「オープンダイアローグ 7つの原則」を聞いたことがある方の多くは、オープンダイアローグが“対話で支援する方法”だと聞きつつも、「具体的に何を大事にしているの?」「家族も参加するって本当?」「効果はあるの?」と、全体像をつかみたい段階にいるのではないでしょうか。
オープンダイアローグは、フィンランド(西ラップランド)で発展した危機介入のアプローチで、本人を中心に“関係者みんなで対話する”ことを軸に進めます。その土台になるのが「7つの原則」です。
この記事では、初心者の方にも分かるように、7原則の意味・実践イメージ・注意点まで、やさしく整理します。
オープンダイアローグとは?
オープンダイアローグ(Open Dialogue)は、本人(当事者)だけでなく、家族・友人・支援者など“社会的ネットワーク”も含めて同席し、対話を中心に危機(クライシス)を支える実践です。
特徴としてよく語られるのは、初回を早期(24時間以内)に設定すること、支援チームが継続して関わること、そして決定や評価を当事者の前で透明に行うこと(リフレクティングを含む)などです。
大切なのは「正解を急いで決める」よりも、「いま起きていることを、関係者が同じ場で言葉にしていく」こと。
その“姿勢”を具体化したガイドラインが「7つの原則」です。
「7つの原則」について
オープンダイアローグの7原則は、文献で概ね以下のように整理されています。
| 原則 | 英語表記(代表例) | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| 1 | Immediate help | まず“今すぐ”つながる |
| 2 | Social network perspective | 本人だけでなく関係性を含める |
| 3 | Flexibility and mobility | 状況に合わせて柔軟に動く |
| 4 | Responsibility | チームが責任を引き受ける |
| 5 | Psychological continuity | 途切れない支援(継続性) |
| 6 | Tolerance of uncertainty | 結論を急がず不確実さに耐える |
| 7 | Dialogism | 対話そのものを中心に据える |
1. 即時対応(Immediate help)
ポイント:危機のときほど「早く会う」。初回面談を24時間以内に設定することが代表例です。
危機の初期は、本人も周囲も不安が高く、状況が急変しやすい時期です。ここで“評価・結論・治療方針”を急ぐより先に、まず会って言葉を交わすことが安全性にもつながります。
例
- 家族:「昨夜から眠れず、話が飛ぶ。どうしたら…」
- 支援:「今日中に一度集まりましょう。まず状況を一緒に言葉にします」
家庭でできる工夫
- 「落ち着いてから話そう」ではなく、短くても“今”つながる(電話・対面)
- 危険が疑われる場合は、対話だけで抱え込まず緊急対応を優先(後述)
2. 社会的ネットワークの視点(Social network perspective)
ポイント:本人の症状“だけ”ではなく、生活・関係性・支え手も含めて考える。
ネットワークミーティングでは、家族だけでなく、本人が同意できる範囲で友人、職場、学校、支援機関などが参加します。問題の原因探しではなく、支援資源を増やし、孤立を減らす狙いがあります。
例(参加者)
本人/親/きょうだい/親しい友人/相談支援専門員/主治医 or 地域スタッフ など
3. 柔軟性と機動性(Flexibility and mobility)
ポイント:マニュアル通りではなく、その人の状況に合わせて支援の形を変える。
- 場所:病院だけでなく自宅・地域へ(可能な範囲で)
- 頻度:急性期は密に、その後は状態に応じて調整
- 参加者:毎回同じとは限らない(本人の負担も考慮)
「こうあるべき」より、「いま必要な支援は何か」を毎回すり合わせます。
4. 責任(Responsibility)
ポイント:紹介先をたらい回しにせず、“最初に受けたチーム”が責任を持つ。
危機のとき、支援が分断されると不安が増します。オープンダイアローグでは、初回連絡を受けたチームが窓口となり、必要な資源につなぎながらも「誰が見ているのか」が曖昧にならないようにします。
イメージ
- 「担当が不在なので別日に」ではなく、チームとして“連続して”受け止める
- 医療・福祉・家族の役割分担をその場で明確化する
5. 心理的連続性(Psychological continuity)
