職場でうつ病のある社員と関わる中で
「どこまで配慮すればいいのか」
「どんな業務が負担になりやすいのか」
と悩んでしまう上司や同僚の方は多いのではないでしょうか。
うつ病は外から見えにくく、体調や気分に波があるため、対応が難しいと感じる場面も少なくありません。
でも大丈夫。少しの工夫と理解があれば、無理のない形で力を発揮してもらうことは十分に可能です。
このページでは、精神科医・心理カウンセラーの視点から、うつ病の特性に応じた業務設計やコミュニケーションのポイントを、やさしく丁寧に解説していきます。
うつ病の特性とは?業務にどう影響するのか
うつ病は、外見からは分かりづらく、日によって状態が変わることもあるため、職場では「理解しづらい」存在になってしまいがちです。
まずは、うつ病の基本的な特性や、業務への具体的な影響について整理していきましょう。
うつ病の代表的な症状と職場で現れやすいサイン
うつ病は、気分や意欲、思考、身体面に幅広い影響を与える精神疾患です。以下は、DSM-5(米国精神医学会による診断基準)においてうつ病に該当する主な症状です。
代表的なうつ病の症状(一部)
- 抑うつ気分(ほとんど一日中気分が落ち込む)
- 興味や喜びの喪失(以前は楽しかったことへの関心がなくなる)
- 疲れやすさ、エネルギーの減退
- 集中力の低下や決断力の低下
- 自責感や無価値観
- 睡眠障害(過眠または不眠)
- 食欲の変化
- 動作や会話の緩慢化
職場では、以下のような形で表面化することがあります。
職場でのうつ症状のサイン例
- 報連相(報告・連絡・相談)の遅れや漏れが目立つ
- 以前より業務のスピードや正確性が落ちている
- 小さなミスに強く落ち込んでしまう
- 朝の出社がつらそうで遅刻や欠勤が増える
- 会話のトーンが沈んでおり、反応が乏しい
- 業務に対して意欲が見られない
うつ病は「甘え」ではなく、脳機能や神経伝達物質のバランスの乱れによって生じる医学的な疾患です。
本人の努力不足と捉えず、症状の一部として理解することが、支援の第一歩になります。
注意すべき「見えづらい不調」への理解
うつ病は、「外からは見えにくい」病気であるため、周囲からの誤解を受けやすいのが特徴です。たとえば、以下のような状況が職場でよく見られます。
- 午前中は調子が悪くても、午後からはある程度話せる
- 雑談には反応できるが、業務には集中できない
- 笑顔で対応していても、内面は非常に苦しい状態にある
このような「一見元気そうに見える」けれど、実際には強い不調がある状態は、「仮面うつ病」とも呼ばれることがあります。
特に責任感が強く、真面目な性格の方ほど、症状を隠して無理をしがちです。
また、体調の波も大きいため、昨日は普通に働けていたのに、今日は全く手がつかないというケースも珍しくありません。
このような「日による変動」は、周囲の人間にとっては不安や苛立ちの原因になりやすい一方で、うつ病の方にとってはどうしようもない自然な変化でもあります。
職場でサポートする際には、「症状は見えづらい」「波がある」「一貫性を求めすぎない」といった前提を持つことが、支援する側のストレスを減らし、より良い関係性を築くことにもつながります。
回復ステージによって異なるパフォーマンスの理解と対応
うつ病からの回復は、「今日から元通りに働ける」というような一足飛びのものではありません。
多くの場合、回復には数ヶ月から年単位の時間を要し、その過程は段階的です。
体調の波がある中で、少しずつ社会生活や仕事に対する耐性を取り戻していくのが一般的です。
厚生労働省が策定した「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」でも、回復段階に応じた職場の関わり方の調整が重要であるとされています。
復職を成功させるためには、本人の心身の状態を丁寧に観察し、その時期に適した働き方を共に考える姿勢が求められます。
以下に、うつ病からの回復プロセスにおける主なステージと、それぞれの段階で配慮すべきポイントを具体的に整理します。
