「最近イライラしやすい」「やる気が出ない」「頭がずっと冴えていて眠れない」
――そんな心と体の不調を感じていませんか?
もしかすると、それは“ノルアドレナリン”という脳内の物質が関係しているかもしれません。
ノルアドレナリンは、集中力やストレス反応に関わる重要な神経伝達物質です。
このページでは、ノルアドレナリンの基本的な働きから、過不足による症状、治療、そして日常でできるセルフケアまを、やさしく丁寧に解説していきます。
ノルアドレナリンとは
“闘争か逃走”を司る神経伝達物質
ノルアドレナリン(別名:ノルエピネフリン)は、私たちの体と心を“いざというとき”に備えさせる重要な働きをしている物質です。
「闘争か逃走(fight or flight)」という言葉に象徴されるように、ノルアドレナリンは危険やプレッシャーに直面したときに、私たちを“行動するモード”に切り替えるスイッチのような存在です。
ノルアドレナリンの主な分泌場所
ノルアドレナリンは、脳幹の一部である「青斑核(せいはんかく)」という部位から分泌され、脳内で神経細胞の間を移動して、情報を伝える役割を担っています。
一方で、脳以外の体内でも作られており、特に腎臓の上にある副腎髄質から分泌されると、血液に乗って全身へと送られ、ホルモンのように働きます。
つまり、ノルアドレナリンは
- 脳内では神経伝達物質として
- 体内ではホルモンとして
という、“二刀流”のような働き方をしているのです。
「交感神経」との関係
ノルアドレナリンは、自律神経のうちの交感神経系と密接に関係しています。
交感神経は、日中の活動時やストレスを感じたときに働きが高まり、私たちを“戦闘態勢”に導く神経です。
交感神経が活性化されると、ノルアドレナリンの分泌が一気に高まり、心と体を瞬時に緊張モードに切り替えてくれます。
たとえば、面接や試験、スポーツの試合などの直前――誰もが「緊張する」場面では、ノルアドレナリンの働きによって、以下のような生理的変化が起こります。
生理反応 | ノルアドレナリンの作用 |
---|---|
心拍数の上昇 | 血液を素早く全身に送ることで、筋肉や脳に酸素と栄養を届ける |
瞳孔の拡大 | 周囲の危険や変化を敏感に察知できるようにする |
血糖値の上昇 | 即座に動けるよう、エネルギー源を確保する |
消化の抑制 | 食べ物を消化するより、命を守る行動を優先させる |
これらはすべて、「身を守る」「集中して立ち向かう」ための準備として起こる、とても自然な反応です。
“緊張しやすい自分”を責めなくていい
多くの人が「緊張しすぎてうまくいかなかった…」と落ち込むことがありますが、実はそれだけノルアドレナリンがしっかり働いてくれていた証拠でもあります。
緊張や不安が強く出るとつらく感じるかもしれませんが、そうした反応は「心と体が一生懸命守ろうとしている」サインでもあるのです。
つまり、「ノルアドレナリンが出ること=悪いこと」ではなく、むしろ生きる力の一部なんですね。
大切なのは、そのバランスが崩れすぎていないかに気づき、優しく整えていくことです。
次に、他の有名な神経伝達物質であるセロトニンやドーパミンと、ノルアドレナリンがどのように関係しているのかを見ていきます。
実はこれら3つは、心のバランスに深く関わっている「三大神経伝達物質」とも呼ばれています。
セロトニン・ドーパミンとの相互作用
ノルアドレナリンという言葉を聞くと、どうしても「ストレス」「緊張」「闘争本能」といった強いイメージが先に思い浮かぶかもしれません。
でも、私たちの心のバランスは、ノルアドレナリンひとつで成り立っているわけではありません。
実は、「セロトニン」「ドーパミン」という2つの神経伝達物質と密接に関わりながら、心の状態を微妙に調整してくれているのです。
この章では、この3つの物質がどのように異なり、どう補い合っているのかを紐解いていきます。
■ 三大神経伝達物質のちがいと役割
それぞれの物質の働きと、不調のときに現れやすい影響を、まずは簡単に整理してみましょう。
神経伝達物質 | 主な役割 | 不足したときの傾向 | 関連する主な疾患例 |
---|---|---|---|
ノルアドレナリン | 覚醒、集中、ストレス対応 | 無気力、抑うつ、反応が鈍くなる | うつ病、不安障害、ADHD |
セロトニン | 心の安定、安心感、睡眠調整 | イライラ、情緒不安、不眠 | うつ病、パニック障害、強迫症 |
ドーパミン | 快感、やる気、報酬への反応 | 興味がわかない、快感が薄れる | ADHD、統合失調症、依存症 |
このように、それぞれが違う“役割”を持ちながら、互いに関係しあって心の働きを支えていることがわかります。
■ セロトニンとの関係:うつ病との深い関わり
うつ病というと「気分が落ち込む病気」というイメージが強いですが、実際には「気分の波がなくなってしまう」「何をしても心が動かない」といった“感情の平坦化”のような状態が起こることがあります。
このとき、脳内ではセロトニンとノルアドレナリンの両方が不足していることが多いといわれています。
セロトニンが不足すると、気持ちが不安定になりやすく、安心感が薄れていき、そこにノルアドレナリンの不足が加わると、意欲や集中力も下がり、日常生活がさらにつらくなってしまうのです。
こうした背景から、医療の現場ではSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)という薬が用いられることがあります。
これは、セロトニンとノルアドレナリンの両方の濃度を穏やかに高め、心のバランスを取り戻すことを目指す治療法です。もちろん、薬だけに頼るのではなく、心理療法や環境調整と組み合わせることが大切です。
関連記事)
・セロトニンを増やす方法|食事・生活(睡眠)習慣・運動で「幸せホルモン」を活性化!
