「自分はアダルトチルドレンかもしれない」と感じたことはありますか?
幼少期の家庭環境が原因で、大人になってからも生きづらさや人間関係の悩みを抱える方は少なくありません。
「なぜいつも同じことで傷つくの?」「うまく人と距離が取れない…」
——そんな苦しみの背景には、アダルトチルドレン(AC)という心理的なテーマが関わっていることがあります。
この記事では、アダルトチルドレンの意味や特徴、回復のステップ、そして周囲の人の支え方まで、やさしく丁寧にお伝えしていきます。
アダルトチルドレンの特徴とタイプ
家庭の中で「子どもらしくいられなかった」経験は、私たちの性格形成や人間関係に深い影響を与えることがあります。
アダルトチルドレン(Adult Children)は、そのような機能不全な家庭環境の中で育ち、大人になってもなお、生きづらさや不安定な自己感を抱える人を指す言葉です。
この章では、アダルトチルドレンの特徴や心理的傾向、そしていくつかの代表的なパターンについて、丁寧に解説していきます。
用語の起源(ACOA理論と日本での広まり)
「アダルトチルドレン(Adult Children)」という言葉は、もともとACOA(Adult Children of Alcoholics)という概念に由来しています。
これは、アルコール依存症の親のもとで育った子どもが、成長後もさまざまな心理的・対人関係上の困難を抱えるという考え方です。
この理論は1980年代にアメリカの心理療法領域で注目され、やがて「アルコール依存に限らず、さまざまな機能不全な家庭で育った人」にも当てはまると理解されるようになりました。
つまり、「アダルトチルドレン」は必ずしもアルコール依存家庭に限らない、より広義の概念として用いられています。
日本では1990年代にこの概念が紹介され、自己啓発書のヒットや心理カウンセリングの普及とともに広まりました。
今では医療機関だけでなく、一般の人々の間でも「アダルトチルドレン」という言葉は浸透しつつあります。
ただし注意点として、「アダルトチルドレン」はDSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル)やICD-11(国際疾病分類)における正式な診断名ではありません。
それでも臨床現場では、発達早期の心的外傷や愛着スタイルの乱れと関連づけて考察される重要な心理的構造とされています。
共通する心理傾向(罪悪感・過剰適応・人間関係の不安)
アダルトチルドレンの方々に共通する心理的な特徴には、いくつかの傾向が見られます。
ここでは、精神科の診療現場でもよく見受けられる主なパターンをご紹介します。
1. 根深い罪悪感と自己否定
アダルトチルドレンの多くは「自分が悪い」「自分さえ我慢すればうまくいく」といった思考パターンを内在化しています。
幼少期に親の機嫌や家庭の不和に対して「自分のせい」と感じてきた人は、成長してからも「自己肯定感が低く、罪悪感を抱きやすい」という特徴を持ちます。
これは自他の境界線(バウンダリー)が曖昧になりやすいことと関係しています。
家族の感情や課題を自分ごとのように背負うクセが、無意識に続いてしまうのです。
2. 過剰適応と「いい人症候群」
表面上はとても真面目で責任感が強く、他者の期待に応えようと頑張る人が多いのも特徴です。
しかし、それは「拒絶されたくない」「愛されたい」という深い不安から生まれていることが少なくありません。
このような人は、常に他人の顔色を伺い、自分の本音を抑えて行動します。
これを「過剰適応」と呼びます。
長年これを続けると、疲労や抑うつ、突然の燃え尽き症候群(バーンアウト)として現れることがあります。
3. 人間関係の不安定さと恐れ
アダルトチルドレンの方は、他者との距離感に苦しむことがよくあります。
たとえば、親密になることへの恐れ(回避傾向)と、見捨てられる不安(不安傾向)が同居していることがあります。
これにより、「近づきすぎると怖い、離れると不安」というジレンマを抱えることになります。
また、恋愛や職場での人間関係においても、共依存的な関係に陥りやすい傾向もあります。
