DV(ドメスティック・バイオレンス)というと、多くの人が「男性が女性に暴力をふるうケース」を想像するかもしれません。

しかし、実際にはその逆――「女性から男性へのDV」も確かに存在します。

暴言や無視、経済的な支配、性的コントロールなど、形を変えて行われる暴力は、被害を受けた側の心を深く傷つけます。

それでも「男なのに弱音を吐けない」と感じ、誰にも言えず苦しんでいる方も少なくありません

本記事では、女性からのDVの特徴や心理的背景、そして安全を確保しながら回復していくための方法を、専門的な観点から分かりやすく解説します。

女性からのDVとは?――定義と現実を正しく理解する

近年、DV(ドメスティック・バイオレンス)は男性から女性への暴力だけでなく、女性から男性への加害もまた深刻な社会問題として注目されています。

この章では、DVの基本的な定義を整理したうえで、女性から男性へのDVの実態や、それが社会の中でなぜ見過ごされやすいのかについて、丁寧に解説していきます。


DVの基本的な定義(身体的・精神的・性的・経済的DV)

DVとは、配偶者・恋人・パートナーといった親密な関係性の中で行われる暴力や支配のことを指します。

これは単なる殴打などの身体的暴力に限らず、精神的・性的・経済的な側面まで幅広く含まれます。

WHO(世界保健機関)やICD-11でも、DVは「パートナー間における身体的、性的、心理的な搾取・暴力」と定義されていますが、具体的にどのようなケースがあるか説明します。

身体的DV

殴る・蹴る・物を投げつけるなど、直接的な暴力です。

女性加害の場合も、意外とこの身体的DVが見られることがあります。

たとえば、感情的に興奮した際に、平手打ちをする、物を投げつける、爪で引っかくといった行為が該当します。

精神的DV

もっとも見えにくく、長期的に心の健康を蝕むのが精神的DVです。

たとえば、人格を否定する発言(「あなたは無能」「価値がない」など)、無視や沈黙、侮辱、恫喝などが含まれます。

女性からの精神的DVは、「言葉の刃」として男性の自尊心を傷つけ、自己否定感を植えつけるケースが多く報告されています。


女性から男性へのDVが見過ごされやすい理由

女性から男性へのDVが問題として認識されにくい背景には、いくつかの社会的・心理的なバイアスがあります。

「男性は強い」「女性は非力」というステレオタイプ

多くの人は、「DV=力の強い男性が弱い女性に暴力を振るうもの」という固定観念を持っています。

この思い込みによって、女性が男性を傷つける可能性を最初から排除してしまうのです。

たとえ男性が「叩かれた」「言葉で追い詰められた」と訴えても、「それぐらい我慢すれば?」「男なのに情けない」と返されることが多々あります。

男性側の「助けを求めにくさ」

男性は社会的に「弱音を吐かないこと」「感情を表に出さないこと」が美徳とされがちです。

これがDV被害を自覚することや、相談機関に連絡を取ることをためらわせる要因になります。

また、警察や福祉機関に相談しても「本当に被害者なのか」と疑われ、真剣に取り合ってもらえないケースもあるのです。

社会的偏見と「男性は強い」という思い込みの弊害

日本社会においては、「男らしさ」の神話がいまだに根強く残っています。

こうしたジェンダー規範は、精神的にも大きな悪影響を及ぼします。

DVの被害にあい続けた男性は、慢性的なストレス、抑うつ、不眠、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などのメンタルヘルス問題を抱えることが多く、回復までに長い時間がかかることも少なくありません。

本来、暴力や支配は性別に関係なく「加害」として扱われるべきであり、誰もが安全で尊重されるべき人間関係を築く権利があります。

DVという問題においても、「男性被害者」への理解と支援が急務なのです。


本章のまとめ
  • DVは身体的・精神的・経済的・性的な支配を含む広範な概念です
  • 女性から男性へのDVも現実に存在し、深刻な心身の影響を及ぼします
  • 社会的な偏見や固定観念が、男性被害者の声をかき消しています
  • 「強い男性像」の押し付けが、被害の可視化を妨げています
  • 支援体制の整備と、男女を問わないDVの理解が必要です

