「自己愛性パーソナリティ障害」という言葉を調べてここにたどり着いたあなたは、きっと誰かとの関係に強い違和感や苦しさを感じているか、あるいは「自分自身の性格に何か問題があるのでは」と不安になっているのかもしれません。
ネット上には刺激的な言葉や断定的な情報も多く、読めば読むほど混乱してしまうこともありますよね。
この記事では、精神科医の立場から、自己愛性パーソナリティ障害を医学的に正確で、できるだけやさしい言葉で整理していきます。
「理解すること」が、あなた自身を守り、次の一歩を考えるための手がかりになるよう、落ち着いて一緒に確認していきましょう。
自己愛性パーソナリティ障害とは?基本的な理解
「自己愛性パーソナリティ障害」という言葉を聞くと、「自己中」「ナルシスト」「関わると危険」といった強いイメージを思い浮かべる方も多いかもしれません。
一方で、本当にそれは医学的に正しい理解なのでしょうか。
この章では、精神科医の立場から、自己愛性パーソナリティ障害の定義・特徴・誤解されやすいポイントを整理していきます。
自己愛性パーソナリティ障害の定義
自己愛性パーソナリティ障害は、精神医学ではパーソナリティ障害(人格障害)の一つとして位置づけられています。
DSM-5-TRやICD-11では、対人関係や自己認識のあり方に持続的な偏りが見られ、それが長期にわたって本人や周囲の生活に影響を及ぼしている状態として整理されています。
まず前提として、「パーソナリティ障害」とは、性格が悪いという意味ではありません。
考え方や感じ方、他者との関わり方の“癖”が非常に固定化し、柔軟に調整することが難しくなっている状態を指します。
そのため、本人の努力不足や甘えと単純に片づけられるものではなく、長い発達過程の中で形づくられてきた心の構造として理解されます。
自己愛性パーソナリティ障害において特徴的なのは、
・自分は特別であるという感覚(誇大的自己評価)
・他者からの賞賛や評価への強い欲求
・批判や否定に対する過敏さ
・対人関係における共感の不安定さ
といった傾向です。
ただし、ここで大切なのは、「常に自信満々で他人を見下している人」という単純なイメージでは捉えきれない、という点です。
また、「自己愛」という言葉自体も誤解されやすいポイントです。
医学的に言う自己愛とは、「自分という存在を保ち、価値を感じるための心の働き」を指します。
自己愛は本来、誰にとっても必要なもので、自己肯定感や自尊心の基盤となるものです。
問題となるのは、それが極端に不安定で、他者からの評価によって大きく揺れ動いてしまう場合です。
よくある誤解(自己中・ナルシストとの違い)
自己愛性パーソナリティ障害が誤解されやすい最大の理由は、日常会話やネット上で使われる「自己愛」「ナルシスト」という言葉との混同にあります。
SNSやまとめ記事では、「自己愛=他人を利用する悪者」「関わると人生を壊される存在」といった極端な描かれ方をすることも少なくありません。
しかし、医学的な自己愛性パーソナリティ障害は、単なる「自己中心的な性格」や「自分が好きすぎる人」とは異なります。
たとえば、自己中な人であっても、場面によって反省したり、人の気持ちを理解しようと修正できる場合、それはパーソナリティ障害とは言えません。
また、いわゆる「ナルシスト」という言葉も、外見へのこだわりや自己アピールが強い人を指す俗語として使われがちですが、診断とは直接結びつくものではありません。
自己愛性パーソナリティ障害では、表面的な自信の裏に、非常に脆い自己評価や強い不安が隠れていることが多く見られます。
重要なのは、「周りが困っている行動がある」ことと、「診断基準を満たす精神疾患障害である」ことはイコールではないという点です。
誰かを理解しようとする際には、ラベルを貼る前に、その人の背景や内面に目を向ける視点が欠かせません。
なぜ誤解されやすいのか
自己愛性パーソナリティ障害が特に誤解されやすい理由の一つは、行動の表面と内面のギャップにあります。
周囲から見ると、「自信過剰」「横柄」「他人の気持ちを考えない」と映る言動であっても、本人の内側では、強い不安や劣等感、見捨てられることへの恐れが渦巻いていることがあります。
たとえば、過度に自分を大きく見せる発言は、「優位に立ちたい」からではなく、「自分には価値があると確認しないと耐えられない」心の防衛反応である場合があります。
批判に激しく反応するのも、プライドが高いからというより、自己評価が崩れることへの耐性が極端に低いためです。
しかし、こうした内面の苦しさは外からは見えにくく、結果として「加害的な人」「関わってはいけない人」と一面的に理解されがちです。
医療の現場では、行動だけでなく、その背景にある心理構造や発達史を丁寧に見ていくことが重視されます。
誤解が広がる背景には、体験談や被害談が強調されやすいネット文化の影響もあります。
もちろん、関係性の中で傷ついた人の声は重要ですが、それだけが自己愛性パーソナリティ障害の全てではありません。
