「理想の自分になりたい」――その純粋な願いを叶えるために勇気を出したのに、今、あなたは「後悔」という深い闇の中にいるのかもしれません。
鏡を見るのが怖くて、外に出るのが辛くて、毎日自分を責めていませんか?
「失敗したかもしれない」「前の顔の方が良かった」…そんな声が頭から離れないのは、本当に苦しいことです。
この記事では、精神科医・心理カウンセラーの視点から、整形手術後の後悔や不安にどう向き合い、どうすれば心がラクになるのかを、一緒に考えていきます。
少しずつ、一緒に紐解いていきましょう。
整形手術を後悔して辛いあなたへ|その苦しさは「失敗」だけが原因ではありません
理想の自分に近づくために勇気を出して受けたはずの美容整形手術。
しかし、鏡を見るたびに「こんなはずじゃなかった」「元の顔に戻りたい」と激しい後悔に襲われ、食事も喉を通らないほど追い詰められている方も少なくありません。
今のあなたは、単に仕上がりに満足していないだけでなく、心のエネルギーが枯渇し、心身ともに負担が大きくなっている可能性があります。
この章では、なぜ整形手術後にこれほどまでの苦しみが生じるのか、そのメカニズムを精神医学の視点から紐解いていきます。
なぜ整形手術後に「死にたい」ほどの後悔に襲われるのか
美容整形の施術直後、あるいはプチ整形手術を重ねて完成形が見えてきた時期に、絶望感に襲われる現象は決して珍しいことではありません。
整形手術後の強い後悔や違和感には、期待と現実のギャップ、術後の疼痛や腫れ、不眠、不安、もともとの外見へのこだわりなど、複数の要因が関与すると考えられます。顔は自己像に深く関わるため、変化への戸惑いが強く出る方もいます。
人間にとって「顔」はアイデンティティの核です。
たとえコンプレックスがあったとしても、数十年間付き合ってきた「自分という連続性」が、手術という短時間の介入で断絶されることは、脳にとって大きなストレスとなります。
また、周囲の反応への過剰な恐怖も原因の一つです。
「不自然だと思われていないか」「整形手術したことがバレて軽蔑されないか」という予期不安が、対人恐怖を誘発します。
SNS上の加工画像や“成功例”ばかりを見続けると、比較が強まり、不安や自己否定感が増すことがあります。もともと外見へのこだわりが強い人では、その傾向がさらに強まることがあります。
この時期の「後悔」は、単なる美醜の問題だけではなく、「自分という存在の連続性が失われたことへの喪失感」も関係している可能性があることを理解する必要があります。
あなたは決して「わがまま」や「欲深い」から苦しんでいるのではなく、脳が急激な変化に適応しようと必死にアラートを出している状態なのです。
精神医学から見る「整形後うつ」と「醜形恐怖」の境界線
整形手術後の苦しみが長引く場合、単なる「気分の落ち込み」を超えて、精神医学的なケアが必要な疾患が隠れていることがあります。
最新の診断基準である DSM-5-TR や ICD-11 において、特に注意すべきは「醜形恐怖症(身体醜形障害 / BDD)」です。
醜形恐怖症(Body Dysmorphic Disorder: BDD)は、外見上の欠点がある、またはあると感じることへの持続的なとらわれにより、反復的な確認行動や比較行動、強い苦痛、社会生活への支障が生じる疾患です。ICD-11では強迫症または関連症群に分類されています。ICD-11では強迫症または関連症群に分類されています。
- 醜形恐怖症(BDD)の診断的特徴:
- 外見の欠点(と本人が信じているもの)への持続的なとらわれ。
- 鏡で頻繁に確認する、あるいは鏡を極端に避ける。
- 皮膚をむしる、過剰な身繕い、他者との比較を繰り返す。
- これらの症状により、仕事や社交などの機能が著しく損なわれている。
整形手術後に「失敗した」と確信し、複数のクリニックを次々に受診して修正を求める人の中には、醜形恐怖症が背景にある場合があります。ただし、すべてのケースがそうとは限らず、術後経過や実際の合併症の有無を含めた個別評価が必要です。
ICD-11では、これが「強迫症または関連症群」に分類されており、本人の意思や性格の問題ではなく、脳内の神経伝達物質(セロトニンなど)の調節不全が示唆されています。
一方で、もともとBDDの傾向がなかった人でも、術後の大きな変化やダウンタイムのストレスをきっかけに、抑うつ症状や不安症状が強まることがあります。ただし、「整形後うつ」は正式な診断名ではなく、必要に応じて、適応障害、醜形恐怖症などを含めて専門家が評価します。
