが変わるべきなのか、状況に合うリーダーを選ぶべきなのか——この理論は後者を支持しています。
■ 「LPCスコア」でリーダーシップスタイルを測定
フィードラーは、リーダーのスタイルを客観的に把握するため、「LPC(Least Preferred Coworker)スコア」という心理尺度を用いました。
LPCスコアとは、リーダー自身が「最も仕事しにくかった同僚」をどのように評価するかによって、自身のリーダーシップ傾向を測るものです。
- 高LPCスコアの人:どんな相手に対しても良い面を見つけやすい=人間関係重視型
- 低LPCスコアの人:仕事の能力や成果を優先して判断する=タスク重視型
つまり、LPCスコアはリーダーの「対人スタイル」を浮き彫りにします。
■ 成功するリーダーシップは「状況依存」
理論のもうひとつの柱が「状況要因」です。フィードラーは、以下の3つの観点から、リーダーにとっての状況の“好ましさ”を分類しました。
状況要因 | 内容 |
---|---|
リーダーとメンバーの関係 | 信頼関係や相互理解の程度(信頼が高いほど状況は「好ましい」) |
課題の構造 | 業務の明確さ・手順化の程度(ルールがあるほど好ましい) |
権限の強さ | リーダーに与えられた裁量や正式な権限の大きさ(強いほど好ましい) |
この3つの要素が強く備わっていれば、「好ましい状況」となり、逆に信頼関係が薄く、タスクが曖昧で、権限も弱ければ「好ましくない状況」とされます。
■ 状況ごとに「合う」リーダーが異なる
ここで重要なのが、「どんな状況に、どんなタイプのリーダーが合うのか」というマッチングの視点です。
フィードラーの研究によると、以下のような傾向があることがわかっています。
- 好ましい状況/好ましくない状況では…
→ タスク重視型(低LPC)が成果を上げやすい - 中間的な状況では…
→ 人間関係重視型(高LPC)のほうが効果的
これは意外に思えるかもしれませんが、関係性が良好で環境が整っているときには、タスク志向の明快な指示がチームをさらに引き上げ、逆に混乱している場面では強い指導が必要になります。一方、中途半端な環境では、共感や調整が成果に寄与しやすいのです。
■ リーダーは変わるべき?それとも配置を変えるべき?
フィードラー理論の立場は、「人の性格やスタイルは簡単には変えられない」という現実的なものです。つまり、「合わない場面でリーダーが無理にスタイルを変えるより、その人に合った環境に配置するほうが合理的だ」という提案です。
これは、マネジメントにおける配置転換やチーム編成の根拠としても応用できます。
■ 心理的な含意:リーダー像の多様性を受け入れる
この理論は、心理学的にも大きな意味を持ちます。「良いリーダー」とは絶対的な存在ではなく、「その場にふさわしいリーダー」こそが重要であるという考え方です。
これは、自己肯定感や自分のスタイルに悩むリーダーにとって、大きな救いにもなり得ます。「自分にはこのチームは合わないのでは」と感じることも、決して能力不足ではなく、“相性”や“状況”の問題である可能性があるのです。
- フィードラー理論は「状況によって適したリーダーが異なる」とする理論です
- リーダーのスタイルは「LPCスコア」で測定されます
- タスク重視型と人間関係重視型が、状況によって異なる成果を上げる
- リーダーを変えるよりも「環境との適合」を重視する立場です
- リーダー像の多様性を尊重する視点を提供します
フィードラーの理論では、「リーダー自身の特徴」だけでなく、「状況要因」が極めて重要だとされていました。では、その「状況」とは具体的にどのように捉えればよいのでしょうか?