理解を深めるためには、「なぜそういう反応になるのか」という視点が欠かせないのです。
- 自己愛性パーソナリティ障害は、パーソナリティ障害の一つとして医学的に定義されている
- 「自己愛」は本来誰にとっても必要な心の機能であり、悪いものではない
- 自己中・ナルシストといった俗語とは医学的な意味が大きく異なる
- 表面的な自信の裏に、強い不安や自己評価の脆さが隠れていることが多い
- 行動だけで断定せず、内面や背景を含めて理解する視点が重要
自己愛性パーソナリティ障害の簡易チェック診断 – よくみられる特徴
この章では、精神科医の立場から、自己愛性パーソナリティ障害にみられやすい心理的特徴を、医学的な根拠に基づいて整理していきます。
なお、ここでお伝えする内容は、診断を下すためのものではありません。
あくまで「理解のための視点」として、ご自身や身近な方を見つめ直す材料として読んでいただければと思います。
表面的な自信と内面的な不安
自己愛性パーソナリティ障害の特徴として、しばしば挙げられるのが、自信に満ちた態度や誇大的な自己評価です。
「自分は特別な存在だ」「高い能力がある」「周囲から評価されるべきだ」といった言動が目立ち、周囲からは自信過剰、プライドが高い人と見られることもあります。
しかし臨床の場で丁寧に話を聞いていくと、その内側には安定しない自己評価や、傷つきやすさ、不安定な自尊心が隠れているケースが少なくありません。
自己肯定感がしっかりと根づいているというよりも、「価値ある自分でい続けなければならない」という強い緊張状態の中で生きている、と表現したほうが近いこともあります。
DSM-5-TRおよびICD-11では、自己愛性パーソナリティ障害において、自己像や自己価値感が外部評価に左右されやすく、不安定になりやすいことが指摘されています。
そのため、表面的には誇大性が目立っていても、内面では「否定されたら自分は崩れてしまう」「価値のない存在になってしまう」という強い恐れを抱えていることがあります。
この外側の自信と内側の不安のギャップが、防衛的な態度や極端な言動につながっていくのです。
賞賛への強い欲求と批判への過敏さ
自己愛性パーソナリティ障害を理解するうえで、賞賛や承認への強い欲求は非常に重要なポイントです。
褒められること、認められること、特別扱いされることによって、自分の価値を実感し、心の安定を保っている方も少なくありません。
一方で、批判や否定、些細な指摘に対しても過敏に反応しやすい傾向があります。
本人にとっては軽い意見交換のつもりの一言でも、「人格そのものを否定された」「価値を奪われた」と感じてしまい、強い怒り、深い落ち込み、相手への攻撃的態度として表れることがあります。
精神医学的には、これは単なる「プライドの高さ」ではなく、自尊心の調整がうまくいかない状態として理解されます。
賞賛によって一時的に高揚し、批判によって急激に崩れる――その振れ幅の大きさが、感情の不安定さや対人関係の緊張を生み出していきます。
共感性の問題は「欠如」ではなく「歪み」
自己愛性パーソナリティ障害について、「共感性がない」「他人の気持ちが理解できない」と説明されることがありますが、この表現は必ずしも正確ではありません。
近年の臨床的理解や研究では、共感能力そのものが完全に欠如しているというよりも、共感の働き方に偏りや歪みが生じていると捉えられることが多くなっています。
たとえば、相手の感情を読み取る力はあるものの、それが自分の評価や優位性を保つために使われてしまう場合や、
自分が傷つくことを避ける防衛として、無意識のうちに相手の感情への関心を遮断してしまうこともあります。
ICD-11では、パーソナリティ障害を「自己機能」「対人関係機能」「感情調整」の持続的な困難として捉えています。
共感性の問題も、この対人機能の障害の一側面として理解することで、「冷たい人」「思いやりがない人」といった単純なラベルでは説明できない複雑さが見えてきます。
人間関係が不安定になりやすい理由
自己愛性パーソナリティ障害を持つ方は、対人関係において極端な揺れを経験しやすい傾向があります。
出会った当初は相手を理想化し、「この人は特別だ」「自分を理解してくれる存在だ」と強い期待を寄せることがあります。
しかし、その期待が少しでも裏切られたと感じると、失望や怒りが急激に高まり、相手を否定したり、関係を断ち切ろうとすることがあります。
この背景には、見捨てられることへの恐れと、自己価値の不安定さが深く関係しています。
対人関係が、自分の誇大性や自尊心を支える役割を担っているため、関係が揺らぐと自己全体が揺らいでしまうのです。
結果として、人間関係は緊張が高まりやすく、衝突や断絶を繰り返すパターンが固定化していきます。
これは決して「性格が悪い」「努力が足りない」という問題ではありません。
長年かけて形成された対人関係のパターンであり、適切な理解と支援があれば見直していくことが可能な領域です。
- 自己愛性パーソナリティ障害では、誇大性の背後に不安定な自己評価や傷つきやすさが存在することが多い