もし、あなたが「顔の特定の数ミリの差」が気になって一歩も外に出られない、あるいは死ぬことばかり考えてしまうのであれば、それは美容外科の領域ではなく、精神科での治療(認知行動療法や薬物療法)が必要なサインです。
ダウンタイム中の不安の正体
手術直後から数週間、気分の落ち込みや不安が強まることがあります。こうした反応は外科手術後にみられることがあり、「術後うつ(Post-operative Depression)」と表現することがありますが、独立した正式診断名ではありません。
この状態は、術後のストレス反応や抑うつ・不安症状として理解するのが適切です。
美容整形手術のダウンタイム中は、以下の要因が重なり、精神状態が不安定になることがあります。
- 身体的ダメージと炎症反応: 手術による侵襲(組織の損傷)は、体内で炎症性サイトカインを放出させます。これが脳に作用し、意欲の低下を誘発する可能性が近年の研究で示唆されています。
- ホルモンバランスの変化: 手術という大きなストレスに対し、体は副腎皮質ホルモン(コルチゾール)を分泌して対抗しようとしますが、コルチゾールの急激な変動が情緒不安定を招く可能性が示唆されています。
- 感覚遮断と社会的孤立: 腫れや内出血を隠すために、家の中に閉じこもり、誰とも会わずにSNSばかり見る生活は、不安を増幅させる「負のループ」を生みます。
手術後は、疼痛、腫れ、不眠、活動制限、将来への不安などが重なり、気分が不安定になることがあります。身体的ストレスや術後の痛みからくる睡眠不足は、不安や落ち込みを悪化させる一因になり得ます。
そのような状態で鏡を見ると、腫れている箇所が「永遠に治らない醜いもの」に見えてしまったりします。
しかし、これはあくまで「一時的な生体反応」です。
ダウンタイム中の不安は、あなたの判断力が低下しているサインであって、あなたの人生が失敗した証拠ではありません。
この時期に「もう一度手術して元に戻さなきゃ」と早急な決断を下すことは推奨されず、非常に注意が必要です。
- 整形手術後の後悔は、脳が「自己イメージの変化」に適応しようとする際の防衛反応である。
- 「死にたい」ほどの苦しみは、醜形恐怖症(BDD)や適応障害といった、精神医学的なケアが必要な状態である可能性がある。
- 術後の気分の落ち込みは、術部の炎症やホルモン変動が原因である可能性があり、一時的なものであることが多い。
- ダウンタイム中は判断力が低下している可能性があるため、重要な決断(再手術など)は避けるべきである。
整形手術後の苦しみの正体が、脳や心の仕組みに関係していることがお分かりいただけたかと思います。
では、この「消えてしまいたい」ほどの辛い時期を、具体的にどう乗り越えればよいのでしょうか。
次章では、精神科医の視点から、鏡との付き合い方や、心の平穏を取り戻すための具体的な「応急処置」について詳しく解説します。
「整形手術失敗」と決めつける前に確認すべき3つのこと
手術直後の鏡に映る自分を見て、「失敗された」「人生が終わった」と絶望的な気持ちになるのは、ある意味で脳の自然な防衛反応です。
しかし、精神医学の現場で多くの「整形後抑うつ状態」の方と接していると、実はその絶望の多くが、医学的な「失敗」ではなく、回復過程における「一時的な違和感」や「認知の歪み」に起因していることが分かります。
再手術を焦ったり、自分を責めたりする前に、まずは医学的な回復のメカニズムと、あなたの心の中で起きている葛藤を客観的に整理してみましょう。
ダウンタイムによる「腫れ・左右差」の可能性を排除する
手術直後から数週間の間、最も多くの人を苦しめるのが「左右差」や「不自然な腫れ」です。
しかし、人間の体は機械ではありません。
麻酔薬の注入量、術中の出血量、さらには寝る時の体の向きや元々の骨格のわずかな違いによって、腫れ方には必ず左右で差が生じます。
精神医学的に見ると、この時期の患者さんは「微細な違和感」に対して過剰に脳が反応する「過覚醒」の状態にあります。
本来なら気にならない程度の数ミリの差が、脳内では巨大な欠陥のように拡大解釈されてしまうのです。
- 組織の反応: 炎症が起きている組織は硬くなり、引きつれ(拘縮)が生じます。これにより、一時的に目が開きにくかったり、口角が上がりにくかったりするのは、正常な治癒過程です。