次章では、女性加害によるDVの具体的な行動パターンやその背後にある心理構造について、より詳細に見ていきましょう。

女性加害によるDVの特徴、診断チェックリスト

この章では、女性によるDVがどのような形で現れやすいのか、その代表的な行動パターンを、精神的・経済的・性的・社会的側面に分けて詳しく解説します。

自分が今置かれている状況がDVに該当するのかどうかを判断する手がかりとして、参考にしてみてください。


言葉や沈黙による心理的支配(無視・暴言・人格否定)

精神的なDVの中でも、言葉による攻撃は非常に多く、深い傷を残します。

とくに女性加害者によるDVでは、言葉や態度を使って相手を巧みに支配し、心理的に追い詰めていく傾向が見られます。

暴言と人格否定

「役立たず」「あなたなんかいない方がいい」「男のくせに情けない」といった暴言は、被害者の自尊心を奪い、自信を喪失させます。

これは一度きりではなく、繰り返し行われることで「自分が悪いのだ」と思い込ませる心理的支配の一形態です。

沈黙と無視

あからさまな言葉ではなく「沈黙」や「無視」という形で相手を制裁するパターンもあります。

たとえば、気に入らないことがあると何日も口をきかず、被害者が謝るまで無視を続ける

これにより、被害者は常に相手の機嫌をうかがい、自分を抑え込み続けることになります。

ガスライティング

「そんなこと言ってない」「あなたの思い違い」「被害妄想じゃない?」といった発言を繰り返すことで、相手に自分の感覚や記憶への不信感を植えつける「ガスライティング」も女性加害者に見られる特徴です。

これは被害者の思考を徐々に麻痺させ、支配を強固にしていく心理的DVの代表例です。

このような「言葉や態度による暴力」は外部からは見えづらく、周囲からの理解を得にくいことが多いため、被害者は孤立しやすくなります。


経済的DV(貯金・給与の管理、金銭の強要)

経済的な支配もまた、女性加害者によるDVのなかで深刻な問題となっています。

家計の完全な支配

夫やパートナーの収入を「全部預かるのが当然」という前提で、明確な話し合いもなく給与や口座を完全に管理するケースがあります。

その上で、小遣いを極端に制限したり、本人の判断で自由に使えるお金を与えなかったりするのは、立派な経済的DVに該当します。

無断借金・金銭の強要

「親に仕送りして」「買い物したいからカード貸して」と、相手の同意を得ずに金銭を要求したり、勝手に借金をして男性に返済させたりする事例もあります。

こうした行動は、被害者の経済的な自立や将来設計を妨げ、精神的にも大きなストレスとなります。

貧困への追い込みと評価の否定

働いているのに「稼ぎが少ない」「もっと努力しろ」などと繰り返し否定することで、経済的に不十分な状況を「お前のせいだ」と刷り込むパターンもあります。

これは金銭的支配に加えて、精神的DVも複合して行われている状態です。

経済的DVは、表面的には「家計管理」「家庭内の役割分担」と見なされがちですが、実態は相手の自由や尊厳を奪う深刻なコントロール行為であることを理解する必要があります。


性的支配やコントロール

性的DVは、「強制的な性行為」だけを指すものではありません。

女性加害者による性的DVは、より巧妙で見えにくい形で行われることがあります。

性行為への同意を前提とした支配

「夫なら応じて当然」「断るなら浮気を疑う」といった態度で性的な要求を押しつけ、断ると怒る・罰する・泣くといった形で罪悪感を与える行為は、性的コントロールに該当します。

性的拒否による制裁

逆に、性的な関係を意図的に拒み続けることで相手を精神的に追い詰め、「あなたが悪いからしたくない」「努力が足りない」と言い続けることも、支配の一種です。

これは性的関係を「報酬・罰」の道具にしている状態であり、関係性の健全性を大きく損ないます。

セクシュアリティの攻撃

被害者の性機能や性的嗜好を侮辱したり、「変態」「気持ち悪い」といった否定的な言葉を投げつけることで、性的自尊心を破壊しようとする行動も見られます。

これは深刻な精神的ダメージを引き起こすだけでなく、男性としての自己価値観を揺るがす要因にもなります。

性的な領域は非常にプライベートであるため、被害を打ち明けにくく、長期にわたって心の傷が残ることが多いのが特徴です。


周囲を巻き込むタイプ(SNSでの誹謗中傷・虚偽の被害申告)