これは「自分の価値は他者に尽くすことで得られる」という無意識の信念に基づくものです。
4. 感情表現の困難さ
幼少期に「泣くな」「怒るな」「黙っていろ」といった言葉を頻繁に聞いてきた方は、自然な感情の表現が難しくなりがちです。
その結果、自分の感情を押し込めてしまい、何を感じているか分からなくなる“感情麻痺”の状態になることもあります。
これらの特徴は単独で存在するのではなく、複雑に絡み合って一人ひとりの「生きづらさ」を形作っています。
代表的なタイプ(ヒーロー型/スケープゴート型/ロストチャイルド型など)
アダルトチルドレンの特徴は、その人の家庭内で果たしていた「役割」と深く結びついています。
以下は臨床心理学の文脈でもよく紹介される代表的なパターンです。
ヒーロー型(家庭の救世主)
・特徴:優等生で責任感が強く、家族の期待に応え続ける
・背景:家庭内の混乱を打ち消すために「立派な子ども」であろうと努力する
・影響:完璧主義、自己犠牲傾向、燃え尽きやすさ
このタイプの人は、外から見るととても“成功している人”に見えることがあります。
しかし内面では、常に緊張し、本当の自分を押し殺していることが多いのです。
スケープゴート型(問題児役)
・特徴:反抗的でトラブルを起こしやすい
・背景:家庭内の不安や怒りを体現し、家族の怒りのはけ口になる
・影響:自尊心の低下、非行や逸脱行動、自己破壊的傾向
一見すると「厄介な子ども」と見なされがちですが、実は家族全体の機能不全を可視化する“役割”を引き受けている存在ともいえます。
ロストチャイルド型(空気のような存在)
・特徴:おとなしく、存在感が薄い
・背景:家庭内の混乱に巻き込まれないよう、自分を消すことで安全を保つ
・影響:孤立感、感情の麻痺、自己理解の困難
このタイプは「目立たない子」として放置されやすく、本人も自分の欲求や感情に気づけないまま成長します。
大人になっても「自分が何をしたいのか分からない」と悩むことが多いです。
クラウン(道化師)型
・特徴:ユーモアやふざけた言動で家庭の緊張を和らげる
・背景:家族の雰囲気を和ませるために、明るく振る舞う役割を選ぶ
・影響:本心を出せない、自分を軽視する癖
笑いで状況を回避するクセは、対人関係では一見ポジティブに働くことがありますが、深い孤独感を抱えているケースも少なくありません。
- アダルトチルドレンは、機能不全家庭で育った人が抱えやすい心理的傾向を指す言葉です
- 罪悪感・過剰適応・人間関係の不安・感情表現の困難などが共通して見られます
- 家庭内で果たしていた「役割」によって、さまざまなパターンが形成されます(ヒーロー型、スケープゴート型、ロストチャイルド型など)
- これらの傾向は成長してもなお、対人関係や自己評価に影響を及ぼすことがあります
アダルトチルドレンの特徴やタイプを知ることで、「自分の行動や感情には理由があったのかもしれない」と感じられた方もいるかもしれません。
次の章では、こうした背景がどのように形成されるのか、アダルトチルドレンが育つ家庭の環境や心理的な構造について詳しく掘り下げていきましょう。
アダルトチルドレンが生まれる背景と原因
アダルトチルドレンとしての傾向は、生まれつき備わったものではなく、育った環境の中で身についた「生き抜くための適応行動」だと考えられています。
とくに幼少期の家庭環境、親との関係性、そして愛着の形成において何が起きたかが大きく影響します。
この章では、アダルトチルドレンが抱える心理的特徴が、どのような家庭背景で生まれやすいのかを丁寧に見ていきましょう。
機能不全家族とは(親のアルコール依存・過干渉・支配的態度など)
「機能不全家族」とは、家庭の中で子どもが安心して感情を表現したり、健やかに自己を育むことができない状態のことを指します。
これはDSM-5-TRやICD-11の診断基準ではなく臨床心理学で用いられる概念ですが、アダルトチルドレンに深く関係する枠組みです。
アルコール依存・精神疾患などの病理の影響
機能不全家族の典型例として、親がアルコール依存症や精神疾患を抱えているケースが挙げられます。