- 知覚の麻痺: 神経が一時的にダメージを受けていると、自分の顔が自分のものではないような、奇妙な感覚に陥ることがあります。
今の段階で「左右が違うから失敗だ」と結論づけるのは、工事現場の足場を見て「欠陥住宅だ」と断定するのと同じです。
まずは、現在の状態が「傷を治そうとしている体の懸命な反応の過程」であることを受け入れてあげてください。
完成までには最短でも数ヶ月かかる理由
美容整形手術の教科書的な「完成」と、患者さんが感じる「完成」には、時間的に大きな乖離があります。
部位や術式、体質によって異なりますが、医学的には、組織が安定し、瘢痕(はんこん)が柔らかくなるまでには、数ヶ月から1年という歳月が必要です。そのため、最終的な評価を急がないことが重要です。
最新の医学知見においても、皮下組織の再構築(リモデリング)には一定のサイクルがあることが証明されています。
- 炎症期(術後数日): 強い腫れや内出血。
- 増殖期(術後数週間): 組織がくっつこうとして硬くなる。違和感が最大になる時期。
- 成熟期(術後数ヶ月〜): 組織が徐々に本来の柔らかさを取り戻し、形が馴染んでいく。
このプロセスを十分に経ないまま、術後1ヶ月足らずで修正を繰り返すと、回復途中の脆弱な組織にさらなるダメージが加わり、最終的に修正が難しい状態に至る可能性が高まります。
精神科医としてお伝えしたいのは、「待つ」という時間が重要ということです。
早期の再評価や修正を急がず、経過を見る時間を持つことは、組織の安定を待つうえでも、気持ちを整理するうえでも有益なことがあります。
時間が解決してくれるのは、腫れだけではありません。
あなたの脳が「新しい自分の顔」という新しい視覚情報に慣れる(順応する)ためにも、この数ヶ月という期間が必要なのです。
家族や友人の評価と「自分の理想」のギャップを整理する
整形手術後の後悔を加速させる大きな要因に、周囲からの反応があります。
「前のほうが良かった」「不自然だ」という心ない一言や、逆に「どこが変わったの?」という無関心な反応が、自己肯定感を鋭く削り取ります。
ここで整理すべきは、「誰のための整形手術だったのか」という点です。
周囲の評価に過度に依存してしまう状態は、心理学的に「外的コントロール」に支配されている状態といえます。
特に、手術直後は自律神経が乱れやすいため、他人の些細な言葉を過剰に受け取ってしまいがちです。
- 理想のズレ: あなたが求めていた「美しさ」と、周囲が抱く「あなたのイメージ」は、最初から一致しなくて当然です。
- 認知の修正: 周囲の言葉は、あくまで「変化に対する戸惑い」であって、あなたの人間性や価値を否定するものではありません。
もし、家族や友人の言葉が辛いのであれば、今はその人たちから物理的に距離を置くことも、立派なメンタルケアの一つです。
自分の価値を他人の評価に委ねず、まずは自分の体が大きな手術を乗り越えたことを労ってあげましょう。
- 現在の左右差や違和感の多くは、ダウンタイム中の正常な生体反応であり、医学的な「失敗」とは限らない。
- 組織の完成(成熟期)には数ヶ月が必要であり、その期間は「待つこと」が最善の治療となる。
- 周囲の評価は一時的な反応に過ぎず、他人の言葉で自分の価値を決めないための心理的境界線が必要である。
- 焦って修正を繰り返すことは、肉体的にも精神的にもリスクを増大させる。
醜形恐怖症かな?と思った時の簡易チェックリスト
身体醜形障害(BDD)の可能性とチェックリスト
整形手術の仕上がりに納得がいかず、寝ても覚めてもその部位のことばかり考えてしまう場合、精神医学的には「醜形恐怖症(Body Dysmorphic Disorder: BDD)」の可能性を考慮する必要があります。
最新の診断基準であるDSM-5-TRでは、BDDは「強迫症および関連症群」に分類されていますが、これは、自分の容姿に「実際には存在しない、あるいは他人からは微細に見える欠点」があると思い込み、それに対して過度な不安や強迫的な行動を繰り返す疾患です。
BDDを抱えている方は、客観的には手術が成功しており、周囲から「綺麗になった」と言われても、自分自身の脳内では「歪んでいる」「醜い」という認識が修正されません。
これは視覚情報の処理や、感情を司る脳の部位の機能的な偏りが影響していると考えられています。
