「最近なかなか眠れなくてつらい…」「市販薬でごまかしているけど、本当にこれで大丈夫?」

そんな不安を抱えながらも、忙しくて病院に行けないという方は少なくありません。

そこで注目されているのが、“睡眠薬のオンライン処方”という選択肢です。

自宅にいながら医師の診察を受け、必要に応じて薬を処方してもらえる仕組みは、心身に負担をかけずに不眠の悩みと向き合うきっかけになるかもしれません。

この記事では、オンラインで処方される睡眠薬の種類や注意点、市販薬との違いなどをわかりやすくご紹介します。

睡眠薬はオンライン診療で処方してもらえるの?

近年、制度整備が進み、自宅からスマートフォンやパソコンを使って精神科や心療内科の医師に相談できるようになりました。

ただし、オンライン診療にはいくつかの条件や制限があり、睡眠薬の処方がすべての方に対して可能というわけではありません。

この章では、オンラインでの処方が可能となる条件や制度的な背景、初診での対応可否などについて、精神科医の立場から丁寧に解説します。

結論:条件を満たせばオンラインでも処方可能です

まず結論から申し上げると、一定の条件を満たせば、睡眠薬はオンライン診療でも処方可能です

ただし、すべての薬が対象となるわけではありません。

日本では、2022年にオンライン診療の恒久化に向けた制度が整備され、医師がビデオ通話などを用いたリアルタイム診療を通じて、患者の状態を適切に把握できる場合に限り、オンラインでの処方が認められるようになりました。

ただし、依存性の高い薬剤(特にベンゾジアゼピン系)など一部の向精神薬については、特に初診時の処方が制限されています。

これらの薬は、効果が高い一方で依存・耐性・離脱症状などのリスクもあるため、慎重な対応が必要とされています。

そのため、医師が「オンラインでも安全に診療・処方が行える」と判断した場合に限り、オンライン処方が実施されます。

オンライン処方に関する法律・制度(医療機関名の記載、本人確認など)

オンライン診療において睡眠薬を処方するには、医療機関や医師が厚生労働省のガイドラインに基づいた診療体制を整えている必要があります。

以下のような制度的要件が定められています。

ビデオ通話による「診察」が原則

オンライン診療は、電話やメールではなく視覚と聴覚によるリアルタイム診療が原則とされています。

これは、医師が対面診療と同等の情報を得るために、患者の表情や態度を含めた評価が必要とされているためです。

診療の際には、不眠の症状(入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒など)や生活習慣、併存する精神疾患の有無(ICD-11やDSM-5-TRで分類されるうつ病、不安症など)を詳しく聴取し、安全性が確保できると医師が判断した場合のみ処方されます。

本人確認は必須

医療機関では、保険証や運転免許証、マイナンバーカードなどを使用した本人確認が義務付けられています。

これは、なりすましや違法転売などの不正行為を防ぐための重要なステップです。

医療機関名・医師名の明記と自治体への届出

オンライン診療を行うには、医療機関が都道府県への届出を行い、適切な体制を整えていることが求められます。

ウェブサイトなどには医療機関名・所在地・医師名・問い合わせ先が明記されている必要があります。

これらが記載されていないサービスは、厚生労働省の指針に違反している可能性が高く、利用は避けるべきです。

電子処方箋や薬の配送体制

診察後、電子処方箋や紙の処方箋が発行され、連携している薬局が調剤し、自宅へ薬を配送する仕組みが整備されています。

これにより、診療から薬の受け取りまでを一気通貫でオンライン化できるケースもあります

ただし、配送対応には薬局側の体制も関わるため、オンライン診療を受ける前に確認することが望ましいでしょう。

初診でも睡眠薬は処方される?(症状や診察内容による判断)

オンライン診療において「初診でも睡眠薬を処方してもらえるのか?」という疑問は非常に多く寄せられます。

この点について、厚生労働省は以下のような方針を示しています。

「初診時における向精神薬・麻薬の処方は原則不可。ただし、個々の症状と安全性の確保を前提に、医師の判断で適切な処方が可能な場合もある」

つまり、非依存性・非習慣性の睡眠薬(例:メラトニン受容体作動薬や一部の非ベンゾジアゼピン系)であれば、医師が必要と認めた場合に限り、初診でも処方される可能性があります