・うつ病の初期症状と原因・治療法|精神科を受診する前に読むべき知識
■ ドーパミンとの関係:やる気とストレスを支えるバランス
ドーパミンは、何かを達成したときの「やった!」という快感や、「これをやりたい」という意欲に関わる物質です。
一方、ノルアドレナリンは「失敗しないように気をつけよう」「今ここに集中しよう」と行動を慎重にコントロールする働きがあります。
この2つの物質がちょうどよく働いているとき、私たちは:
- ドーパミン:やってみたい → チャレンジの原動力
- ノルアドレナリン:どうすれば成功するかを考える → 注意深く行動する
というように、挑戦と慎重さをバランスよく保ちながら行動できるのです。
ところが、ドーパミンばかりが強くなると、リスクを顧みずに突っ走ってしまうことがあり、逆にノルアドレナリンが過剰になると、必要以上に緊張して動けなくなることもあります。
たとえばADHDの方では、このドーパミンとノルアドレナリンの伝達の弱さが行動のコントロール困難に影響しているとされ、NRI(ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などの治療が検討されることもあります。
- ノルアドレナリン・セロトニン・ドーパミンは、心の健康に欠かせない“三大神経伝達物質”
- それぞれが異なる役割を担いながら、互いに補い合って働いている
- 気分障害や不安障害では、複数の物質が同時に乱れていることが多い
- 治療では、このバランスを整えることが大きなカギになる
次の章では、ノルアドレナリンが不足したり過剰になったりした場合に、心や体にどのような症状が現れるのかを、より具体的に見ていきましょう。
セルフチェックに役立つポイントもご紹介します。
ノルアドレナリンの過剰 もしくは不足で起こる主な症状
ノルアドレナリンは、私たちの「集中力」や「ストレスへの対応力」を支える重要な物質ですが、そのバランスが崩れると心や体にさまざまな不調が現れることがあります。
この章では、ノルアドレナリンが過剰になったとき、不足したとき、それぞれにどんな症状が起こりやすいのかを具体的に解説します。
ノルアドレナリン過剰の場合 ― パニック発作・高血圧・イライラ
ノルアドレナリンは、ストレスを受けたときに体を守るために分泌されますが、過剰に分泌され続ける状態が慢性化すると、心と体は“ずっと緊張している”ような状態になってしまいます。
たとえるなら、ブレーキをかけずにアクセルを踏み続けているようなもの。
心が休まらず、体も疲れきってしまいます。
■ 主な症状と影響
症状 | 説明 |
---|---|
動悸・息切れ | 自律神経が過度に刺激され、心拍が速くなる。緊張や不安を感じたときによく見られる。 |
パニック発作 | 突然の息苦しさ、胸の圧迫感、手足の震えなど。命の危険はないが、非常につらい体験。 |
高血圧・頭痛 | 血管が収縮し、血圧が上昇することで頭痛やめまいが起こることもある。 |
イライラ・怒りっぽさ | 感情のコントロールが効きにくくなる。ちょっとした刺激に過剰反応してしまう。 |
睡眠の質の低下 | 脳が覚醒状態にあり、入眠しづらい。夜中に目が覚める・眠りが浅いなどの訴えも多い。 |
集中のズレ | 頭が冴えすぎて集中できない。注意が散漫になる。 |
このような症状は、不安障害やパニック障害の方によく見られる特徴的な反応でもあり、ノルアドレナリンの働きが大きく関わっていると考えられています。
ノルアドレナリン不足の場合 ― うつ症状・無気力・低血圧
一方で、ノルアドレナリンが長期間のストレスや過労によって枯渇してしまうと、今度は心と体のエネルギーが著しく低下していきます。
特に、意欲や集中力がわかない・何をしても楽しくないといった「うつ状態」に近い症状が現れやすくなります。
■ 主な症状と影響
症状 | 説明 |
---|---|
抑うつ感 | 気分が沈み、笑顔が減る。心が重たいような感覚が続く。 |
無気力 | 何をするにもおっくうで、やりたいことも思い浮かばない。 |
集中力の低下 | 本やテレビの内容が頭に入らない。仕事や勉強に取り組めない。 |
低血圧 | 体がだるい・朝起きづらい・立ちくらみがするなどの身体症状が出ることも。 |
日中の眠気 | 睡眠時間は足りていても、常に眠い・ボーっとする。 |