以下に、臨床現場で用いられる指標を参考にしたセルフチェックリストを作成しました。
- 鏡の確認: 1日に何度も鏡を見ては、手術箇所を数時間チェックしてしまう。
- 比較: 他人の顔やSNSの画像と自分の整形手術箇所を絶え間なく比較し、劣等感を感じる。
- カモフラージュ: 納得がいかない部位を隠すために、厚化粧やマスク、帽子が手放せず、それらがないと外出できない。
- 強迫的行動: 傷跡や左右差を指で確認し続け、皮膚を傷つけたり、何度も同じ質問を周囲に繰り返したりする。
- 社会的機能の低下: 顔のことが気になりすぎて、仕事や学校に行けない、友人と会うのを避けるようになった。
- 修正の渇望: 執刀医とは別のクリニックへ行き、すぐにでも再手術(修正)をしたいと強く願っている。
これらに多く当てはまる場合は、醜形恐怖症の可能性も含めて、精神科で相談をする意義があります。
※ セルフチェックだけで診断はできず、実際の術後合併症や経過もあわせて評価する必要があります。
醜形恐怖症には、認知行動療法やSSRI系薬物療法の有効性が示されており、適切な治療によって苦痛や確認行動が軽減することがあります。
もし本当に「失敗」だった場合、後悔を最小限にする対処法
前章では、整形手術後の後悔が「心の仕組み」によって増幅される側面をお伝えしました。
しかし、医学的な観点から見て、客観的に「術後トラブル」や「明らかな左右差」が生じているケースも現実には存在します。
もし、今の状態が単なる思い込みではなく、本当に「失敗」と言わざるを得ない状況だったとしたら、どのように動くのが最善なのでしょうか。
絶望感に飲み込まれそうな時こそ、感情に任せて行動するのではなく、医学的・法的なステップを一つずつ踏むことが、最終的な後悔を最小限に抑える鍵となります。
ここでは、傷ついた心と体を守りながら、現状を打開するための「具体的で現実的な処方箋」を提示します。
修正手術を急ぐのはNG。組織が安定するのを待つ重要性
「一刻も早く、今の顔を元に戻したい」という切実な願いは、痛いほどよくわかります。
しかし、精神科医としても、また外科的知識を持つ医療従事者としても、最も強くお伝えしたいのは「今はまだ、次のメスを入れないでほしい」ということです。
医学的なエビデンスに基づくと、手術後の組織は「瘢痕化(はんこんか)」という過程を辿ります。
手術で切開した部分は、一度硬くなり、その後数ヶ月かけてゆっくりと柔らかく馴染んでいきます。
この組織が不安定で硬い時期(通常、術後3〜6ヶ月)に再度手術を行うことは、以下のような重大なリスクを伴います。
- 仕上がりが予測不能: 土台となる組織が腫れていたり硬かったりすると、正確なデザインができません。
- 組織の損傷: 炎症が残っている状態で再手術をすると、血流が悪くなり、皮膚の壊死やさらなる癒着を招く恐れがあります。
- 修正の「修正」を繰り返す泥沼: 不完全な状態で修正を急ぐと、結果に満足できず、何度も手術を繰り返す「整形手術ループ」に陥りやすくなります。
醜形恐怖症のように外見へのとらわれが強い場合、不安や焦燥感に駆られて修正を急ぐことが、かえって心理的回復を遅らせることがあります。
まずは「組織の完成」を待つことが、次の一手を成功させるための絶対条件です。
クリニックへの相談とカルテ開示、セカンドオピニオンの受け方
今の状態に納得がいかない場合、まずは執刀医に相談するのが基本ですが、不信感が募っているときは対話自体が苦痛かもしれません。
その場合は、以下のステップで冷静に状況を把握しましょう。
- 経過写真の整理: 術前から現在までの写真を時系列で並べ、客観的な変化を記録します。
- カルテ開示の請求: 術式や処置内容を正確に確認するため、医療機関の定める手続に従って診療録や手術記録の開示を相談することが有用です。セカンドオピニオンを希望する場合にも、資料があると評価がしやすくなります。
- セカンドオピニオンの受診: 執刀医とは利害関係のない、別の信頼できる専門医に診察を依頼してください。
セカンドオピニオンを受ける際は、「失敗だ」という感情的な訴えだけでなく、「機能的に問題がある(目が閉じない、呼吸しづらいなど)」「事前のシミュレーションと明らかに異なる点」を箇条書きにして持参しましょう。
第三者の専門的な意見を聞くことで、「本当に修正が必要なレベルなのか、それとも時間の経過を待つべきなのか」という客観的な座標軸を手に入れることができます。