これにより家庭の中が常に不安定になり、子どもは「次に何が起こるか分からない」緊張状態の中で育つことになります。
たとえば、親が酔うと暴言を吐いたり、記憶が飛んだりするなど、子どもにとっては「予測できない大人」が身近にいる環境です。
このような状態が続くと、子どもは常に親の機嫌を伺い、身を守るために感情を抑えることを学習してしまいます。
過干渉・過保護・支配的な親
一見、暴力や依存のない家庭でも、「過干渉」「過保護」「支配的」な関係性が続くと、子どもは健全な自己形成が難しくなります。
たとえば、親が子どもの意思を尊重せず「〜すべき」「〜でなければならない」と強く押しつける家庭では、子どもは次第に「自分で考えること」を手放してしまいます。
このような家庭では、子どもが「自分の人生を生きている」という実感を得にくくなるため、大人になっても自己決定に強い不安を抱える傾向があります。
暴力・否定的な言葉・無関心
身体的・言語的な虐待はもちろんですが、無視や無関心もまた子どもの心に深い影響を及ぼします。
「頑張っても褒められない」「何をしても関心を持ってもらえない」といった経験は、やがて自己価値感の低下や見捨てられ不安を生み出します。
このような環境では、「どうせ私は愛されない」という無意識の思い込みが形成されやすく、それが成人後の人間関係にも大きな影を落とします。
家庭内での役割と「親を助ける子ども」構造
アダルトチルドレンは、多くの場合、家庭内で何らかの“役割”を果たしていた子どもであることが知られています。
この役割は、家族のバランスを保つために無意識に身につけたものであり、本来の年齢にふさわしくない「大人のような振る舞い」を強いられることもあります。
子どもが親を支えるという逆転関係
本来、親が子どもを守り、安心させる立場であるべきですが、機能不全家族においてはこの構造が逆転することがあります。
たとえば、親が精神的に不安定であったり、依存傾向があったりすると、子どもは親を慰めたり、代わりに家事を担ったりと、まるで“小さな大人”のような立場に置かれるのです。
このような家庭では、「親のために頑張ること=愛される条件」と刷り込まれることが多く、自分のニーズや感情を抑えて“役に立つ存在”として生きようとします。
サバイバー・スキルとしての役割
こうした家庭内の役割は、生き延びるために編み出されたサバイバルスキルともいえます。
たとえば、家庭の中で笑いを取ることで緊張を和らげたり、問題児のふりをして親の矛先を自分に向けるなど、無意識に家族のバランスを取る行動を選ぶこともあります。
こうした役割は、成長後の人間関係でも引き継がれやすく、「人の期待に応えなければならない」「頼られることでしか自分の価値を感じられない」といった傾向として現れます。
最近はこのように子供が萎縮してしまう親を「毒親」と呼んだりします。
- アダルトチルドレンは、機能不全な家庭環境で育ったことが原因で形成されやすい心理的傾向です
- 家庭では「親を助ける役割」など本来の子どもらしさを制限されていた可能性があります
- 幼少期の愛着の不安定さが、大人になってからの対人不安や共依存傾向と関連しています
- 愛着スタイルや役割行動は変化可能であり、支援を受けることで回復が見込めます
アダルトチルドレンが抱えやすい悩み
アダルトチルドレンとしての心の傷や適応パターンは、大人になってからの人間関係・恋愛・仕事など、人生のさまざまな場面で影響を及ぼします。
この章では、アダルトチルドレンが抱えやすい代表的な悩みについて丁寧に解説しながら、「なぜ自分が生きづらいのか」を一緒にひもといていきましょう。
悩み:人間関係のパターン(支配・依存・過剰適応)
アダルトチルドレンの方がもっとも悩みやすいのが、人間関係における“距離感”の難しさです。
周囲からは「人懐っこくて面倒見がいい」と見られることもありますが、実際は内側に深い不安を抱えているケースが少なくありません。
支配と被支配の関係に陥りやすい