次章では、リーダーシップの成果に影響を与える3つの状況要因について、より詳しく解説していきます。あなたのチームの状態を振り返りながら、どのようなリーダーが求められているのかを考えてみましょう。
第2章:状況要因で変わる最適なリーダーシップ
リーダーに求められる資質は、リーダー自身の「性格」や「カリスマ性」だけで決まるわけではありません。むしろ、その力が発揮されるかどうかは、チームの状態や業務の性質、組織の構造といった「状況」に大きく左右されます。
フィードラーのコンティンジェンシー理論では、リーダーシップの効果を決定づける3つの状況要因が明示されています。ここでは、それぞれの要因について詳しく解説し、あなたのチームにどのような影響を与えているのかを一緒に見ていきましょう。
■ 状況要因①:リーダーとメンバーの関係性(Leader-Member Relations)
最初の要因は「リーダーとメンバーの関係性」です。
これはチーム内に信頼・尊敬・親近感といった感情がどれほど存在しているかを示します。フィードラーはこの関係性がリーダーシップの土台になると考えました。
- 関係性が良好な場合:メンバーはリーダーの指示を信頼し、自主的に動く傾向が強まります。
- 関係性が希薄な場合:命令がうまく伝わらなかったり、抵抗や不安が生まれやすくなります。
たとえば、異動してきたばかりの管理職が、前任のリーダーと比べられたり警戒されたりして関係が築けていないと、指示が浸透しにくくなるのは当然のことです。
この関係性を築くには、日々の対話や共感の姿勢、小さな信頼の積み重ねが不可欠です。
■ 状況要因②:タスクの構造化(Task Structure)
2つ目の要因は「タスクの構造化」です。これは、リーダーが管理する業務内容がどの程度明確に定義されているか、という点を指します。
- 高構造なタスク:目的や手順が明確で、進捗も客観的に評価できる(例:製造ライン、事務処理など)
- 低構造なタスク:目的が抽象的で、達成の定義も人によって違う(例:企画・創造系の業務、研究など)
タスク構造がしっかりしていると、リーダーがメンバーの動きを管理しやすくなります。一方、構造が曖昧だと、リーダーは柔軟な対応やコミュニケーション能力がより問われることになります。
たとえば、KPIが明確な営業チームではタスク構造が高く、目標達成の管理も比較的しやすいですが、新規事業開発チームのように「成功の定義が不明瞭」な業務では、メンバーの動機づけや対話の工夫が求められます。
■ 状況要因③:リーダーの地位権力(Position Power)
最後の要因は「リーダーの権限の強さ」です。これは、リーダーがどれだけ公式に決定権を持ち、部下に対して影響を与える裁量があるかを表します。
- 強い権力:人事評価、昇進、賞罰などを決められる(例:部長職、社長直轄プロジェクトリーダー)
- 弱い権力:名目上の責任はあるが、実際の裁量は小さい(例:調整役的な係長、任命制プロジェクトリーダー)
権限が強い場合は、ルールと秩序に基づいてチームを動かせますが、権限が弱い場合は、信頼や関係性に頼る必要があります。現代の「フラットな組織」では、あえて権限を限定することもありますが、その分、対話や合意形成の能力が重要になります。
■ 状況を組み合わせることで「好ましさ」が決まる
フィードラー理論では、これら3つの状況要因を組み合わせて総合的に判断し、リーダーにとっての「好ましさ(favorableness)」を7段階に分類します。
状況構成 | 好ましさ | 合うリーダータイプ |
---|---|---|
関係性良好・構造高・権限強 | 非常に良い | タスク重視型(低LPC) |
すべてが不十分 | 非常に悪い | タスク重視型(低LPC) |
関係性中程度・構造中程度 | 中程度 | 人間関係重視型(高LPC) |
つまり、「状況が極端に良いか悪いとき」は明快なタスク指向型のリーダーが効果的で、「中間的な混沌とした状況」では、共感的で柔軟な関係構築型リーダーが力を発揮しやすいということです。
- フィードラー理論では、3つの状況要因が成果を左右すると考えます
- 「関係性」「タスクの構造」「リーダーの権限」が組み合わさって状況が形成される
- 状況が極端(良好/悪化)なときはタスク重視型、曖昧な中間状況では人間関係重視型が有効
- 状況はリーダーの特性と「合うかどうか」で判断される
リーダーシップの有効性は、状況とスタイルの“適合”によって大きく変わることがわかってきました。
では、他のリーダーシップ理論と比べたとき、フィードラーの考え方にはどんな違いがあるのでしょうか?