弁護士や消費者センターへ相談すべきケースとは
医療行為には必ずリスクが伴うため、すべての「満足のいかない結果」が損害賠償の対象になるわけではありません。
しかし、以下のようなケースでは、専門的な法的機関・行政機関への相談を検討すべきです。
- 説明義務違反: 手術のリスクや副作用について、事前に適切な説明がなかった場合。
- 明らかな医療過誤: 解剖学的にあり得ないミスや、術後の感染症の対応をしないなど。
- 不当な勧誘: 「今日契約すれば安くなる」と強引に迫られたり、必要のない施術を上乗せされたりした場合。
まずは「消費者生活センター(188番)」へ電話をし、状況を整理してもらうのが第一歩です。
また、美容医療トラブルに強い弁護士に相談することで、返金交渉や慰謝料請求の可能性を探ることができます。
「何もできない」という無力感から脱し、正当な手続きを踏んでいるという実感を持つことは、心の回復において非常に大きな意味を持ちます。
- 待機の重要性: 術後数ヶ月は組織が不安定。再手術を急ぐと、取り返しのつかないダメージに繋がるリスクがある。
- 客観性の確保: カルテ開示やセカンドオピニオンを通じて、主観的な「後悔」を客観的な「状態把握」へと切り替える。
- 外部機関の活用: 納得のいかない契約や明らかな過失がある場合は、一人で悩まず弁護士や消費者センターを頼る。
最終章:鏡を見るのが辛い時 / 心を回復させるためのセルフケア
整形手術の後、鏡を見るたびに「どうしてこうなってしまったのか」と自分を責めてしまう時間は、言葉にできないほど苦しいものです。
現在はダウンタイムの影響で一時的に気分が落ち込む、抑うつの状態にあるのかもしれません。
まずは傷ついた心を休ませ、健やかな回復を促すためのセルフケアを始めていきましょう。
デジタルデトックス:SNSの美容整形アカウントから距離を置く
整形手術後の不安が強いとき、私たちはついスマートフォンを手に取り、SNSで自分と同じ施術を受けた人の「成功事例」や「経過報告」を探してしまいがちです。
しかし、この行為は心理学的に「上方比較(自分より優れていると感じる対象と比較すること)」を誘発し、現在の自分に対する否定感を強めるリスクがあります。
特にX(旧Twitter)やInstagramに溢れる「(美容)整形垢」の投稿は、照明や加工アプリ、あるいは個人の体質による「奇跡的な成功例」が強調される傾向にあります。
SNSの過剰利用や、加工画像との繰り返しの比較は、外見へのとらわれや不安を強める一因になることがあります。とくに外見へのこだわりが強い人では、距離を置くことが回復の助けになる場合があります。
まずは以下のステップで、デジタル環境を整えてみてください。
- 通知をオフにする: 美容クリニックや整形手術インフルエンサーの投稿が目に入らないよう設定します。
- アプリの利用時間を制限する: iPhoneの「スクリーンタイム」などを活用し、夜間の検索を防ぎます。
- 「検索しない」という治療: 不安からくる検索行動は、一瞬の安心感を与えますが、長期的には不安を慢性化させます。
「今の自分」と「画面の中の誰か」を比べるのをやめるだけで、脳の疲労度は格段に下がります。
今は外側の情報ではなく、あなた自身の身体の回復に意識を向ける時期です。
マインドフルネス:今の自分を「評価せず」に受け入れる練習
鏡を見たときに「鼻が曲がっている」「左右差がひどい」とジャッジすることは、心の傷口を広げる行為に近いといえます。
ここで取り入れたいのが、マインドフルネスの考え方です。
マインドフルネスとは、今この瞬間の体験に、評価や判断を下さずに意識を向けることです。
マインドフルネスは、外見へのとらわれや不安への対処を助ける補助的な方法として用いられることがあります。(ただし、BDDが疑われる場合の標準的治療の中心は、認知行動療法やSSRI系薬物療法です。)
具体的な練習方法は以下の通りです。
- 観点(ラベリング): 鏡を見て「醜い」という感情が湧いたら、「今、私は『醜い』という思考を持っているな」と、客観的にラベルを貼ります。感情=自分自身ではなく、感情を「湧き上がってきた現象」として眺めます。
- 身体の感覚に集中する: 視覚(顔の造形)に執着しそうなときは、あえて足の裏が地面に触れている感覚や、呼吸に伴う胸の膨らみに意識を移します。