家庭内で親から支配された経験がある人は、他者との関係でも「支配されるか、支配するか」という極端な関係性を無意識に再現してしまうことがあります。
たとえば、上司や恋人の要求に逆らえず、従属的になってしまう。
あるいは逆に、他人を過度にコントロールしようとしてしまう。これは「支配=関係性の安定」という誤った信念に基づくものです。
過剰な依存と見捨てられ不安
アダルトチルドレンは「見捨てられること」に対して強い恐れを抱く傾向があります。
そのため、人間関係において過度に依存的になりやすく、「嫌われたら終わり」「関係が終わるくらいなら我慢する」と、自分の感情や意見を押し殺してしまいます。
しかし、こうした態度は結果的に相手との間に不健全な依存関係(共依存)を生みやすく、関係が破綻したときには強い喪失感や無力感に襲われてしまいます。
悩み:恋愛・結婚での課題(境界の薄さ・自己犠牲)
恋愛やパートナーシップの場面では、アダルトチルドレン特有の心理的傾向が特に顕著に現れやすくなります。
なぜなら恋愛は、幼少期の愛着スタイルを強く揺り動かす関係だからです。
心の境界線があいまいになる
アダルトチルドレンは、幼少期に「自分と他人の境界線(バウンダリー)」をうまく築けなかった人が多くいます。
親の感情を読み取って行動する習慣があったため、大人になってもパートナーの感情や欲求を「自分のもの」のように背負ってしまうのです。
その結果、自分の気持ちや本音を優先することが難しくなり、相手に合わせすぎることで疲弊してしまう傾向があります。
自己犠牲的な恋愛になりやすい
「相手に尽くせば愛される」という信念を持っているアダルトチルドレンは、恋愛においても自己犠牲的になりやすく、自分の限界を超えて相手に尽くしてしまうことがあります。
たとえば、相手が無職でも経済的に支え続けたり、暴言を吐かれても「私が悪いから」と自分を責め続けたりするケースです。
このような関係は、精神的な虐待(エモーショナル・アビューズ)に発展することもあり、早めの気づきとサポートが必要です。
愛され方・愛し方がわからない
アダルトチルドレンの中には、「誰かを本当に愛したことがないかもしれない」「どうすれば愛されるのかわからない」と感じている人もいます。
これは、親との間で安定した愛着が築かれなかった影響であり、「愛=安心できるもの」という感覚が育ちにくかったためです。
そのため、恋愛関係でも「相手の顔色を伺う」「不安で試すような行動をする」「相手を信じきれない」などの行動が出やすくなります。
悩み:仕事での影響(完璧主義・燃え尽き)
アダルトチルドレンは、職場でも「良い人」「期待に応える人」として高い評価を得ることが多い一方で、内面では深刻な疲弊や自己否定に苦しんでいることがあります。
完璧主義と自己価値の歪み
「ミスをしてはいけない」「人より劣ってはいけない」という思いから、極端な完璧主義に陥ることがあります。
これは「認めてもらうには完璧でなければならない」という家庭内の暗黙ルールを引き継いでいる可能性があります。
こうした思考パターンは、些細なミスでも自己否定につながりやすく、「自分はダメだ」「足りていない」という感覚から抜け出せなくなります。
頑張りすぎて燃え尽きる(バーンアウト)
責任感が強く、頼まれると断れないという性格から、過重労働や過剰な責任を抱え込みがちです。
周囲からは「優秀な人」「頼れる人」と見られる一方で、本人は内側で強いストレスと疲弊を抱えていることが少なくありません。
このような状態が続くと、ある日突然、心身が限界を迎えてしまい、**うつ状態や無気力感(アパシー)**に陥ることがあります。
達成しても満たされない虚しさ
頑張って成果を出しても、「まだ足りない」「本当の自分はダメだ」と感じてしまうのも、アダルトチルドレンの方によく見られる傾向です。
これは「外からの評価」でしか自己価値を感じられない構造によるもので、どれだけ成功しても心の奥に満たされない空白が残り続けてしまいます。
- アダルトチルドレンは、人間関係において支配・依存・過剰適応のパターンを繰り返しやすい
- 恋愛では境界線があいまいになり、自己犠牲的になりやすい傾向があります