慢性的な疲労感 | 動こうとしても体がついてこない。何をしても疲れが取れない。 |
これらの症状が続くと、「甘えているのでは」「頑張りが足りないのかも」と自分を責めてしまう方も多くいらっしゃいます。
でも、脳の中でノルアドレナリンがうまく働いていないだけかもしれません。
まずは、自分のせいにしないことがとても大切です。
■ なぜ不足するのか?
ノルアドレナリンが不足する主な原因として、次のような要因が挙げられます。
- 慢性的なストレスや過労による“使いすぎ”と枯渇
- チロシンやビタミンCなど、合成に必要な栄養素の不足
特に真面目で責任感の強い方ほど、心と体のエネルギーを消耗しやすく、ノルアドレナリンの分泌が追いつかなくなることがあります。
チェックリスト(セルフチェック用表)
ご自身のノルアドレナリンの状態が、今「過剰」なのか「不足」なのかをざっくりと知る目安として、以下のチェックリストをご活用ください。
診断ではありませんが、日々のセルフモニタリングに役立ちます。
【ノルアドレナリン状態チェックリスト】
項目 | 過剰傾向 | 不足傾向 |
---|---|---|
朝起きたときの気分 | 緊張して目が覚める | 起きるのがとてもつらい |
1日の集中力 | 落ち着かずそわそわ | 集中できずぼーっとする |
感情の起伏 | イライラ・怒りっぽい | 感情が動かない・無感動 |
体の状態 | 動悸・頭痛・肩こり | だるさ・冷え・倦怠感 |
人との関わり | ちょっとしたことで苛立つ | 会話が面倒・関心がわかない |
✅ 過剰傾向が多い方 → ストレスケアやマインドフルネス、リラックスの工夫を
✅ 不足傾向が多い方 → 栄養・睡眠・軽い運動などの生活リズムの見直しを
※いずれの傾向も、症状が長く続く・生活に支障が出ていると感じる場合は、早めに心療内科や精神科への相談をご検討ください。
- ノルアドレナリンの過剰は、緊張・不安・イライラ・睡眠障害などを引き起こす
- 不足すると、無気力・抑うつ・集中困難・慢性疲労といった状態に陥る
- セルフチェックを通じて、自分の状態を“やさしく見つめる”ことが第一歩
- 状態に応じたセルフケアと、必要なら医療の力も取り入れて、心と体を整えていきましょう
ノルアドレナリンの状態は、日常のストレスや生活習慣の影響を受けやすいため、気づかないうちにバランスが崩れていることもあります。
次章では、こうした不調がどのような精神疾患と関連しているのか、そして医療現場でどのように治療が行われているのかを詳しくご紹介します。
ノルアドレナリン関連の疾患について
ノルアドレナリンのバランスが崩れてしまうと、気分や行動に変化が起きたり、日常生活に支障をきたすような精神的な不調が現れることがあります。
この章では、ノルアドレナリンと深く関係しているとされる代表的な疾患について、丁寧にご紹介していきます。
うつ病とうつ状態
うつ病というと「気分の落ち込み」だけが注目されがちですが、実際には、体がだるい・動けない・眠れない・何も楽しめないといった心身のさまざまな不調が同時に現れることがよくあります。
こうした症状の背景には、脳内で働く神経伝達物質のバランスが乱れている可能性があり、特にノルアドレナリンとセロトニンの分泌低下が深く関係していると考えられています。
たとえば、
- エネルギーが湧かない・動きたくない → ノルアドレナリンの不足
- 不安感や焦燥感が強い・眠れない → ノルアドレナリンの過剰反応
このように、ノルアドレナリンが「足りなすぎる」「働きすぎる」どちらでも、うつ状態の症状につながることがあるのです。
うつ病の治療では、こうした神経伝達物質の働きを整える薬(後述のSNRIなど)が使われることもありますが、薬だけでなく、環境や生活習慣の見直し、カウンセリングなども併せて行うことが大切です。
うつ病に関する基礎知識を知りたい方はこちら → うつ病の初期症状と原因・治療法|精神科を受診する前に読むべき知識
ADHD(注意欠如・多動症)
ADHDは、子どもに多いイメージを持たれることが多いですが、実は大人にも見られる発達特性のひとつです。
「集中できない」「考える前に動いてしまう」「うっかりミスが多い」などの症状が日常生活で繰り返される場合、脳内の神経伝達の調整にうまくいっていない可能性があります。