次章では、SL理論(状況対応型リーダーシップ)やPM理論といった他の理論と比較しながら、「リーダーは変わるべきか、それとも環境を整えるべきか」という永遠のテーマを掘り下げていきます。
第3章:他のリーダーシップ理論との違い
フィードラーのコンティンジェンシー理論は、「リーダーにとって何が“効果的”かは、状況によって変わる」という前提をもとに構築されました。しかし、実はこの考え方に近いアプローチは他にも存在します。
この章では、SL理論(ハーシー&ブランチャードの状況対応理論)やPM理論(リーダーの二軸モデル)と比較しながら、フィードラー理論のユニークな点や、リーダーシップに対するアプローチの違いを明らかにしていきます。
それぞれの理論の特徴を知ることで、自分のリーダー像やマネジメントスタイルをより深く見直す手がかりになるでしょう。
■ SL理論との比較:リーダーが変化するという発想
SL理論(Situational Leadership Theory)は、ポール・ハーシーとケン・ブランチャードによって提唱された理論で、部下の成熟度に応じてリーダーが「スタイルを変える」ことを重視しています。
SL理論における主な指導スタイルは以下の4つです:
スタイル | 特徴 | 適する状況例 |
---|---|---|
指示型 | 明確な指示と監督を行う | 経験が浅く、指示を求める部下 |
コーチ型 | 指示+対話で動機づけする | やる気はあるがスキルが未熟な部下 |
支援型 | 共感的にサポートする | スキルはあるが自信のない部下 |
委任型 | 自主性に任せる | スキル・意欲ともに高い部下 |
🔸フィードラー理論との違いは、「変えられるもの」と「変えられないもの」の扱いにあります。
- フィードラー理論:リーダーの性格は変わらない → 状況に適合させる
- SL理論:リーダーは状況に応じてスタイルを柔軟に変える
この違いは、実践的なマネジメントにおいて非常に重要な視点です。特に教育的な現場や若手育成においては、SL理論の柔軟性が力を発揮しやすいと言えます。
■ PM理論との比較:二軸モデルで見るリーダーシップ
日本の社会心理学者・三隅二不二が提唱したPM理論(Performance-Maintenance理論)も、状況に応じたリーダー像を探る上で参考になります。
PM理論では、リーダーの行動を以下の2軸で捉えます:
- P(Performance)機能:目標達成や成果を重視する行動
- M(Maintenance)機能:チームの人間関係や雰囲気づくりを重視する行動
この2軸を高・低の組み合わせで4つのスタイルに分類します。
スタイル | 特徴 |
---|---|
P高・M高 | 成果にも人間関係にも配慮する理想型 |
P高・M低 | 厳しく効率重視で引っ張るスタイル |
P低・M高 | 優しく協調性はあるが成果が弱いタイプ |
P低・M低 | 組織に悪影響を与える非機能型 |
🔸フィードラー理論との共通点と相違点:
- 共通点:リーダーのスタイルを2種類に分ける点(タスク vs 関係性)
- 相違点:フィードラー理論は「スタイル×状況」で成果を見るが、PM理論は「バランスの良い行動」を理想とする
PM理論は行動科学的であり、行動の修正・学習が前提になっているため、「育てるリーダー像」に向いています。
■ トランスフォーマショナル・リーダーシップとの違い
もう一つ注目すべき現代的な理論が、トランスフォーマショナル・リーダーシップ(変革型リーダーシップ)です。
この理論は、組織の価値観や目標そのものを変えるような、ビジョン志向のリーダー像を描きます。
要素 | 内容 |
---|---|
カリスマ性(理想化された影響) | リーダーの信念や姿勢に人が共鳴する |
インスピレーション動機づけ | 明確なビジョンで行動を方向づける |
知的刺激 | 新しい視点・挑戦を促す |
個別的配慮 | 個々のメンバーの成長を支援する |
🔸フィードラー理論との違いは、「感情や価値観への働きかけ」の有無です。
- フィードラー理論:環境と特性の適合に重点
- 変革型リーダー:人の心に火をつけ、組織そのものを変革する
とはいえ、トランスフォーマショナル・リーダーにも状況への適応力は求められるため、理論を併用的に理解することが重要です。
■ 理論の正解はひとつではない
ここまで見てきたように、各理論には強みと前提があります。どの理論が「正しい」わけではなく、自分の置かれている立場や、組織のフェーズによって適した理論が異なるのです。
- スタートアップや新規プロジェクトには変革型リーダーシップ
- 組織が安定している環境ではPM理論やフィードラー理論
- 若手育成や日々のマネジメントにはSL理論
こうした視点で、「使い分ける」ことが賢明なアプローチとなるでしょう。
- SL理論は「リーダーが柔軟に変わる」ことを重視する
- PM理論は「成果と関係性のバランス」を測る二軸モデル
- トランスフォーマショナル理論は「感情や価値への働きかけ」に焦点を当てる
- フィードラー理論は「性格やスタイルの不変性」と「状況との適合」を前提とする