女性加害者の中には、自分の行動を正当化するために周囲を巻き込むタイプも存在します。

このようなケースでは、被害者が加害者のように仕立て上げられ、名誉を傷つけられるという二次被害が起こることもあります。

SNSでの誹謗中傷

「彼にDVされた」「精神的に支配された」といった内容をSNSで一方的に発信し、被害者側の男性を社会的に追い詰めるケースが増えています。

匿名性のあるインターネットでは拡散力が強く、一度広まると取り返しがつかない事態にもなりかねません。

虚偽の被害申告・冤罪

離婚・別居・養育費請求などを有利に進めるために、実際にはなかったDV被害を訴えるケースもあります。

男性側が何もしていなくても、先に「被害者」として申し出た方の証言が信じられてしまうと、冤罪的に扱われてしまうリスクがあります。

味方の取り込み

共通の友人や家族に嘘を吹き込み、「彼はおかしい」「私が被害者だ」とアピールし、被害者男性を孤立させるパターンもあります。

これは心理的圧迫だけでなく、社会的な信用や支援ネットワークを奪う深刻な攻撃です。

このような行動は、単なる夫婦喧嘩の域を超えており、相手の人権や人生を脅かす「社会的DV」ともいえる行為です。


本章のまとめ
  • 女性によるDVは、言葉・金銭・性・人間関係など多面的に行われます
  • 暴言や無視、人格否定などの精神的支配が中心です
  • 経済的DVは「家計管理」の名のもとに行われることもあります
  • 性的DVは、同意の押しつけや拒否による制裁が含まれます
  • SNSや嘘の申告など、社会的信用を奪う行為にも注意が必要です

次章では、こうした女性加害者がなぜDVを行ってしまうのか――

その心理的背景や、性格傾向、過去のトラウマ、社会環境などについて掘り下げていきます。

加害者となる女性の心理背景とメカニズム

DVを繰り返す女性加害者の背景には、単なる「性格の悪さ」や「わがままさ」では説明しきれない複雑な心理的要因が潜んでいます。

本人も無自覚のうちに加害行動に至っていることも少なくありません。

この章では、女性がDV加害者となる心理的メカニズムについて、支配欲や依存の心理、パーソナリティ特性、そしてストレスや環境要因との関連から紐解いていきます。


支配欲・依存・過去のトラウマとの関連

DVの根底には「支配・コントロールしたい」という強い欲求が存在します。

特に女性加害者の場合、その支配欲は過去の不安や孤独、愛情欠如体験に起因していることが少なくありません。

愛着の問題と依存傾向

幼少期に安定した愛着関係を築けなかった人は、大人になってからも「見捨てられ不安」を強く感じやすくなります。

こうした不安から、「相手を繋ぎとめるために支配する」という行動に出ることがあります。

これは心理学でいうところの「共依存」にも近く、相手をコントロールすることで自分の存在価値を確かめようとするのです。

トラウマの再演

過去に自分が暴力や精神的虐待を受けていた場合、その記憶が未解決のまま残っていると、加害者となって「自分がされたように他者を傷つける」形で表出することがあります。

これはトラウマ反応の一形であり、本人に加害の意識が乏しいこともあります。

恐れの裏返しとしての支配

「裏切られるかもしれない」「見捨てられるかもしれない」という恐れが強いほど、相手を思い通りにコントロールしようとする心理が働きやすくなります。

これは一種の防衛反応であり、加害行動を正当化しながら自分を守ろうとしているのです。

このように、支配欲や依存は単なる性格の問題ではなく、根底に傷つきやすさや過去のトラウマが隠れているケースも多く見られます。


パーソナリティ特性(自己愛傾向・境界性など)

女性加害者の中には、特定のパーソナリティ傾向を強く持っている人がいます。

DSM-5-TRやICD-11でもパーソナリティ障害は明確に定義されており、DV加害と関連しやすい傾向がいくつか知られています。

自己愛的傾向(自己愛性パーソナリティ特徴)