医師がオンライン初診で処方を検討しやすい状況

  • 不眠の症状が軽度~中等度であり、明確な生活背景や環境因子が確認できる
  • 患者が既往歴や服薬歴を明確に申告でき、リスク要因が少ないと判断される
  • 自傷念慮や希死念慮などの緊急性が認められない場合

処方が難しい、あるいは対面診療が推奨される状況

  • 重度のうつ病、双極性障害、統合失調症など、ICD-11やDSM-5-TRで「精神病性特徴」や「気分の急性変動」を伴う診断が疑われる場合
  • ベンゾジアゼピン系など、依存性・習慣性の高い薬剤が必要とされる症例
  • 医師が診療情報の不足、患者の受け答えから安全性の懸念を抱いた場合

睡眠薬の中でもレンドルミン(ブロチゾラム)やハルシオン(トリアゾラム)などのベンゾジアゼピン系薬剤は、初診では原則処方されません

代わりにゾルピデム、エスゾピクロンなどの非ベンゾジアゼピン系や、ロゼレム(ラメルテオン)などのメラトニン受容体作動薬が検討されることが多いです。

どのような薬が適しているかは、症状のタイプや重症度、併存疾患の有無などを踏まえて、医師が総合的に判断します。問診票の記入や診療前の情報提供は、正しい判断のためにも非常に重要です。

まとめ
  • 睡眠薬は条件を満たせばオンライン診療でも処方可能です
  • 指針に基づき、本人確認・リアルタイム診療・記録保存が必須です
  • 初診時は依存性のある向精神薬の処方は制限されており、非ベンゾジアゼピン系やメラトニン系薬の一部に限られます
  • 医師がオンラインでも安全に判断できると認めた場合のみ、初診処方が行われます
  • 問診票や本人の症状の説明内容が処方可否に大きく影響します

ここまで、睡眠薬がオンラインで処方される際の制度や条件、初診での対応について詳しくお伝えしました。

次の章では、それぞれの薬の特徴や作用の違い、副作用の傾向について、専門的な視点からわかりやすく解説していきます。

オンラインで処方される睡眠薬の種類と特徴

オンライン診療を利用して睡眠薬を処方してもらう場合、「どのような薬が出されるのか」「自分に合う薬なのか」という点が気になる方も多いのではないでしょうか。

実は睡眠薬にはさまざまな種類があり、薬ごとに効き方や副作用、依存リスクなどが異なります。

医師は、患者さんの不眠のタイプや日中の活動、既往歴などをふまえて、なるべく安全性が高く依存性の少ない薬剤を選ぶよう心がけています。

この章では、オンライン診療でよく処方される睡眠薬の種類や特徴について、医学的な根拠に基づいてわかりやすく解説していきます。

主に処方される薬の例(ゾルピデム、エスゾピクロンなど)

オンライン診療では、依存性や習慣性が比較的低く、安全性に配慮された薬剤が選択される傾向があります。

以下に、代表的な睡眠薬をご紹介します。

ゾルピデム(商品名:マイスリーなど)

エスゾピクロン(商品名:ルネスタ)

  • 【分類】非ベンゾジアゼピン系
  • 【作用時間】短~中時間型(5〜7時間)
  • 【適応】中途覚醒・早朝覚醒にも対応しやすい薬とされています
  • 【特徴】入眠から睡眠維持までサポートできる薬で、比較的依存リスクも低いとされます
  • 【注意点】苦味や金属のような味を感じる副作用が比較的多く報告されています

ラメルテオン(商品名:ロゼレム)

  • 【分類】メラトニン受容体作動薬
  • 【作用時間】体内リズムへの作用を持つ(眠気誘導効果は穏やか)
  • 【適応】概日リズム障害、自然な眠気の誘導
  • 【特徴】自然な眠気を促す作用があり、依存性は極めて低いとされています
  • 【注意点】効果が現れるまで数日かかることもあり、即効性は期待しにくい場合があります

スボレキサント(商品名:ベルソムラ)

  • 【分類】オレキシン受容体拮抗薬(DORA)
  • 【作用時間】中~長時間型(9時間程度)
  • 【適応】入眠困難、中途覚醒の両方に適応されることがあります
  • 【特徴】覚醒を促す神経をブロックすることで、眠気を促す作用があります
  • 【注意点】ふらつき翌朝の眠気が報告されているため、用量調整や生活への影響を考慮して使う必要があります