回復段階 | 心身の状態の特徴 | 業務上の配慮・支援のポイント |
---|---|---|
初期(リハビリ出勤) | 睡眠や食事など生活リズムが不安定で、疲れやすい状態。 緊張感が強く、集中力が続かないことも多い。 | ・短時間勤務(例:午前中のみ)からスタート ・電話対応や対人業務は避ける ・同じ作業を繰り返すルーチン業務が望ましい ・出退勤時間に柔軟性を持たせる |
安定化期 | 体調や生活リズムが徐々に安定し、集中力や作業遂行力も少しずつ戻ってくる。ただし、日によって波がある。 | ・週3〜5日勤務への段階的な移行を検討 ・仕事内容の幅を少しずつ広げる(補助業務から本来業務の一部へ) ・「頑張りすぎ防止」のため、達成可能な目標設定を ・業務量を急に増やさないよう注意 |
社会的回復期 | 日常的な業務にほぼ支障がなくなるが、プレッシャーや環境変化による再発リスクも残る。 周囲から「もう大丈夫」と見られやすいが、配慮は必要。 | ・業務上の責任や成果評価を段階的に再開 ・ストレスがかかりやすい業務への配置は慎重に判断 ・定期的な面談や振り返りを設け、状態の変化を見逃さない ・復職後6ヶ月〜1年は継続的な支援が有効 |
ステージを見極めて支援をデザインする
復職支援において最も重要なのは、「現在の本人の状態やステージに合った業務設計・人事評価を行うこと」です。
すぐに以前の業務内容や責任に戻すことは避け、少しずつ段階的に適応を促すアプローチが、本人の自信回復と職場定着につながります。
特に大切なのは、「小さな成功体験」を積み重ねること。
これは、心理的安全性の確保にもつながり、「自分はまた働ける」という感覚を養ううえで不可欠です。
企業側は「甘やかす」ことと「配慮する」ことを混同せず、中長期的な職場定着と再発予防を見据えた柔軟な関わり方を検討していくことが求められます。
- うつ病の症状は気分、意欲、集中力など広範囲にわたり、職場でのサインも多様です
- 「見えにくい不調」に対する理解が、本人だけでなく周囲のメンタルヘルスを守ります
- 回復には段階があり、それぞれに応じた業務設計が必要です
- 小さな成功の積み重ねが、自己効力感と再発予防に効果的です
うつ病の特性や回復の流れを理解したうえで、次に重要になるのが「どのような業務設計が適切か」という実践的な視点です。
業務内容の選定や、配分、職場でのサポート体制など、現場でよく悩まれるポイントを整理しながら、うつ病のある方が安心して働ける環境づくりについて考えていきましょう。
次章では、うつ病を抱える社員に配慮すべき業務設計の基本について詳しく解説していきます。
うつ病を抱える社員に配慮すべき業務設計の基本
うつ病を抱える社員の支援には、思いやりだけでなく「適切な業務設計」という実務的な視点が不可欠です。
うつ病の特性を理解していても、実際の業務にどう反映させればよいか迷ってしまう方は多いでしょう。
大切なのは、本人のパフォーマンスを無理なく引き出せる環境を整えること。
ここでは、回復支援と職場の生産性の両立を目指すうえで、特に重要となる3つの視点に絞って解説していきます。
急な依頼変更などせず、「予測可能な日常業務」を基本にする。
うつ病を抱える方にとって、予測できない出来事や突発的な業務の変化は、大きなストレス要因となります。
これは、脳の「認知的柔軟性(状況変化への対応力)」が低下しやすいためで、一般的な業務でも「突然の予定変更」「短納期の仕事」「曖昧な指示」があると混乱や不安を引き起こすことがあります。
配慮のポイント:
- 業務スケジュールは週単位・日単位で明確に可視化する
- 急な依頼ではなく、前もって伝える「予告型の業務依頼」を心がける
- 「今、何をすればよいか」が明確なルーチン業務の割合を増やす
とくに、朝の業務開始時に「今日やるべきこと」がすぐに把握できるようにしておくことは、安心感を与えると同時に、集中しやすい環境を整えるうえでも効果的です。
タスク管理ツールや手書きのToDoリストなど、本人に合った方法を選んでサポートしましょう。
マルチタスクを避け、1つのタスクに集中できる環境づくりを