ADHDでは、特に脳の前頭前野(計画や判断、注意を司る部位)における、ノルアドレナリンやドーパミンの働きが弱まっていると考えられています。
このため、以下のような症状が現れやすくなります。
- 注意散漫で集中が続かない(注意欠如)
- 思いついたことをすぐ口に出す、行動する(衝動性)
- 予定や課題の管理が苦手(実行機能の弱さ)
現在では、こうした症状を改善するために、ノルアドレナリンに働きかけるNRI(ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)が治療薬として用いられることがあります。
あわせて、心理的なサポートやライフスキルのトレーニングなどを通じて、生活に困りごとが出にくい工夫をしていくこともとても大切です。
不安障害・パニック障害
「突然息が苦しくなる」「胸が締めつけられるように痛い」「このまま死んでしまうのでは」と感じるような激しい不安発作。
こうした症状は、パニック障害や不安障害と呼ばれる状態で見られることがあり、ノルアドレナリンの過剰分泌が引き金になっている可能性があります。
ノルアドレナリンは、危機が迫ったときに“闘争か逃走”を促す物質ですが、過敏に反応しすぎてしまうと、実際には安全な状況でも強いストレス反応が出てしまうことがあります。
- ちょっとした音にドキッとする
- 人混みで息苦しくなる
- 何もしていないのに急に心拍が上がり、過呼吸になる
こうした反応は「心が弱いから」では決してありません。
脳の“警戒システム”が敏感に働いている状態ともいえます。
治療では、ノルアドレナリンの過活動を鎮める薬物療法(SNRIやβ遮断薬など)が使われることもありますし、呼吸法や認知行動療法といった不安との付き合い方を学ぶアプローチも有効です。
依存症(アルコール・ギャンブル・買い物など)
依存症というと「意思が弱い」「やめたくてもやめられない」といったイメージがつきまといますが、実際には脳の神経伝達の仕組みに関わる“病気”として理解されています。
依存症では、快感や報酬に関わるドーパミンの働きが注目されがちですが、実はノルアドレナリンの関与も非常に深いとされています。
たとえば、次のようなパターンが見られることがあります。
- 不安・緊張を感じているときに、お酒やギャンブルで気を紛らわせる
- イライラや落ち着かなさを鎮めるために、依存対象に手を出す
このように、依存行動の背景には「快楽を求める」というよりもむしろ、「不安やストレスから逃れたい」という切実な感情があることが少なくありません。
つまり、ノルアドレナリンが過剰に分泌されることで、心が常に緊張し、それを和らげる手段として依存対象に頼ってしまうのです。
依存症の回復には、薬物療法だけでなく、安心できる人との関わりや、感情との付き合い方を学ぶ支援がとても重要です。
- ノルアドレナリンの働きが乱れると、うつ病・ADHD・不安障害・依存症などの心の不調に影響を与える可能性がある
- 神経伝達物質の働きを整えるために、SNRI・NRI・β遮断薬などの薬物療法が行われることがある
- 同じ病名でも症状や体質は人によって異なり、治療はオーダーメイドのように個別対応が大切
- 「薬に頼るのは不安」「話すのがこわい」**という気持ちも自然なこと。少しずつ、自分のペースで相談することから始めて大丈夫です
次の章では、こうした不調に対して、薬に頼るだけでなく、日常生活の中でできるセルフケアの方法を具体的にご紹介します。
日常でできるノルアドレナリンコントロール
ノルアドレナリンは「脳内ホルモン」のひとつとして、薬で調整するイメージが強いかもしれませんが、実は日々の生活習慣でもその分泌量やバランスに影響を与えることができます。
ここでは、食事・運動・マインドフルネスといった、誰でも今日から取り入れやすい方法を通じて、ノルアドレナリンを健康的にコントロールするヒントをご紹介していきます。
薬に頼る前にできることを知っておくことは、自分の心と体のケアにおいてとても大切です。
食事(チロシン・ビタミンC 等)
ノルアドレナリンは体内で“合成”される物質であり、その材料となる栄養素をしっかりと摂ることは、分泌を安定させるうえで欠かせません。
なかでも特に重要なのが「チロシン」と「ビタミンC」です。
■ チロシンとは何か?