いずれの薬も、従来のベンゾジアゼピン系薬剤(レンドルミン、ハルシオンなど)と比べて依存性が低く、安全性が高いとされる薬です。

特にオンライン診療では、初診で処方される可能性がある薬剤として、このような非依存性タイプが検討されやすい傾向にあります。

効き方の違い(即効型・持続型)

不眠とひとくちに言っても、実際には症状のパターンによって最適な薬が異なります。

DSM-5-TRやICD-11の定義にもとづくと、不眠症には以下のようなタイプがあります。

  • 入眠困難(寝つきに時間がかかる)
  • 中途覚醒(夜中に何度も目が覚める)
  • 早朝覚醒(起きるつもりの時間よりもずっと早く目が覚める)

こうした不眠タイプに合わせて、薬の「作用時間」を使い分けることが重要になります。

超短時間型(即効型)

  • 【代表薬】ゾルピデム、トリアゾラムなど
  • 【特徴】30分前後で効果が現れ、作用時間は2〜3時間程度
  • 【適応】主に入眠困難の方に適しています
  • 【注意点】睡眠の持続時間が短いため、中途覚醒や早朝覚醒には不十分なこともあります

短~中時間型

  • 【代表薬】エスゾピクロン、スボレキサント
  • 【特徴】作用時間が5〜9時間と長めで、夜間の途中覚醒や早朝覚醒にも対応しやすい
  • 【適応】睡眠の維持が課題の方に向いています
  • 【注意点】翌朝の眠気や倦怠感が残ることがあるため、日中の活動に影響しないかを注意深く評価する必要があります

長時間型(オンライン初診では慎重な扱い)

  • 【代表薬】フルニトラゼパム、ニトラゼパムなど
  • 【特徴】強い睡眠維持効果がある一方で、翌朝の持ち越しや依存リスクが高い
  • 【備考】オンライン診療では、特に初診時には処方が控えられることが多く、使用は厳格に管理されます

医師はこれらの特徴をふまえ患者さんの不眠のタイプや生活スタイル(仕事、育児、運転の有無など)を総合的に考慮して薬を選びます

睡眠薬は「強いもの=よい薬」ではなく、「その人に合った作用時間と副作用プロファイルを持つ薬」が最適とされます。

副作用や依存リスクにも注意が必要

睡眠薬は、不眠症の治療に大きな力を発揮しますが、一方で副作用や依存性といったリスクを持ち合わせています

とくにオンラインでの処方を希望する場合でも、これらのリスクについては理解しておくことが大切です。

よくある副作用

  • 翌朝の眠気、だるさ、頭重感
  • めまい、ふらつき(高齢者は特に注意)
  • 口の中の違和感や苦味(エスゾピクロンなどで頻度が高い)
  • 一過性の記憶障害(ゾルピデムなどで報告あり)

これらの副作用は、薬の効果が朝まで残ることによって起こるケースが多く、特に運転や重要な作業を控える必要があります。

依存性と耐性

ICD-11でも、「物質使用に関連する睡眠障害」は独立した疾患カテゴリとして位置づけられており、薬剤依存のリスクは医学的にも明確に認識されています。

安全に使うためのオンライン診療でのポイント

  • 医師が定期的に服薬状況や副作用を確認できる体制があるか
  • “まとめて多めに出してほしい”といった要望は控える
  • 市販薬や他の服薬との併用リスクについて、必ず医師に相談する

オンライン診療だからこそ、信頼できる医療機関を選び、自己判断を避けることがとても大切です。

まとめ
  • オンライン診療では、依存性の低い非ベンゾジアゼピン系・メラトニン受容体作動薬などが中心に検討されます
  • 不眠のタイプ(入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒)に応じて、薬の作用時間を使い分けることが重要です
  • ベンゾジアゼピン系は依存・耐性リスクが高く、オンラインでは慎重に扱われます
  • 副作用や併用禁忌に注意しながら、医師と連携して安全に服薬を続けましょう