うつ病のある方にとって、「同時並行で複数のことを処理する=マルチタスク」は大きな負担になります。
これは、脳の認知機能や集中力の持続力が一時的に低下していることが原因で、頭の中が混乱しやすくなっているためです。
そのため、「一度に一つの作業に集中できる業務設計」が何よりも重要になります。
たとえ業務時間が短くても、集中して取り組める環境が整っていれば、本人の満足度や自己効力感は大きく向上します。
業務配分を設計する際の具体的な工夫
- 業務を細かく分解する:
「1件の資料作成」と言っても、情報収集 → 構成作成 → レイアウト調整 →チェックという複数工程があります。これらを1日ごとに小分けにし、1工程ずつ任せることで、本人が“やり切った”と実感しやすくなります。 - 午前と午後の波を考慮する:
うつ病のある方は午前中に調子が悪いことが多いため、定型的でルーチン化された業務(例:定型メールの処理、資料確認)を午前に配置し、思考力や創造力が必要なタスク(例:企画、文章作成)は午後に設定すると、無理のないリズムで働けます。 - チェックリスト形式のタスク可視化:
「今日やるべきこと」が目で見て分かるよう、ToDoリストやチェックシートを一緒に作ると安心感が増します。タスク完了時には一緒にチェックをつけて、「ここまでできましたね」と言葉で伝えることも効果的です。
【業務調整の前後比較:具体例】
調整前 | 調整後 |
---|---|
資料作成+会議参加+報告書作成を1日で任せる | 午前:資料構成のドラフト作成のみ 午後:会議に30分だけ参加(発言不要) |
複数のメール返信やタスクをランダムに処理 | 午前:定型メールの返信のみに集中 午後:1つのタスク(例:報告書の項目検討)のみに集中 |
このように、1日のスケジュール自体を“集中できる設計”に組み立てることで、本人の不安や混乱を減らし、職場での安定したパフォーマンス維持につながります。
重要なのは、「業務量」だけではなく、“どの順番で”“どの時間帯に”渡すかというリズム設計まで配慮することです。
それが、働く本人の安心感と職場への信頼感を育てる、土台になります。
1on1と定期的なフィードバックで安心感を
うつ病を抱える方は、「自分は役に立っているのか」「評価されているのか」に不安を感じやすく、自己肯定感が下がりやすい状態にあります。
そのため、定期的な1on1やフィードバック面談を通じて、安心感を与えるコミュニケーションが非常に重要です。
フィードバックの工夫ポイント:
- 「できていること」を具体的に肯定する(例:「昨日の資料、とてもわかりやすかったです」)
- 注意や指摘が必要な場合も、「人格否定」と捉えられないように事実ベース+提案型で伝える
- 面談頻度は、週1回~隔週に設定すると安定的に状態を把握できる
- 「最近調子はどうですか?」だけでなく、「最近は◯◯の業務、やりやすかったですか?」のように具体的な問いかけを意識
とくに大切なのは、「変に気を遣わないけれど、常に見守られている」という感覚です。
「必要な時にはいつでも話せる」「不安をそのまま伝えても大丈夫」という職場環境が整っていることで、再発リスクの軽減にもつながります。
- 予測可能なルーチン業務の比率を高め、突発的な業務負荷を避ける
- マルチタスクを避け、短時間集中型・質重視の業務配分を心がける
- 定期的な1on1やフィードバックで、安心感と自己効力感を支える
- 「業務設計」=タスクの量と内容だけでなく、タイミングや働き方のリズム設計も含めて考える
業務の内容や配分に気を配ったとしても、それを「どう伝えるか」がうまくいかなければ、せっかくの設計も形骸化してしまいます。
次章では、うつ病のある社員に対して、業務を渡すときのコミュニケーションの工夫や、伝え方のポイントについて掘り下げていきましょう。
「安心して受け取れる指示」は、職場の信頼関係を築くうえでも大きな鍵になります。
うつ病のある社員への業務の渡し方・コミュニケーションの工夫