自己愛的傾向を持つ人は、外見的には自信にあふれて見える一方で、内面では非常に傷つきやすく、他人からの評価に過敏です。

そのため、自分の思い通りにならない相手に対して攻撃的になる、失望すると侮辱する、という形でDVが現れることがあります。

特に「否定されること」や「拒絶されること」に強い反発を示す傾向があります。

境界性パーソナリティ傾向

境界性の特徴として、感情の起伏が激しい・対人関係が不安定・見捨てられ不安が強いといった傾向があります。

こうした人は、相手を「理想化」したかと思えば急に「完全否定」するような二極化した認知をしやすく、感情の爆発として暴言や暴力が噴き出すことがあります。

反社会的・強迫的・演技性などの特性

一部では、反社会的傾向(共感性の欠如・責任回避)や、強迫的傾向(完璧主義・支配欲の強さ)、演技性傾向(注目を浴びたい・感情を誇張する)といった特性が、DV行動を強化する要因になることもあります。

これらは必ずしも診断に至るわけではありませんが、相手に強い圧迫感や罪悪感を与えるコミュニケーションパターンとして現れやすい特徴です。

パーソナリティの問題は本人の深層心理に根差しているため、被害者側が「自分が変われば相手も変わる」と思っても、状況は容易に改善しないことが多いのが現実です。


ストレス・アルコール・環境要因の影響

DV行動は、個人の心理的要因だけでなく、日常的なストレスや生活環境、周囲の支援体制の欠如といった外的要因にも影響されます。

慢性的なストレスとフラストレーションの蓄積

育児・家事・職場・経済的困窮など、女性が置かれる環境は複雑です。

とくに「自分ばかりが我慢している」「誰にもわかってもらえない」と感じる状況が続くと、その不満や怒りの矛先が身近なパートナーに向けられることがあります。

これは「八つ当たり」の形で始まり、次第に支配的な行動として定着することがあります。

アルコールや薬物の影響

飲酒後に人格が変わったように暴力的・攻撃的になるケースもあります。

アルコールは抑制機能を低下させ、怒りや衝動をそのまま行動に移しやすくするため、潜在的な支配欲や怒りが露呈しやすくなるのです。

これは女性加害者にも例外ではなく、酩酊状態でのDVはしばしば繰り返されます。


まとめ
  • 女性加害者の背景には、支配欲や依存、過去のトラウマが影響していることがあります
  • 自己愛性・境界性などのパーソナリティ特性が加害行動と関連する場合があります
  • ストレス・アルコール・社会的孤立など、外的環境もDVを助長する要因です
  • DVは性格の問題ではなく、心理的・社会的な構造の中で起こる行動パターンです

DV関係から抜け出すための心の回復と今後のステップ

DV関係にあった経験は、被害者の尊厳や自信を深く傷つけ、ときにトラウマ(心的外傷)として長く残るものです。

この章では、「自分の人生を取り戻す」ために必要な心理的リハビリの方法や、信頼できる人間関係の再構築、そして再び同じような被害にあわないためのセルフケア・心のトレーニングについて、専門的な視点と共に丁寧に解説します。


「自分の人生を取り戻す」ための心理的リハビリ

DV被害から離れた後の心の傷は、すぐに癒えるものではありません。

特に、長期間にわたって暴力や支配を受けていた場合、「自分には価値がない」「誰にも助けてもらえない」といった否定的な自己認知が深く根付いてしまうことがあります。

自己肯定感の回復から始める

まず大切なのは、「自分の価値を再認識する」ことです。

DV関係では、加害者からの暴言や侮辱によって、自己肯定感(自分を肯定する力)が大きく損なわれているケースが多く見られます

心理的リハビリの第一歩として、次のような小さな行動から取り組むことが推奨されます。

  • 日記をつけ、自分の感情や行動を「批判せずに書き出す」こと
  • 毎日「今日できたこと」を1つでも見つけて言語化する
  • カウンセラーとの対話を通じて、客観的なフィードバックを受け取る

これらは認知行動療法(CBT:Cognitive Behavioral Therapy)などの心理療法でも取り入れられている基本的な手法です。

信頼できる人間関係の再構築

DVの被害を受けると、「人間不信」や「他人に頼れない」といった心の状態になることがあります。

加害者からの支配の中で、孤立させられていた人ほど、他者と距離を取る傾向が強まります。

「安全な人」との関係を少しずつ築く

心の再建には、信頼できる他者との関係性が重要です。

支援者の立場で接してくれる人(例:カウンセラー、支援団体のスタッフ、同じ経験を持つ仲間など)とつながることで、自分の気持ちを安全に話せる環境を持つことができます。