オンライン診療の流れと必要な準備

オンライン診療は、スマートフォンやパソコンがあれば自宅から簡単に受けられる便利な仕組みですが、実際にはいくつかのステップや準備が必要です。

この章では、オンライン診療をスムーズに受けるための流れと、事前に準備しておきたいポイントを丁寧に解説していきます。

診察予約から薬の受け取りまでのステップ

オンライン診療で睡眠薬を処方してもらうまでには、次のような流れがあります。

1. 医療機関の選定と予約

まずは、オンライン診療に対応した精神科・心療内科の医療機関を探しましょう。

厚生労働省の指針に基づき、都道府県への届出が済んでおり、医師名や連絡先などが明示されているクリニックを選ぶことが大切です。

予約は、多くの場合クリニックのウェブサイトや専用アプリから可能です。診察の希望日時、基本情報、問診票の記入などを入力するフォームが用意されていることが一般的です。

2. 事前の問診と確認事項の送信

オンライン診療では、医師が限られた情報で診断を行うため、事前の問診票の記入が非常に重要です。

不眠症状の内容(入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒など)、睡眠時間、生活習慣、既往歴、現在の服薬などを詳しく書くことで、診断の精度が高まります。

必要に応じて、医療機関側から「過去の検査結果」や「服薬履歴」などの提出を求められることもあります。

3. オンライン診察(ビデオ通話)

予約日時になったら、医師とのビデオ通話による診察が始まります。

精神科の診療では、表情や声のトーン、非言語的な反応なども重要な診察材料となるため、静かな環境で、顔が明瞭に映る状態で受診することが大切です。

診察では、不眠症の診断基準(DSM-5-TRでは「睡眠に関する苦痛が日常生活に支障を及ぼしているか」など)に基づき、医師が状況を丁寧に確認してくれます。

症状や背景、医師の判断によっては、薬を使わずに生活改善や認知行動療法(CBT-I)を提案される場合もあります。

4. 処方と薬の受け取り

診察後、医師が必要と判断した場合には処方が行われます。

処方には2つのパターンがあります。

  • 電子処方箋対応の薬局と連携して、薬が配送されるパターン
  • 処方箋の原本を郵送し、患者が薬局に提出するパターン

電子処方箋の場合、オンライン上で薬局に処方内容が送られ、自宅への宅配便などで薬が届くケースが増えています。薬剤師による服薬指導(オンラインまたは電話)を受けてから受け取りとなります。

薬の配送には数日かかることもあるため、急な服薬変更を避け、余裕を持って相談することが望ましいです。

本人確認や医療証の提示について

オンライン診療では、本人確認の徹底が法律上求められています

これは、なりすましや不正取得、薬の乱用を防ぐための大切なルールです。

本人確認に必要な書類の例

  • 顔写真付き身分証明書(マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなど)
  • 健康保険証(保険診療を希望する場合)
  • 医療証(自立支援医療などを利用する場合)

医療機関によっては、予約時に写真をアップロードしたり、診察前に画面越しに提示したりする方法が取られます。

本人確認が取れない場合、処方ができなかったり、初診扱いが無効になることもあるため、必ず事前に確認しておくようにしましょう。

処方・保険診療のための注意点

  • 健康保険を使う場合は、保険証の提出・確認が必須
  • 薬の配送後も、服薬指導の有無や体調変化を共有することで安全な治療につながります

また、精神疾患の診療では、保険適用の条件や医療証の有無が費用面に大きく関わるため、自立支援医療制度の対象かどうかを確認しておくこともおすすめです。


まとめ
  • オンライン診療では、予約・問診・診察・処方・服薬指導の一連の流れがあります
  • 問診票は診療の精度を大きく左右するため、丁寧な記入が重要です
  • 本人確認書類や保険証の提示は必須。診療前に提出方法を確認しましょう

市販(OTC医療薬)の睡眠改善薬との違い

「病院に行くのはちょっとハードルが高いから、とりあえず市販の睡眠改善薬を試してみようかな…」

不眠に悩んだとき、まずドラッグストアで手に入る市販薬を手に取る方も少なくありません。

実際、市販の睡眠改善薬(OTC医薬品)は、薬局やインターネットでも手軽に購入できるため、初期対応として選ばれることも多いです。

ただし、市販薬と医師が処方する睡眠薬(処方薬)では、作用の仕組みや効果の強さ、適応できる症状の範囲が大きく異なります

この章では、市販薬と処方薬の違い、どんな不眠にどちらが向いているか、そして受診の目安になるサインについて、精神科医の視点からわかりやすく解説します。

OTC(一般用医薬品)と処方薬の効き目の違い

市販の睡眠改善薬(OTC医薬品)と医療機関で処方される睡眠薬とでは、有効成分の種類・作用の強さ・副作用の出方などに明確な違いがあります。

OTC(一般用医薬品)の特徴

  • 多くは抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミンなど)が主成分
  • 抗アレルギー作用の副作用として「眠気」があることを利用
  • 「ドリエル」「ナイトール」「ウット」などが代表的