うつ病を抱える社員と関わるうえで、業務内容そのものと同じくらい重要になるのが「どのように伝えるか」というコミュニケーションの部分です。
適切な業務でも、伝え方や接し方が不適切だと、本人に強いプレッシャーを与えてしまい、結果的に体調悪化や再発リスクを高めてしまうことがあります。
この章では、うつ病の特性に配慮したコミュニケーションの工夫について、具体的な視点を整理していきます。
業務指示は「明確・具体的・一度に詰め込まない」
うつ病を抱える方は、思考力や集中力が低下していることが多く、曖昧な指示や情報の詰め込みは、混乱や過度な不安の原因になります。
業務を指示する際は、「何を」「いつまでに」「どういう形で」を明確に伝えることが基本です。
避けたい曖昧な指示の例:
- 「時間があるときに、これもやっておいて」
- 「なんとなくこの辺を改善しておいて」
- 「前と同じ感じで資料作って」
伝え方の工夫ポイント:
- 一つの業務に集中できるよう、同時に複数のタスクを渡さない
- タスクの指示は紙やチャットで「見える化」すると安心感が増す
- 抽象的な表現は避け、完成形のイメージを具体的に伝える(例:「A社向けの提案書で使ったあのフォーマットで」)
- 「急がない」「〇日までで大丈夫」と納期に余裕を持たせる配慮
また、作業途中で進捗を確認する場を設けることで、「間違っていたらどうしよう」という不安を軽減できます。
完璧主義傾向がある方ほど、“途中で確認しながら進めても大丈夫”というメッセージが心強い支えになります。
否定でなく共感と事実ベースで伝えるコツ
うつ病のある方は、自己評価が著しく下がっていることが多く、何気ない言葉でも「責められた」「否定された」と強く感じてしまう傾向があります。
こうした状態に配慮しながら伝えるためには、「事実」と「共感」を軸にしたフィードバックが有効です。
避けたい伝え方:
- 「なんでできなかったの?」
- 「この程度の仕事で疲れたって言われても…」
- 「しっかりしてくれないと困るよ」
これらは本人の努力や存在自体を否定しているように受け取られ、萎縮や自己否定感を強めてしまいます。
効果的なフィードバックの例:
- 「前回の資料、構成がとても整理されていて助かりました」
- 「今回の納期が少し難しかったみたいですね。どこが難しかったか一緒に振り返ってみましょう」
- 「体調が読みにくいと思いますが、無理せず教えてもらえたら助かります」
このように、成果をきちんと認めながらも、問題点を“共に考える姿勢”で伝えることが、本人の安心感と信頼関係につながります。
無理なく相談できる関係づくりの大切さ
「何かあれば言ってね」と声をかけたつもりでも、うつ病を抱える方は「迷惑になるのでは」「相談しても理解されないかもしれない」という不安から、なかなか本音を打ち明けられないことがあります。
だからこそ、「無理なく相談できる空気感」を日常的に築くことが大切です。
相談しやすい環境づくりのポイント:
- 定期的な1on1の時間をあらかじめ確保しておく(週1回、隔週など)
- 業務報告以外にも「最近の体調どう?」など雑談的な話題も織り交ぜる
- 相談しても評価に響かないことを明言しておく
- 他の社員にも配慮を促し、チームとしてのサポート意識を共有する
また、口頭だけでなく「調子が悪い時はこのチェック項目に✓をつけて提出する」といった非言語的な報告手段を設けると、ハードルがぐっと下がります。
誰でも不調な日はありますが、それを「出してもいい」と思えることが、うつ病のある社員にとっては何よりも重要な支えになります。
- 指示は「明確・具体的」に。情報は一度に詰め込まず、見える化で安心感を
- 注意は否定ではなく、「共感+事実+提案」の形で伝えると受け入れやすい
- 定期的な1on1や、非言語的な相談手段の活用で、相談しやすい関係を構築する
- 「話しやすさ」は、体調の安定と再発防止に直結する大切な要素次章への導入文
ここまでで、業務設計やコミュニケーションの工夫について具体的にお伝えしてきました。
では実際に、復職初期〜安定期までの各ステージで、どのような業務設計と支援が適切なのでしょうか?