- セルフコンパッション: 「綺麗になりたいと願った自分」を、親友に接するように労わってください。手術を選んだのは、あなたがより良く生きようとした前向きなエネルギーがあったからです。その勇気自体を否定する必要はありません。
精神科を受診する目安(不眠、抑うつ状態、外出困難)
「整形手術の悩みで精神科に行くなんて」とためらう方も多いですが、美容整形手術後の深刻な抑うつ状態は、適切な医療介入が必要な疾患である可能性があります。
特に、元々「自分の容姿に対する過度なこだわり」があった場合、ICD-11で定義される「醜形恐怖症(Body Dysmorphic Disorder)」の症状が手術をきっかけに顕在化しているケースも少なくありません。
以下の症状が2週間以上続いている場合は、我慢せずに専門医を頼ってください。
- 睡眠障害: 鏡を見て後悔するあまり、寝付きが悪かったり、夜中に何度も目が覚めたりする。
- 日常生活の停滞(外出困難): 自分の顔を見られるのが怖くて仕事や学校に行けない、友人と会えない。
- 希死念慮: 「死んでリセットしたい」という思いが頭を離れない。
- 強迫的な鏡チェック: 1日に何時間も鏡やスマホのカメラで患部を確認してしまう。
精神科では、症状や診断に応じて、認知行動療法、SSRI系薬物療法、睡眠や不安への対症的治療などを組み合わせて対応します。どの治療が適切かは、BDDの有無、抑うつ症状、不安症状、希死念慮の程度などを踏まえて個別に判断されます。
一人で抱え込まず、心の専門家に相談することは、再手術を検討する際にも「冷静な判断」を下すための助けとなります。
- SNSを遮断する: 成功例との比較は自己否定を強めるため、スマホから離れる時間を作る。
- 評価をストップする: 鏡を見て「良い・悪い」を判定せず、「今の状態をただ眺める」練習をする。
- 医療を頼る: 不眠や外出困難が続くなら、それは心の専門家が必要なサイン。
終わりに
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
今、あなたが感じている後悔や不安は、決してあなた一人の責任ではありません。美しくなりたいという願いも、その後の心の戸惑いも、とても人間らしい、自然な感情です。
まずは、今日一日を乗り切った自分自身を、優しく認めてあげてください。
最後に、本記事の大切なポイントを振り返りましょう。
- 後悔の多くは、ダウンタイム中の精神的不安定(整形手術後の抑うつ気分や不安)が原因であることも多い。
- 物理的な失敗(左右差など)か、心理的な違和感かを冷静に見極めることが大切。
- 修正手術を焦らない。適切なタイミングと冷却期間を執刀医や専門医と相談する。
- 「鏡を見る時間を減らす」「完璧主義を緩める」など、メンタルケアを優先する。
- 一人で抱え込まず、カウンセラーや精神科医などの専門家に相談して良い。
整形手術は人生の一部分に過ぎません。あなたの価値は、その結果だけで決まるものでは決してありません。
焦って次の手術を決める前に、まずは傷ついた心を癒やす時間を自分に与えてあげてください。
もし、どうしても辛いときは、いつでも私たち専門家を頼ってくださいね。
あなたが心から笑顔になれる日が来ることを、私は信じています。
監修医プロフィール
監修:小林玲美子 先生

【保有資格】 精神科専門医 / 精神保健指定医 / 日本医師会認定産業医
【経歴・実績】 東京大学法学部を卒業後、アパレル企業にて店舗責任者を経験。その後、医学の道へ転身し、国立大学医学部附属病院にて「ベスト研修医」を受賞。
大学病院、児童相談所、行政機関など幅広い現場で、延べ13,000名以上の診療・治療に従事。
現在は自身のクリニックで診療を行う傍ら、30社以上の顧問医・産業医として企業の健康経営を支援している。
実臨床と社会活動の両面から、「真に必要な治療と医療情報」を届けることを大切にし、女性のライフデザイン支援や企業向けキャリアアップ研修の講師としても活動。
【参考文献】
・Body Dysmorphic Disorder – NIH NLM
・Wound Healing Phases
・Depersonalization/Derealization Disorder
・Body dysmorphic disorder (BDD) – NHS