▶ 眠気を誘導する作用はあるが、本来は睡眠作用を目的とした薬ではない

▶ 睡眠リズム障害や慢性不眠症に対しては、十分な効果が得られないことが多い

病院による処方薬の特徴

  • 不眠症の治療を目的として設計された薬剤(ゾルピデム、エスゾピクロン、ロゼレムなど)
  • DSM-5-TRやICD-11で定義される「不眠症」に適応
  • 睡眠の質やリズムの改善に直接作用

▶ 不眠の原因やタイプ(入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒など)に合わせて処方内容が調整可能

▶ 医師の診断と管理のもとで使うため、症状に合った薬を安全に使いやすい

つまり、市販薬は「一時的な不眠への軽い対応」には向く可能性がありますが、医学的に定義される不眠症(Insomnia disorder)には処方薬が適しているといえるでしょう。

市販薬で対応できるケース・できないケース

OTC医薬品が役立つのは、一時的・環境的な要因で起こる軽度の不眠です。

以下のようなケースでは、市販薬でのセルフケアが一定の効果を示す場合があります。

市販薬で対応できることがあるケース

  • 翌日に緊張する予定(試験、プレゼンなど)があり一晩だけ眠れない
  • 海外旅行後など、軽い時差ボケや生活リズムの乱れ
  • ストレスによる一時的な入眠困難(数日以内)

▶ このような場合、抗ヒスタミン系のOTC薬を数日使って様子を見る、という方法はあります。

ただし、「使用は数日以内」「服用間隔を空ける」「連用を避ける」という条件が前提です。

市販薬では対応が難しいケース

▶ こうした場合には、市販薬での対応は適さず、むしろ医療機関での評価と処方が推奨されます

また、持病がある方や他の薬を飲んでいる方は、市販薬であっても思わぬ副作用や相互作用が起こることがあります。安易な服用は控えるべきです。

医師に相談すべき不眠のサイン

不眠があるからといって、すぐに薬に頼る必要はありませんが、医師に相談した方が良いサインはいくつかあります。

以下のような症状がある場合には、一度精神科や心療内科の受診を検討してみてください。

受診を検討すべきサイン

  • 不眠が週3回以上、1か月以上続いている
  • 寝ても疲れが取れず、日中の集中力や気分に影響が出ている
  • 気分の落ち込み、不安、焦燥感など精神的な症状が伴っている
  • 市販薬を使っても改善しない、または副作用が強く出る
  • 睡眠薬をやめたくてもやめられない、依存が心配
  • 朝起きられず、遅刻や欠勤が続いている
  • 家族や周囲から「心配」と言われたことがある

DSM-5-TRやICD-11では、不眠症は単なる睡眠不足ではなく、「日中機能の障害を伴う慢性的な睡眠困難」として分類されます。

こうした状態に当てはまる場合、医学的なアプローチが必要です。

また、「自分の症状が病院に行くレベルなのか分からない」と感じる方も多いと思いますが、不眠は放置せず、軽いうちに専門家へ相談することが、重症化を防ぐ第一歩になります


まとめ
  • 市販の睡眠改善薬は、抗ヒスタミン薬などが主成分で、あくまで一時的な不眠への対処用
  • 医師の処方薬は、不眠症の診断に基づき、効果や副作用のバランスを考慮して処方される
  • 市販薬で対応できるのは、軽度で一時的な不眠のみ。慢性化した不眠には不適切
  • 不眠が続く、精神的症状がある、日常生活に支障が出ている場合は、早めに専門医へ相談を

対面が推奨されるケース / 服薬の注意点

オンラインで睡眠薬を処方してもらえることは、通院の負担を減らしたい方や、多忙な日常を送る方にとって大きなメリットです。

ただし、オンライン診療には便利さと同時に、いくつかの制限や注意点も存在します。

特に睡眠薬のように効果が強く、使い方を誤るとリスクも伴う薬剤については、安全性と継続的な医療管理の両立が非常に重要です。

この章では、精神科医の立場から、オンライン処方を受ける際にぜひ知っておいてほしいポイントを詳しくご紹介します。

処方対象外となるケース(重度のうつ・統合失調症など)