次章では、うつ病の回復段階に応じた対応方法について、ケース別に詳しくご紹介します。実務にすぐ役立つ実践例を交えて、職場での支援のヒントを深めていきましょう。
ケース別・復職段階ごとの業務設計と対応例
うつ病からの復職には、「一律に元の状態へ戻す」ではなく、段階を踏みながら、少しずつ業務に慣れていく設計が重要です。
医療機関でも、復職プログラムや就労支援の場において「段階的アプローチ」が推奨されていますが、実際の職場では「どのように段階を区切ればいいのか分からない」といった声も多く聞かれます。
この章では、復職初期→安定期→再発予防フェーズという3つのステージに分けて、それぞれの時期に合った業務設計と関わり方のポイントを解説します。
復職初期(リハビリ出勤)の業務設計ポイント
復職直後は、心身ともにまだ不安定な状態です。
特に、「出勤すること」自体に大きなエネルギーが必要な段階であり、業務の負荷よりも生活リズムや職場環境への慣れを優先することが重要です。
この時期の特徴:
- 集中力が短時間しか続かない
- 業務への不安が強く、自信を失っている
- 周囲の目や評価を過度に気にしてしまう
業務設計の工夫ポイント:
- 勤務時間は短時間(半日~時短)からスタートし、段階的に延ばす
- 業務内容はルーチンワークや成果が可視化しやすいものを中心に
- 「完了しなくても大丈夫」「ペースはゆっくりでいい」ことを明言して伝える
例:総務部門における復職初期の業務内容
- 書類のファイリングや簡単なデータ入力
- 定型的な郵送物の仕分け・発送業務
- 社内マニュアルの誤字脱字チェック など
このフェーズでは、「働けた」という事実そのものが回復の証です。
達成感を得られる体験を少しずつ積み重ねることが、次のステップへの自信につながります。
安定期に入った場合の業務拡張と注意点
体調の波が少なくなり、日常的な業務にもある程度対応できるようになってくると、「次は業務範囲を広げていく段階」です。
ただし、ここで焦って一気に元の業務に戻すと、再発のリスクが高まります。“負荷とやりがいのバランス”を意識することが鍵です。
この時期の特徴:
- 安定して働ける日が増えてくるが、まだ波はある
- 「もう少し頑張りたい」「役に立ちたい」という意欲も芽生えてくる
- 周囲からの期待やプレッシャーを過剰に感じやすい
業務拡張の際の注意点:
- 新しい業務を一度に複数渡さず、段階的に任せる
- 「できるようになったら次の業務」というステップ型の設計にする
- 成果に対しては、感謝と称賛をしっかり伝える
例:マーケティング部門での業務拡張モデル
- 段階1:過去のデータ集計・入力
- 段階2:社内向け報告資料の作成(定型フォーマット)
- 段階3:企画会議への参加(発言自由)
- 段階4:小規模なプロジェクトの一部を任せる
「もう任せても大丈夫だろう」と思ったタイミングこそ慎重に。焦らず、ステップを踏むことが長期的な活躍につながります。
再発予防としての「業務見直し」の習慣化
うつ病は、再発率の高い疾患とされており、厚生労働省の調査でも5年以内の再発率は50%以上と報告されています
そのため、「安定したから終わり」ではなく、継続的なモニタリングと業務の見直しを習慣化することが再発予防のカギとなります。
再発予防のポイント:
- 月1回程度の振り返り面談(1on1)を定期的に設ける
- 「最近、業務の中で負担を感じることはありますか?」といった心理的負荷のチェックを継続
- 成果や期待ばかりでなく、業務量・業務時間の見直し余地も話題に含める
- 長時間労働が続いていないか、客観的なデータ(勤務表、残業時間)で把握する
また、定期的に「職場のストレス要因」を簡単なチェックリストなどで見直す習慣も効果的です。
職場で使える簡易チェック項目(例):
- □ 仕事のペースに無理が出ていないか
- □ 報連相の時間を確保できているか
- □ 1人で抱え込む業務が増えていないか
- □ 達成感や周囲からの承認が得られているか
- □ 最近、疲れや気分の落ち込みが強くなっていないか
このような「見直しの文化」をチーム全体に根付かせることで、本人の再発リスクだけでなく、職場全体の心理的安全性の向上にもつながります。
- 復職初期は「出勤に慣れる」ことを優先し、低負荷・短時間業務からスタート
- 安定期には業務を段階的に拡張し、「できること」を少しずつ増やす設計を
- 再発予防のためには、継続的な1on1や業務見直しの仕組みづくりが不可欠
- 「任せっぱなしにしない」ことが、長く働き続けてもらうための鍵
ここまでの章で、うつ病のある社員に対して「どう働いてもらうか」の業務面に焦点を当ててきました。
しかし、本人の努力だけではカバーしきれない部分も多く、職場全体の理解と支援体制の整備が重要になります。
最後の章では、うつ病を抱える社員が孤立せず、チームとして支え合えるような職場環境づくりについて、具体的な取り組みやポイントをご紹介していきます。