- それぞれの理論は、場面ごとに適切な活用が求められる
理論を理解するだけでは、リーダーとして実際に行動する際に迷いが残るかもしれません。「じゃあ、実際にどうやってこの理論を現場に活かせばいいの?」という声も聞こえてきそうです。
次章では、フィードラーのコンティンジェンシー理論を実際の組織運営やチームマネジメントにどう応用するか、より実践的なヒントをご紹介します。LPCスコアを踏まえた配置転換や、チーム環境の整え方など、リーダーが“無理なく”成果を引き出す工夫を探っていきましょう。
第4章:フィードラー理論の現場での活かし方
「フィードラー理論は理解できたけれど、現場でどう使えばいいの?」という疑問を抱かれる方も多いかもしれません。実際にマネジメントに携わる現場では、理論だけでなく現実的な対応策が求められます。
この章では、LPCスコアの活用方法や、状況に合ったリーダー配置のヒント、チーム環境の整え方など、フィードラー理論を実務に落とし込むための具体的なアプローチを紹介していきます。
リーダーとしての「適応」ではなく、「適所適材」を重視した戦略的な組織運営のヒントを得られる内容です。
■ LPCスコアを“診断”に使うという視点
まず重要なのは、自分のLPCスコアを把握することです。
これは、誰とでも良好な関係を築こうとする「人間関係重視型」か、仕事の成果を最優先する「タスク重視型」かを見極める指標です。
▶ 例:簡易的なLPCチェックリスト(7段階評価)
- 「仕事がやりにくかった同僚」を、以下の尺度で評価してみましょう:
評価項目 | スコア範囲 |
---|---|
協力的か・非協力的か | 1〜7点 |
親しみやすいか | 1〜7点 |
信頼できるか | 1〜7点 |
感情的・冷静か | 1〜7点 |
合計スコアが高ければ人間関係重視型、低ければタスク重視型と考えられます。
この簡易的なセルフチェックでも、自分の傾向を知る手がかりになります。職場の管理職研修や1on1の場でも活用できるでしょう。
■ スタイルを変えるのではなく「配置」を工夫する
フィードラー理論では、リーダーの性格やスタイルは固定的とされており、それを無理に変えようとするよりも、「その人が最も力を発揮できる場所に配置する」ことを重視します。
▶ 活用例:
- タスク重視型リーダー(低LPC)を、権限が明確で、目的のはっきりしたプロジェクトへ配置
- 人間関係重視型リーダー(高LPC)を、信頼関係の構築が重要なチーム再編プロジェクトへ投入
これは、組織における「適材適所」の発想と一致します。人事評価においても、リーダーの性格やスタイルに合わせた役割設計が求められます。
■ チーム環境を“整える”という逆のアプローチ
また、リーダーを変えるのではなく、状況側を変える=環境整備によって、既存のリーダーの力を引き出す方法もあります。
▶ 具体的な改善の例:
- 信頼関係が薄い場合:定期的な1on1ミーティング、雑談タイムの導入、心理的安全性の醸成
- タスク構造が曖昧な場合:KPIの再設計、ガイドラインの明確化、業務マニュアルの整備
- 権限が弱い場合:上層部の明文化されたバックアップ、権限委譲の明示
このように、環境のチューニングによって、リーダーの「本来の力」を引き出すことも十分に可能です。
■ チームリーダー以外の人がこの理論を活かすには?
フィードラー理論は、リーダー本人だけでなく、上司や人事部、プロジェクト設計担当者にとっても有用です。
- 組織再編時におけるリーダー配置の検討
- 新任管理職の配属先検討
- 問題のあるチームの要因分析(リーダーと環境の相性)
たとえば、業績不振のチームに対して、「リーダーが悪い」のではなく、「リーダーと環境の相性が悪い」のかもしれません。そうした分析視点を持つだけで、対策が変わります。
■ 「万能のリーダー」ではなく「合う場面で活躍できる人材」
フィードラー理論の最大のメッセージは、「誰もがリーダーとして活躍できる可能性がある」ということです。
- 柔軟で穏やかな人は、関係構築の場で力を発揮できる
- 論理的で厳格な人は、混乱した現場や目標達成に強い
リーダーは「変わらなければいけない」と思い詰める必要はありません。自分に合った場所を見つけるか、周囲が環境を整えることで、力を発揮できる場面が必ずあります。
- LPCスコアを把握することで、自分のリーダータイプを知ることができる
- フィードラー理論では、リーダーのスタイルを無理に変える必要はない
- 環境を変える、もしくは合う場所に配置することでリーダーは力を発揮しやすくなる
- 人事配置やチーム再編にも活用できる理論であり、「適材適所」の判断材料になる
- リーダー像に悩む人にも、安心とヒントを与える心理的視点を持つ理論である
ここまで、フィードラー理論の考え方や応用の具体例を見てきました。しかし、最後にもう一度立ち止まって考えたいのは、「自分自身のリーダーシップスタイル」です。
本当に自分に合っているスタイルとは?自分の強みや限界をどう見つければいいのでしょうか?