オンライン診療は柔軟な診療形態ですが、すべての症状に適しているわけではありません

特に以下のようなケースでは、安全面や診断精度の観点から対面診療が優先されることが多いとされています。

重度のうつ病や双極性障害が疑われる場合

DSM-5-TRやICD-11では、うつ病の重症度は「希死念慮」「精神運動制止」「社会機能の顕著な低下」などによって評価されます。

これらの徴候をオンラインで十分に把握するのは難しいことがあり、診断の正確性や安全性を確保するため、対面診療が推奨されることがあります

また、双極性障害では、軽躁エピソードや混合状態の見極めが重要で、患者本人が自覚しにくい場合もあるため、オンラインのみでの判断は難しいとされています

希死念慮や自殺企図がある場合

精神科のオンライン診療において、急性の自殺リスクや自傷行動が懸念される場合は、医師の判断により診療を中断し、速やかに対面診療または救急対応へ切り替えることが原則です。

DSM-5-TRにおいても、希死念慮は緊急介入が必要な臨床指標とされています。

自己判断で薬を増減しないことの重要性

睡眠薬をオンラインで処方してもらうと、自宅で薬を受け取れるため便利な一方で、服薬管理が自己責任になりやすい側面もあります。

過量服用は依存や副作用リスクを高める

たとえ依存性が低いタイプの薬であっても、自己判断で量を増やすことは、耐性形成・依存・副作用のリスクを高めます

しかし、こうした使い方は睡眠薬の乱用につながりかねず、翌朝の眠気や注意力の低下、転倒リスクなどを引き起こす可能性があります。

自己判断での減薬も危険を伴う

「薬をやめたい」「依存したくない」という思いから、医師に相談せず自己判断で減量・中止してしまうこともありますが、急な中止は離脱症状を引き起こすことがあります

不安、不眠、イライラ、震え、頭痛、場合によってはけいれん発作など重篤な反応が起こるリスクも指摘されています。

特にベンゾジアゼピン系薬剤では、必ず医師の指導のもとで“漸減(少しずつ減らす)”という方法で中止する必要があります。

医師との継続的な関係と服薬フォロー

オンライン診療は気軽に受けられる反面、「診察が単発で終わってしまいがち」というリスクがあることも事実です。

睡眠薬は、数週間〜数か月使用していく中で、効き目が落ちてくる(耐性)こともあります。

また、不眠の背景にある生活習慣やストレス、気分障害などの影響が変化することで、効果が変わることもあります。

こうした変化に早く気づき、薬の種類や量を調整するためには、定期的な医師とのコミュニケーションが必要になることを覚えておいてください。


まとめ
  • 重度の精神症状(うつ病、双極性障害、統合失調症など)が疑われる場合は、対面診療が推奨されることが多い
  • 睡眠薬の自己調整(増減)は、依存・離脱症状などのリスクがあるため避けるべき
  • 医師との定期的なフォローアップが、薬の効果変化への対応や減薬計画の立案に重要
  • 信頼できる医療機関で、継続的に治療を受けられる体制を選ぶことが望ましい

まとめ

眠れない夜が続くと、心も体もすり減っていくような感覚になることがあります。

「自分だけかもしれない」「相談してもいいのかな」と不安を抱えていた方にとって、オンライン診療は、もっと気軽に第一歩を踏み出せる手段のひとつです。

ただし、睡眠薬には効果とともに副作用や依存リスクもあるため、医師の指導のもとで適切に使うことが大切です。

市販薬との違いや、使用のタイミング・リスクを理解することで、自分に合った方法を見つけやすくなります。

最後に、この記事のポイントをまとめます。

■ 本記事のまとめ
  • オンラインでも睡眠薬の処方は可能で、医師の診察を受けたうえで行われる
  • ゾルピデムやエスゾピクロンなどがよく使われ、即効型と持続型で効き方が異なる
  • 副作用や依存リスクがあるため、自己判断での服用は危険
  • 市販薬(OTC)は抗ヒスタミン薬が主で、一時的な不眠には対応できるが、慢性不眠には向かない
  • 精神症状や日中の支障を伴う不眠は、医療機関への相談が必要

不眠は、正しい情報と少しの勇気で乗り越えられる課題です。

必要なときには、医師や専門家の力を借りながら、一歩ずつ快適な眠りを取り戻していきましょう。

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