職場全体で取り組む支援体制の整え方
うつ病のある社員を支援するためには、業務設計や個別の配慮だけでなく、職場全体の“空気”や“理解度”が大きな鍵となります。
たとえ人事や上司が配慮していても、周囲のメンバーが無理解であれば、本人は職場に居づらさを感じ、再発や離職のリスクが高まってしまいます。
この章では、周囲の無理解を減らし、全社的な支援体制を築くための具体策を3つの観点から整理していきます。
周囲の無理解がストレスになることも
うつ病のある社員が感じるストレスの中には、「業務」そのものよりも人間関係や周囲の視線が大きな要因になっているケースが多く見られます。
特に、以下のような“悪意なき無理解”が本人を追い詰めてしまうことがあります。
よくある無理解の例:
- 「元気そうなのに、なんでまだ時短なの?」
- 「昨日は普通に働けてたのに、今日は休み?甘えじゃない?」
- 「みんな忙しいのに、あの人だけ配慮されてて不公平」
こうした言動は、「気にしてないから大丈夫」と思っていたとしても、本人には深く突き刺さります。
対応のポイント:
- 本人の同意を得たうえで、周囲に必要な情報を適切に共有する(例:「体調に波があること」「回復段階にあること」など)
- 「無理に励まさない」「評価しない沈黙」も支援の一つであることを周囲に伝える
- 本人が孤立しないように、定期的なランチや雑談の機会をつくるなど、チームでの関係構築を意識する
職場全体が「お互い様」「人それぞれ事情がある」という前提をもてるようになると、本人の回復だけでなく、他の社員のメンタルヘルスにも良い影響をもたらします。
産業医・人事・上司の三位一体の支援体制
うつ病のある社員への支援は、ひとりの上司や人事だけで抱え込むものではありません。
専門職である産業医の知見を活用し、関係者が連携する「チーム支援体制」を構築することが重要です。
それぞれの役割:
役割 | 主な機能 |
---|---|
上司 | 日常の業務調整、信頼関係の構築、フィードバックの提供 |
人事 | 制度面の調整、就業規則との整合性、本人・部署の両面支援 |
産業医 | 医学的助言、体調管理のモニタリング、復職判断の支援 |
この3者が、それぞれの専門性を活かしながら情報を共有し、支援方針を一致させることで、無理のない働き方が実現できます。
支援体制構築のための具体策:
- 月1回の**定例カンファレンス(支援会議)**を設定する
- 面談記録や健康情報の共有には、本人の同意を必ず得る
- 「復職プログラム」「段階的業務復帰フロー」などの社内標準モデルを事前に策定しておく
特に重要なのは、「現場だけが頑張る」「制度だけで対応する」といった“分断”を生まないことです。
三者が連携しながら柔軟に対応できる職場は、本人にとっても「守られている」「安心して働ける」と感じられる環境になります。
社内研修やEAPの導入で理解促進を
個別対応だけではなく、職場全体の理解と感度を底上げする取り組みも欠かせません。
中でも効果的なのが、メンタルヘルスに関する社内研修の実施や、EAP(従業員支援プログラム)の活用です。
社内研修の例:
- 「メンタルヘルスの基礎知識」講座(全社員向け)
- 「上司としての関わり方」研修(管理職向け)
- 「ストレスマネジメント」ワークショップ(チーム単位)
こうした研修は、単なる知識の提供だけでなく、“正解がない関わり方”への不安を軽減する効果があります。
また、**EAP(Employee Assistance Program)**の導入によって、社員が社外の専門カウンセラーに相談できる体制を整えることで、「職場では話しにくい悩み」を吐き出す場が生まれます。匿名性が担保されることから、利用率の向上にもつながります。
導入のメリット:
- 社員が抱える早期のメンタル不調をキャッチできる
- 上司や人事が過剰に抱え込まずに済む
- 職場全体のストレスマネジメントが強化される
企業によっては、ストレスチェック制度と組み合わせて活用するケースも増えており、制度と風土の両面からの取り組みが効果を発揮しています。
- 周囲の“何気ない一言”が大きなストレス源になることもある。無理解の解消には丁寧な情報共有が必要
- 上司・人事・産業医が連携し、それぞれの役割を明確にした「チーム支援体制」が理想的
- 社内研修やEAPの導入で、組織全体のメンタルヘルスリテラシーを底上げすることが効果的
- 「個人」への支援だけでなく、「組織」へのアプローチが、持続的な定着と再発予防につながる
うつ病を抱える社員への支援は、特別なことをする必要はありません。大切なのは、「ひとりで抱えなくていいよ」「あなたのペースで大丈夫だよ」と伝わる関わり方です。
職場のほんの少しの配慮が、その人の再出発を大きく後押しする力になります。
今回の記事が、あなたの職場での支援のヒントとなり、誰もが自分らしく働ける環境づくりにつながれば幸いです。
無理のないペースで、一歩ずつ。あなたのその思いやりが、確かな支えになりますように。