- 仕事では完璧主義や「期待に応えること」が重荷となり、燃え尽き症候群に陥ることもあります
- これらの悩みは“性格”ではなく、幼少期の環境による「適応のクセ」であると理解することが回復の第一歩です
こうした悩みを抱えることは、決して「あなたが弱いから」ではありません。
それは過去の家庭環境や心の防衛反応が、今も影響を与えているにすぎないのです。
次の章では、アダルトチルドレンがその生きづらさから回復していくための具体的な方法や、心理療法、セルフケアの実践について、やさしく解説していきます。
アダルトチルドレン的メンタルからの克服・回復のステップ
アダルトチルドレンとしての悩みや生きづらさを抱えている方の多くは、「どうすればこの苦しさから抜け出せるのか」「本当に変われるのか」といった不安を持っておられます。
答えはシンプルではありませんが、心の深い傷と向き合いながら少しずつ回復に向かって歩むことは可能です。
この章では、専門的な視点からアダルトチルドレンの克服と回復のステップを、丁寧にご紹介します。
自己理解から始める(「自分を責めない」こと)
アダルトチルドレンの回復は、「今の自分を責めないこと」から始まります。
生きづらさや人間関係のパターンに悩んでいても、それは性格の欠陥ではなく、幼少期の環境で身につけた「生き延びるための知恵」であった可能性があります。
自己否定の背景には「適応」がある
たとえば、親が感情的で怒りっぽい家庭で育った子どもは、怒らせないよう空気を読み、自分の感情を抑えて「いい子」でいようとします。
これは当時の環境では必要だった対応であり、「間違っていた」と責める必要はありません。
しかし、大人になった現在でも同じように人の顔色をうかがい続けていると、人間関係で疲弊してしまいます。
つまり、過去に機能していた行動パターンが、今は「生きづらさ」として現れているのです。
「なぜ自分はこう考えるのか」を丁寧に見つめる
自分の思考や行動の背景を理解することは、回復への第一歩です。
「なぜ私は断れないのだろう」「なぜいつも人に合わせてしまうのか」といった疑問に、責めるのではなく好奇心を持って向き合ってみてください。
これは「メタ認知」と呼ばれる心の働きであり、自分の感情や認知の歪みを一歩引いて観察する力を高めることにもつながります。
カウンセリング・心理療法(認知行動療法・スキーマ療法・内的家族システム)
アダルトチルドレンの心の傷に対しては、科学的根拠のある心理療法によって効果的なアプローチが可能です。
ここでは代表的な3つの心理療法をご紹介します。
認知行動療法(CBT)
認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy)は、思考と行動のパターンに注目し、「自動思考」と呼ばれるクセに気づいて現実的な視点を身につけていく療法です。
たとえば「人に頼ったら嫌われる」といった極端な考え方に気づき、「本当にそうだろうか?」と問い直していきます。
こうした作業を繰り返すことで、より柔軟で現実的な思考ができるようになり、人間関係や自尊心の改善にもつながります。
スキーマ療法(早期不適応スキーマへの介入)
スキーマ療法は、幼少期の経験から形成された「スキーマ(信念・世界観)」に焦点を当てる心理療法です。
たとえば、「自分には価値がない」「どうせ見捨てられる」といった深い思い込みが、自分の行動や感情にどう影響しているかを見つめ、それに働きかけていきます。
アダルトチルドレンの方は特にこの「早期不適応スキーマ」を多く抱えている傾向があり、スキーマ療法は長期的かつ深いレベルでの回復をサポートします。
内的家族システム療法(IFS)
内的家族システム療法(Internal Family Systems)は、「人の心には複数の“パーツ”が存在する」という考え方に基づいたアプローチです。
たとえば、「怒りっぽい自分」「傷つきやすい自分」「人に尽くしすぎる自分」など、それぞれのパーツがどんな役割を持ち、なぜそう振る舞っているのかを丁寧に理解しようとします。