最初から「家族や友人に打ち明けよう」と無理をする必要はありません。

「第三者だからこそ話せる」相手との関係も、心の回復にとっては大きな支えになります。

共依存関係の見直し

DV関係では、しばしば「共依存」と呼ばれる状態が見られます。

これは、加害者と被害者がお互いに不健全な形で関係を維持しようとする心理パターンで、「相手がいないと自分が成り立たない」と感じてしまう特徴があります。

このようなパターンを断ち切るためには、自分の「境界線(バウンダリー)」を明確にし、「相手の問題を自分の責任にしない」という意識を育てることが大切です。


再発を防ぐためのセルフケア・心のトレーニング

心の傷が癒えてきたとしても、日常生活の中で再びストレスが高まったり、人間関係がこじれたときに、過去のパターンが再燃することがあります。

再発予防のためには、日常的なセルフケアと心のトレーニングが不可欠です。

ストレス反応へのセルフモニタリング

自分のストレス反応に気づけるようになることは、再発予防の第一歩です。

次のような変化があるときは注意が必要です。

  • 寝つきが悪くなる、夜中に目が覚める
  • 食欲が急に増える、または減る
  • 感情の浮き沈みが激しくなる
  • 人との関係で「また傷つけられるかも」と過度に不安になる

こうしたサインに気づいたら、日常生活を少し緩めたり、カウンセラーに相談するなど、早めの対処が効果的です。

感情のコントロールとマインドフルネス

怒り、不安、恐怖などの感情をコントロールするには、呼吸法やマインドフルネス(今この瞬間に意識を向けるトレーニング)などが有効です。

特に、1日5分でも「深く息を吸って吐く」「自分の体の感覚に集中する」といった時間を持つことで、自律神経のバランスを整え、ストレス反応を和らげる効果があることが、複数の臨床研究で示されています。

まとめ
  • DV被害からの心の回復には、自己肯定感の再構築とトラウマへの理解が重要
  • 安全な他者との関係構築が、再発防止と自立に役立つ
  • 再び同じような関係に陥らないために、セルフケアと心のトレーニングを日常に取り入れる
  • 「普通の生活に戻る」ことよりも、「心が安心できる時間」を大切にする姿勢が回復の鍵

次章では、DVの被害者が「どこに相談すればいいか」「どんな支援制度があるか」について、具体的な相談先や利用できる社会資源を紹介していきます。

女性からのDVを受けたときの相談先と対応策

この章では、女性からDVを受けた際に活用できる「法的支援」「公的な相談機関」「心理的ケア」「周囲への相談と安全確保」の具体的な手段を、専門的な視点から分かりやすく解説します。

自分を守るための行動を、今から始めてみましょう。


法的支援(警察・弁護士・保護命令・DV防止法)

DVの被害を受けている場合、まず「命の安全を守る」ことが最優先です。

加害者との関係性や被害の程度にかかわらず、必要であれば法的措置を取ることができます。

警察への通報

身体的暴力や脅迫、監禁など、緊急性が高い場合は迷わず110番通報してください。

警察は、保護や加害者への接近禁止措置、被害者支援センターへのつなぎなど、初期対応をしてくれます。

「男性被害者だから…」と尻込みする必要はありません。

警察のDV対応は、性別にかかわらず可能です。

通報の際は「DV被害にあっている」「命の危険がある」と明確に伝えるとスムーズです。

保護命令の申立て

被害者の安全を確保する法的手段として、「接近禁止命令」や「退去命令」などを裁判所に申し立てることができます。

これは「DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)」に基づいた制度で、被害者の性別は問いません。

申し立ての際には、継続的な暴力や脅迫の証拠(メール、録音、診断書など)があると有利です。

弁護士への相談

法的手続きには専門的な知識が必要になるため、弁護士への相談が有効です。

日本弁護士連合会や各都道府県の弁護士会では、「DV被害者向けの無料法律相談」を実施していることもあります。

DVに詳しい弁護士を探すときは、「女性加害のDVに理解があるか」を事前に確認しましょう。


相談機関(配偶者暴力相談支援センター、男性相談窓口)

公的な相談機関は、身体的・精神的な被害にかかわらず、DVに関するあらゆる相談を受け付けています。

特に「どこから手をつけていいかわからない」と感じている方には、まずこうした窓口への連絡が第一歩となります。

配偶者暴力相談支援センター(全国に設置)