ポイント:支援者が頻繁に入れ替わらず、関係性が積み上がるようにする。
「毎回説明し直す」負担が減るだけでなく、本人にとって安心の土台(安全基地)になりやすいと言われます。特に、言葉にしにくい体験(幻聴、妄想様の体験、トラウマ反応など)があるとき、関係性の継続は重要です。
6. 不確実性に耐える(Tolerance of uncertainty)
ポイント:“診断・結論・将来予測”を急がず、分からなさを抱えたまま対話する。
危機の場面では、周囲も本人も「原因は?」「病名は?」「どうすれば治る?」と答えを求めがちです。けれど、早い断定が本人の語りを狭め、関係者の視野を狭めることもあります。
ここでの“不確実性に耐える”は、放置ではありません。安全を確保しつつ、複数の見立てを保留にして、対話を続ける力です。
言い換えると
- 「今は結論を一つにしない」
- 「分からないことを、分からないまま共有する」
7. 対話主義(Dialogism)
ポイント:介入の中心は“説得”ではなく、対話によって新しい意味が立ち上がること。
オープンダイアローグでは、多声性(いろいろな立場の声)が尊重されます。支援者が“正解の説明”を提供するより、本人とネットワークの言葉が交差するなかで、**納得できる物語(意味づけ)**が育つことを重視します。
その実践技法として、当事者の前で支援者同士が感じたことを言葉にする「リフレクティング」も重要な位置づけです。
よく誤解されるポイント
オープンダイアローグは、しばしば「薬や入院を極力使わない」といった文脈で紹介されますが、それは“反医療”の主張とは別物として整理されています。状況によって医療的介入が必要な場合もあり、対話と安全確保を両立させる視点が前提です。
近年は国際的にもオープンダイアローグが注目され、各国で導入・評価が進んでいます。例えば、7原則そのものは複数の文献で一貫して紹介されており、WHOのQualityRights文脈で触れられることもあります。
一方で、研究デザインや実装環境の違いも大きく、「どの条件で、どの程度有効か」を一概に言い切るのは難しい、という慎重な議論もあります。日本語の概説でも、重要研究の参照とともにエビデンスの位置づけが論じられています。
読み手としての“現実的な理解”
- 7原則は“実践のガイドライン”であり、特定の疾患に対する単独の治療法の説明ではない
- 対話が合う人もいれば、急性のリスクが高い時期には医療的安全確保が優先されることもある
- 「対話+チーム支援+必要な医療」まで含めて“包括的支援”として理解すると誤解が減る
向いているケース/向かないケースの目安
※以下は一般論です。個別判断は医療機関・支援機関に相談してください。
比較的“検討しやすい”ことが多い例
- 家族や支援者との関係がこじれており、まず話し合いの場が必要
- 本人が孤立していて、支援ネットワークを再構築したい
- 「症状」だけでなく、生活背景やトラウマ、ストレス要因も含めて整理したい
- 支援方針を“本人の前で透明に”話し合いたい
まず安全確保が最優先になりやすい例
- 自傷他害の切迫、極端な興奮、著しい栄養・睡眠不足など、緊急性が高い
- DVや虐待が疑われ、同席が安全を損なう可能性がある
- 同席者が本人を強く支配・威圧し、対話の安全が担保できない
自分や家族ができる“対話の準備”チェックリスト
ネットワークミーティング的な対話を、日常に近い形で試すこともできます(無理のない範囲で)。
チェックリスト
- 「結論」より「今起きていること」を先に共有できている
- 本人の話を遮らず、言い終わるまで待てる
- その場で“評価(良い/悪い)”を確定しない
- 分からないことを「分からない」と言える
- 一人で抱えず、支援者(医療・福祉・学校・職場)に同席を頼める
- 危険が高いサイン(不眠の連続、極端な焦燥、自傷念慮の増大等)があれば、対話だけで粘らず緊急相談につなぐ
まとめ
オープンダイアローグの「7つの原則」は、対話を中心に危機を支えるための実践ガイドラインです。即時対応でつながり、本人だけでなく社会的ネットワークを含め、状況に合わせて柔軟に動き、支援チームが責任を引き受け、関係性が途切れない心理的連続性を守る。そして、結論を急がず不確実性に耐え、多声性を尊重する対話主義を軸にします。
大切なのは「対話が万能」という話ではなく、安全を確保しながら、本人と周囲が“言葉を取り戻す場”を整えるという発想です。もし今まさに苦しさが強いなら、ひとりで抱え込まず、医療機関や地域の相談窓口につながりながら、必要に応じて“対話的支援”という選択肢も検討してみてください。