IFSでは、すべてのパーツを「排除する」のではなく、「尊重しながら対話していく」ことを大切にします。
自己否定ではなく自己統合を目指すこのアプローチは、アダルトチルドレンの回復において非常に有効です。
安全な人間関係を再構築する練習
アダルトチルドレンの方は、対人関係において「相手に合わせすぎる」「人が怖い」「見捨てられ不安が強い」といった傾向を抱えがちです。
こうしたパターンを変えていくには、安全で信頼できる人間関係の中で「練習」することが不可欠です。
境界線(バウンダリー)を引く力を育てる
健全な人間関係では、「自分の気持ち」と「相手の気持ち」を区別し、それぞれを尊重する必要があります。
これは「境界線(バウンダリー)」と呼ばれる心理的なラインです。
たとえば、嫌なことを「嫌だ」と言える、自分の時間を優先できる、といった小さなことから練習することが大切です。
「安心できる関係」は後天的に育てられる
たとえ過去に信頼できる大人と関係を築けなかったとしても、大人になってから「安心できる関係」を築いていくことは可能です。
カウンセラーや信頼できる友人との対話を通じて、「拒絶されない」「評価されない」安全な対話の経験を積み重ねていくことで、人とのつながりに対する恐れは少しずつ和らいでいきます。
セルフケア習慣(日記・マインドフルネス・感情の可視化)
日々の中で自分の心と向き合い、穏やかに保つための「セルフケア」は、回復の土台となります。
特にアダルトチルドレンの方におすすめの方法を紹介します。
感情日記で「気づき」を深める
「何があったとき、どんな気持ちになったのか」を書き留めることで、自分の感情に気づきやすくなります。
大切なのは「感情を評価しないこと」。怒りや悲しみも、そのまま受け止めてあげることで、自己否定から解放されていきます。
マインドフルネスで「今ここ」に戻る
マインドフルネスとは、過去や未来ではなく「今、この瞬間」に意識を向ける練習です。
不安や自己批判に巻き込まれやすい方にとって、呼吸に意識を向けるマインドフルネス瞑想は、気持ちを落ち着ける手段として非常に有効です。
特別な道具は必要なく、1日5分でも効果があります。
- アダルトチルドレンの回復は「自分を責めないこと」から始まる
- 認知行動療法・スキーマ療法・IFSなどが効果的
- 安全な人間関係の中で「境界線を引く練習」が重要
- 日記・マインドフルネス・感情の可視化によるセルフケアが回復を支える
ここまで、アダルトチルドレンを抱える方やその支援者に向けた関わり方についてお話ししました。
アダルトチルドレンのカウンセリング療法、医療機関の受診について
アダルトチルドレンとしての悩みや生きづらさに気づいたとき、自分だけで抱え続けるのはとてもつらいことです。
一人で苦しまず、信頼できる他者や専門機関に相談することは、回復への大きな一歩となります。
この章では、精神科医や臨床心理士などの専門家、同じ悩みを共有する仲間とのピアサポートの場について、具体的に紹介していきます。
専門家(臨床心理士・精神科医)への相談
「専門家に相談するのは大げさ?」ではありません
多くの方が「この程度で相談していいのか」と迷いを抱えます。
しかし、アダルトチルドレンが抱える自己否定感や不安、人間関係の難しさは、決して“些細な悩み”ではありません。
自分では整理できない複雑な感情を、専門家の力を借りて解きほぐしていくことは、非常に価値のあるプロセスです。
臨床心理士・公認心理師の役割
臨床心理士や公認心理師は、心理面での支援を専門にしており、アダルトチルドレンの背景を理解したうえで、認知行動療法やスキーマ療法、トラウマケアなどの技法を用いたカウンセリングを行います。
特に「話をじっくり聴いてもらいたい」「自分のパターンを整理したい」といった方にとって、心理士との対話は、安心して自分を開いていける場となるでしょう。
なお、保険適用がない場合もありますが、公的な相談機関(保健所・教育センター等)で無料の心理相談を実施している地域もあります。
精神科医・心療内科医の役割
精神科医は、症状が日常生活に支障をきたす場合(たとえば、抑うつ、不眠、パニック発作など)に医療的介入を行う専門家です。