チロシンはアミノ酸の一種で、ノルアドレナリンの前駆体であるドーパミンの材料となり、そこからノルアドレナリンが作られます。
つまり、チロシンが不足すると、ノルアドレナリンも作られにくくなるということです。
チロシンが多く含まれる食品の一例:
食品名 | 備考 |
---|---|
大豆製品(豆腐・納豆・味噌) | 植物性タンパク源としても優秀 |
チーズ類(特にパルメザン) | 発酵によってチロシンが濃縮 |
鶏むね肉・卵 | 動物性タンパク質が豊富 |
バナナ | トリプトファンやビタミンB6も含む |
アーモンド・ピーナッツ | ビタミンEや良質な脂質も◎ |
■ ビタミンCの役割
ビタミンCはノルアドレナリンを作る酵素の働きを助ける補因子として知られています。
また、ストレスによって消耗しやすい栄養素でもあるため、意識して摂取することが推奨されます。
ビタミンCが豊富な食品:
- パプリカ(特に赤色)
- ブロッコリー
- キウイ
- いちご
- 柑橘類(オレンジ、グレープフルーツなど)
■ 食事の工夫ポイント
- 1日3食のうち、朝食でチロシン源+ビタミンCを意識すると、1日の集中力が高まりやすいです。
- 極端な糖質制限や、朝食を抜く習慣は、ノルアドレナリンの安定分泌には逆効果になることもあります。
適度な有酸素&筋トレでの分泌促進
運動には、ノルアドレナリンをはじめとした脳内神経伝達物質の分泌を自然に高める力があります。
「運動後に頭がすっきりする」「気分が前向きになる」といった感覚は、まさにその現れです。
■ 運動で分泌される神経物質の例:
物質名 | 働き |
---|---|
ノルアドレナリン | 覚醒・集中力アップ |
ドーパミン | モチベーション・快感 |
セロトニン | 安心感・気分安定 |
■ おすすめの運動タイプと頻度
種類 | 内容 | 推奨頻度 |
---|---|---|
有酸素運動 | ウォーキング、軽いジョギング、サイクリング | 週3回 × 30分程度 |
レジスタンストレーニング(筋トレ) | 自重スクワット、ダンベル運動など | 週2〜3回で全身をまんべんなく |
特に有酸素運動は、脳血流を改善しながらノルアドレナリンの放出を高めることが複数の研究で示されています
■ 運動が続かない方へ
- 通勤時にひと駅歩く、階段を使うなど日常の中の運動化を意識しましょう。
- 「短時間でもOK」とハードルを下げることで継続しやすくなります。
運動のもたらすメンタルヘルスの効果が知りたい方はこちら → 【専門家が解説】メンタルに効く運動とは?ストレス・うつ病改善になる理由と習慣化のコツ
マインドフルネスで過剰放出を抑える
一方で、ノルアドレナリンはストレスや不安が強いときに過剰に分泌されてしまうこともあり、これが長期的な緊張・疲労感・睡眠の質低下につながることもあります。
そんなときに有効なのが「マインドフルネス」や呼吸瞑想です。
■ なぜ効果があるのか?
マインドフルネスは、脳の「扁桃体(へんとうたい)」という感情の中枢の過剰反応を抑えるとともに、交感神経の興奮を沈静化し、ノルアドレナリンの過剰放出を緩やかにすると考えられています。
■ 簡単マインドフルネスの例
1日5分からでも始められる簡単な方法をご紹介します。
【呼吸カウント瞑想】
- 楽な姿勢で座り、目を閉じる
- 呼吸に意識を向ける(自然な呼吸でOK)
- 吸う息で「1」、吐く息で「2」と数える
- 10までいったらまた1に戻る
思考が浮かんでも否定せず、「気づいて戻る」ことが大切です。
■ 習慣化のコツ
- 朝起きてすぐ/夜寝る前など、毎日同じ時間に行うと習慣になりやすいです
- 無音よりも「自然音」や「瞑想アプリ」を使うのも◎
- うまくできなくても“毎日数分やってみる”が最も大切です
マインドフルネスについて詳しく知りたい方はこちら → マインドフルネスの効果を脳科学で解説|集中力・睡眠・ストレス・うつ病に効く理由とは?