内閣府が設置している「DV相談プラス」では、DVに関する総合的な相談を受け付けています。

女性被害者向けのイメージが強いですが、男性被害者も対象です。

相談内容は以下のように多岐にわたります:

  • 被害の現状整理と緊急保護(シェルターなど)
  • 保護命令の手続き案内
  • 生活再建・福祉制度の利用方法
  • 医療機関やカウンセラーとの連携支援

匿名での相談も可能なため、まずは話してみることが大切です。


心のケア(カウンセリング・トラウマ治療)

DVは「身体的なケガ」だけでなく、「心の深い傷」を残します。

特に、継続的に人格を否定され続けた人は、自信や自尊心を大きく失っていることが多いのです。

臨床心理士・公認心理師による心理療法

心的外傷後ストレス反応(PTSD)やうつ状態、不安障害などを併発している場合、心理士によるカウンセリングや認知行動療法(CBT)が有効です。

過去の記憶に引きずられず、現在を生きる力を取り戻す支援が行われます。

保険適用される医療機関の他に、オンライン対応のカウンセリングも増えており、自宅からでも安心して相談できます。


職場・友人への伝え方と安全確保のポイント

DVを受けたことを周囲にどのように伝えるかは、とても悩ましい問題です。

しかし、信頼できる人に適切に状況を共有することで、心の負担を減らし、実生活でも安全性を高めることができます。

職場での伝え方と対応例

継続的な加害者からの連絡やストーカー行為が懸念される場合、職場への情報共有は重要です。

  • 上司や人事担当者に「プライバシーを守って相談したい」と申し出る
  • 連絡手段を変更してもらう(社用電話の着信制限など)
  • 勤務時間の調整や在宅勤務の検討

労働安全衛生法上、「従業員のメンタルヘルス保護」も企業の義務とされているため、正当な理由による配慮は受けやすい状況です。

友人・知人への伝え方

身近な人に被害を話すのがつらい場合は、「今、家庭のことで少し距離を置いている」「連絡がとれない時間があるかもしれない」と、やわらかく状況を伝える方法もあります。

被害の詳細を話さずとも、支援や見守りを得ることは可能です。

大切なのは、「自分が孤立していない」と感じられる関係性を作ることです。

安全確保のための生活上の工夫

  • SNSのプライバシー設定を厳格にする
  • 加害者に知られている場所からの一時避難(実家やシェルター)
  • 警察や自治体に「ストーカー行為の予防措置」を相談

一人で抱えず、少しでも危険を感じたら「助けて」と言っていいのです。


まとめ
  • DVの被害を受けた際は、警察や裁判所を活用した法的保護が可能
  • 配偶者暴力相談支援センターや男性相談窓口は、誰でも利用できる支援機関
  • 心の傷にはカウンセリングやトラウマ治療など、専門的なケアが有効
  • 職場や友人への伝え方と、安全確保の工夫で生活環境を守ることができる

最後に

女性からのDVは、社会的な偏見や理解不足によって、被害が見えにくくなりがちです。

しかし、暴力や支配の本質は「性別」ではなく「相手をコントロールする行為」にあります。どんな立場の人であっても、暴力を受けていい理由などありません。

もしあなたが「これはおかしい」と感じたなら、それはすでに心が助けを求めているサインです。

勇気を出して相談することで、少しずつ自分を取り戻すことができます。

本記事のまとめ
  • DVは男性・女性どちらが加害者でも成立する
  • 女性からのDVには、言葉・経済・性的支配など多様な形がある
  • 加害者の背景には支配欲・依存・トラウマなどの心理要因が潜む
  • 被害者は法的支援・相談機関・心のケアを組み合わせて対応を
  • 「自分を責めず、助けを求めていい」ことを忘れないでください

DV関係から抜け出すことは決して簡単ではありませんが、あなたの心と人生を守るための道は必ずあります。

信頼できる人に打ち明ける、専門機関に相談する――その一歩が、回復への始まりです。

あなたの未来には、再び穏やかな時間が流れる日が訪れます。

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<参考文献>

性を問わない DV 被害に関する実態調査と新しい相談体制の検討

男女間における暴力に関する調査

DV研究と経済的暴力

・他者を操作することの心理学的研究の動向と展望