DSM-5-TRやICD-11に準拠した評価に基づき、診断・薬物療法・精神療法の適用可否を判断します。
「何か病気なのでは?」「生活に明らかな支障が出ている」という段階であれば、まずは精神科での評価を受けることをおすすめします。
カウンセリングと医療の併用も可能
「心の問題は誰に相談すればいいのか」と迷われる方も多いですが、心理士によるカウンセリングと、医師による医学的アセスメントを並行して受けることも可能です。
たとえば、心療内科で処方を受けながら、並行して心理士との週1回のカウンセリングでじっくり自己理解を進めていく、というような組み合わせが実践されています。
必要に応じて連携できる体制がある施設も増えています。
ピアサポートグループや自助会の活用
同じ悩みを持つ人と「分かち合う」力
ピアサポートとは、「似たような経験を持つ人同士が支え合う仕組み」のことです。
アダルトチルドレンに関するピアグループや自助会では、「自分だけじゃなかった」と感じられることで、孤立感が和らぎ、自分の経験を肯定できるようになるきっかけになります。
特に、「家族に理解されない」「相談できる友人がいない」と感じている方にとって、同じ立場の仲間と出会える場は大きな支えになるでしょう。
活動の具体例:ACミーティングやシェア会
アダルトチルドレンに特化した自助グループには、「ACミーティング(Adult Children Meeting)」と呼ばれる集まりがあり、全国各地で定期的に開催されています。
多くは匿名・自由参加で、無理に話す必要はなく、他の参加者の話を聴くだけでも構いません。
また、オンライン上で参加できるシェア会やLINEオープンチャット、SNSでつながるグループも増えており、自宅にいながら安心して参加できる環境が整ってきています。
ピアサポートの注意点と選び方
ピアサポートは非常に有効ですが、以下の点には注意が必要です。
- 否定や批判がなく、安心して話せる雰囲気か
- 支援者が特定の価値観や宗教的背景を押しつけてこないか
- 無理なく自分のペースで参加できる仕組みか
また、自助会といっても運営方法は多様ですので、最初は複数の場を試してみて、自分に合う場を見つけることをおすすめします。
- アダルトチルドレンの悩みは、心理士や精神科医など専門家に相談してよい
- 症状が強い場合は、医療機関の受診も視野に入れる
- カウンセリングと医療の併用も効果的
- ピアサポートグループや自助会では「分かち合い」による癒しが得られる
- 自助会は自分に合った場を無理なく選ぶことが大切
最後に
アダルトチルドレンという言葉に出会ったとき、多くの方は「自分だけじゃなかったんだ」と感じる一方で、「こんな自分は治るのだろうか…」と不安を抱えることもあります。
でも大丈夫です。時間はかかっても、少しずつ「自分らしさ」を取り戻していくことは可能です。
回復は「ある日突然変われる」ものではなく、「理解→受容→変化」という丁寧なステップを踏んで進んでいくプロセスです。
そして何より、「あなたが悪いわけではない」ということを忘れないでください。
家庭環境や幼少期の体験は自分で選べるものではありませんが、これからの人生の歩み方は、自分の手で選び直すことができます。
ここまで読んでくださったあなたが、「変わりたい」と思ったその気持ちこそ、すでに回復への一歩を踏み出している証です。
必要であれば、専門家のサポートを受けることもひとつの方法です。
あなたの人生は、あなた自身の手で優しく紡いでいけるものですよ。
- アダルトチルドレン(AC)は、機能不全家族で育ったことが原因で心に影響を受けた大人のこと
- 自己否定・対人不安・過剰適応など、共通の特徴が見られる
- 回復には「自己理解」から始まり、心理療法や支援が有効
- 家族や恋人がACの場合も、共依存に注意しつつ適切な距離で支えることが大切
- 専門家・自助会・オンライン支援など、多様な相談先がある
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