- チロシン・ビタミンCを含む食事が、ノルアドレナリンの安定合成に役立つ
- 有酸素運動・筋トレは分泌を自然に高め、心のパフォーマンスを底上げする
- マインドフルネスは過剰なノルアドレナリン放出を穏やかに整えるセルフケア法
- 「頑張らない習慣化」が、日常ケアの成功のカギ
よくある質問(FAQ)
ノルアドレナリンについての知識が深まるにつれ、「じゃあ、日常生活のあの習慣は関係あるの?」「薬とどう併用すればいいの?」といった疑問が浮かんでくる方も多いかと思います。
この章では、患者さんやご家族、支援者の方からよく寄せられる質問を取り上げて、わかりやすくお答えしていきます。
コーヒーやエナジードリンクは関係ある?
はい、ある程度の影響があります。
コーヒーやエナジードリンクに含まれるカフェインは、ノルアドレナリンの分泌に関与するとされています。
■ カフェインの作用メカニズム
カフェインは、脳内のアデノシン受容体をブロックすることで眠気を抑え、間接的にノルアドレナリンやドーパミンの分泌を促進します。その結果、以下のような効果が出やすくなります。
- 一時的な覚醒作用(眠気の解消)
- 集中力や注意力の向上
- やる気や活力の促進
■ ただし注意点も
- 過剰摂取:動悸・不安・手の震えなど、ノルアドレナリン過剰に似た症状を引き起こす可能性があります。特に不安障害のある方は要注意です。
- エナジードリンク:カフェインだけでなく、糖分や他の刺激物(タウリンなど)も含まれており、過剰に摂ると逆効果になることも。
■ 安全な目安
- 健康な成人であれば、1日200〜400mg程度のカフェイン(コーヒー2〜3杯)が適量とされます(※厚労省やWHOのガイドラインより)。
子どもの多動とノルアドレナリンの関係はある?
はい、特にADHD(注意欠如・多動症)の子どもたちにおいて、ノルアドレナリンの働きが関係していると考えられています。
■ ADHDにおける神経伝達の問題
ADHDの脳では、前頭前野と呼ばれる思考・判断・集中を司る領域で、ノルアドレナリンやドーパミンの働きが弱いとする研究が多くあります。
その結果、以下のような行動傾向が見られやすくなります:
- 授業や会話に集中が続かない
- 思いつきで行動してしまう
- 静かにしていることが苦手
■ ノルアドレナリンが持つ役割
- 情報の選択・切り替えを助ける
- 注意の持続をサポートする
- 行動の抑制機能に関与する
つまり、ノルアドレナリンの働きが弱いと、「目の前のことに注意を向け続ける」「我慢する」といった自制力の調整が難しくなるのです。
■ 治療でのアプローチ
- 小児ADHDの治療薬として用いられるアトモキセチン(ストラテラ)は、ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(NRI)であり、脳内のノルアドレナリン濃度を高めて、注意機能を補います。
- 併せて、心理社会的支援(行動療法・親へのサポート)も有効です。
■ 保護者の方へ
「しつけの問題では?」と悩む方も多いですが、ADHDは脳の機能特性による発達的な違いです。
責めるのではなく、「特性に合った支援」で寄り添う姿勢が大切です。
- カフェインはノルアドレナリンの分泌に影響し、過剰摂取には注意が必要
- ADHDの多動・不注意にはノルアドレナリンの働きが関与。薬と心理支援の併用が効果的
最後に
ノルアドレナリンは、気持ちをシャキッとさせたり、ピリピリさせたりと、私たちの“心のテンポ”を調整してくれる存在です。
今回ご紹介したように、その働きを少し意識するだけでも、日々の気分や行動が少しずつ整っていくかもしれません。
もし今、疲れすぎていたり、ずっと緊張していたりするのなら、それはあなたの心からのサイン。
自分を追い込まず、「少し立ち止まってみようかな」と思えたなら、それだけで十分素敵な変化です。
あなたの心が、少しでも軽くなりますように。
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