次章では、LPCスコアをもとに自己理解を深めるワークや、チームと自身の相性を考えるヒントをご紹介します。理論を「自分ごと」として落とし込み、明日からの行動に役立てるためのステップです。
第5章:自分のリーダーシップスタイルを見つめ直す
リーダーシップの理論を学ぶだけでなく、「自分はどんなリーダーなのか?」を見つめ直すことも大切です。
フィードラー理論が教えてくれるのは、「どんなリーダーにも活躍できる場所がある」というメッセージ。そして、自分自身のスタイルを知ることが、より良いチーム運営や人間関係の第一歩になります。
この章では、簡易的な自己診断や振り返りのワークを通して、あなた自身のリーダーシップスタイルを客観的に見つめ直していきましょう。自信を持って行動するためのヒントを、ここで一緒に探ってみませんか?
■ まずは自分のLPCスコアをチェックしてみよう
自分のリーダーシップ傾向を知るには、LPCスコアを用いた簡易診断が役立ちます。
以下は、7段階で「仕事がしづらかった相手」をどう評価するかによって傾向を探るチェックリストです。
▶ 簡易LPCチェックリスト(1=とても否定的、7=とても肯定的)
評価項目 | 1〜7点 |
---|---|
信頼できる | |
協力的 | |
温かい | |
有能 | |
好ましい | |
優しい | |
礼儀正しい | |
理解がある |
▶ 合計スコアの目安:
- 64点以上:高LPC → 人間関係重視型
- 63点以下:低LPC → タスク重視型
※これはあくまで参考値であり、診断ではなく「傾向」を把握するための目安です。
■ 自分の過去を振り返ってみる
LPCだけでなく、過去の自分の行動傾向を振り返ることも大切です。
以下の問いを使って、自分のマネジメントスタイルを振り返ってみてください。
▶ 自己振り返りワーク:
- 困難なチーム運営に直面したとき、私は何を最優先に考えたか?
- 部下の失敗に対して、まず最初に感じたことは?
- チーム内のトラブルに対して、自分はどう介入したか?
- 結果よりもプロセスを重視することが多いか、逆か?
こうした振り返りから、自分が「人をどう見るか」「成果をどう捉えるか」という価値観に気づけるはずです。
■ 「変わる」よりも「選ぶ」勇気を持つ
自己理解が進むと、「今の自分ではこの状況に合わないかもしれない」と感じる場面も出てくるかもしれません。
そんなとき、無理に自分を変えようとするのではなく、「合う環境を選ぶことも戦略」だと考えることが大切です。
たとえば:
- 人間関係重視型の人が、急激な改革を求められるプロジェクトに投入された場合、無理をして疲弊してしまうことがあります。
- タスク重視型の人が、感情面での配慮を重視する部署に異動すると、摩擦が生まれることもあります。
こうした場面では、自分を責めるのではなく、「相性の問題かもしれない」と認識するだけで、心が少し楽になるものです。
■ リーダーではない人にも活かせる視点
この理論は、管理職やリーダーだけでなく、部下やチームメンバーにも応用可能です。
- 上司のスタイルを理解する
- チーム内のリーダーシップの偏りを見直す
- 自分がどのような場面で補助的にリーダーシップを発揮できるかを考える
「リーダーは誰かひとり」と決めず、状況に応じて役割を変え合う柔軟なチームが、実は一番力を発揮できるのかもしれません。
- LPCスコアは、自分のリーダータイプを知る手がかりになる
- 自分の過去の行動を振り返ることで、リーダーとしての傾向が見えてくる
- 無理に変わるよりも、合う環境を選ぶという考え方も重要
- フィードラー理論は、自己理解とチーム形成に役立つ視点を与えてくれる
- リーダーでない立場でも、「合う場面で力を発揮する」意識が活かされる
フィードラーのコンティンジェンシー理論は、単なるリーダーシップ理論ではなく、「人は状況によって力を発揮できる」という前向きなメッセージを含んでいます。
すべての人に万能なリーダー像を求めるのではなく、自分の強みや傾向を知り、それに合った場面で役割を果たすこと。それが、この理論が私たちに教えてくれる大切な知恵です。
仕事や組織の中で、少しでも息苦しさを感じたとき、自分に問いかけてみてください。「いまの自分は、この状況に合っているのだろうか?」と。きっと、リーダーシップに対する見方が少し柔らかく、優しいものになるはずです。