- 賞賛への強い欲求と批判への過敏さは、自尊心の調整の難しさと深く関係している
- 共感性の問題は完全な欠如ではなく、防衛や自己評価と結びついた「歪み」として現れることが多い
- 人間関係の不安定さは、見捨てられ不安と自己価値の揺らぎが背景にある
防御方法 – 身近な人が自己愛性パーソナリティ障害かもしれないと感じたときの
家族や恋人、職場の人との関係の中で、「なぜか強く疲れてしまう」「相手の言動に振り回されている気がする」と感じることがあります。
この章では精神科医の立場から、関係性の中で起こりやすい問題を整理し、自分の心を守るための現実的な視点をお伝えします。
相手を「診断」しないことの重要性
まず強調しておきたいのは、身近な人を「自己愛性パーソナリティ障害だ」と判断することは、医学的にも適切ではないという点です。
DSM-5-TRやICD-11において、パーソナリティ障害の診断は、専門家が継続的な面接や情報収集を通じて行う総合的な臨床判断とされています。
特定の言動や、関係性の中で感じるつらさだけで診断が下されることはありません。
診断名は本来、本人の困りごとを理解し、支援や治療につなげるための医療的な枠組みです。
周囲の人がラベルとして用いてしまうと、「相手は病気だから仕方がない」「自分が我慢するしかない」といった思考に傾きやすくなります。
これは関係性を固定化し、あなた自身の苦しさを長引かせる要因にもなり得ます。
大切なのは、相手を診断することではなく、「この関係性の中で、自分がどのような影響を受けているのか」を丁寧に見つめることです。
共感と境界線をどう保つか
精神科医として多くの方にお伝えしているのは、「共感」と「境界線」は対立するものではなく、同時に必要だということです。
相手の背景やつらさを理解しようとする姿勢は大切ですが、それと引き換えに自分の心や時間、尊厳を差し出す必要はありません。
境界線とは、「相手の感情は理解するが、すべてを引き受けるわけではない」という心理的な線引きです。
たとえば、相手が怒りや不満を示したときに、「そう感じているのですね」と受け止めることと、「その感情を解決する責任は自分にある」と背負い込むことは別です。
境界線を持つことは冷たさではありません。
むしろ、関係性をこれ以上傷つけないための、現実的で誠実な態度だといえます。
境界線があるからこそ、過度な巻き込まれを防ぎ、関係性を続ける余地が生まれることもあります。
自分の心を守る視点
関係性の中で、「常に緊張している」「自分が悪いのではないかと考え続けてしまう」「感情が鈍くなったように感じる」といった状態が続く場合、それは心が限界に近づいているサインかもしれません。
こうした反応は、慢性的な対人ストレスにさらされたときに、多くの人が経験し得る自然なものです。
自分を守るということは、相手を否定したり見捨てたりすることではありません。
必要に応じて距離を取ること、信頼できる第三者に相談すること、精神科やカウンセリングといった専門的な支援を利用することも、十分に正当な選択肢です。
「自分が弱いからつらいのではないか」と責める必要はありません。
難しい関係性の中で苦しさを感じること自体が、あなたの心が正常に反応している証でもあります。
- 身近な人を診断名で決めつけることは医学的に適切ではない
- 問題は性格ではなく、関係性のバランスにある場合が多い
- 共感と同時に、心理的な境界線を持つことが重要
- 自分の心の不調サインに気づいた場合は、早めに距離をとることが大切
自分自身が「当てはまるかも」と不安な人へ
「自己愛性パーソナリティ障害」という言葉を調べる中で、「もしかして自分のことなのではないか」と不安になる方は少なくありません。
この章では精神科医の立場から、診断名に振り回されず、今の自分の状態を冷静に整理するための視点をお伝えします。
ラベルよりも「困りごと」に目を向ける
「自己愛性パーソナリティ障害に当てはまるかどうか」は、今すぐ明確な答えを出す必要がある問いではありません。
精神科の診療においても、初期段階から特定の診断名を断定的に決めることは多くありません。
なぜなら、医療の現場でまず重視されるのは診断名そのものではなく、日常生活や対人関係でどのような困りごとが生じているかだからです。
たとえば、
・他人からの評価が気になりすぎて疲弊してしまう
・否定的な言葉に強く反応し、感情のコントロールが難しくなる
・人間関係が不安定になりやすく、同じような摩擦を繰り返している
こうした困りごとは、自己愛性パーソナリティ障害に限らず、不安障害、抑うつ状態、強いストレス反応など、さまざまな心理的背景で生じます。
DSM-5-TRやICD-11においても、パーソナリティ障害は一定期間以上にわたり、複数の場面で行動や対人関係のパターンが固定化し、本人や周囲に明確な苦痛や機能低下をもたらしているかという点が重要視されます。
ネット上のセルフチェックは、自分の状態に気づく「きっかけ」にはなり得ますが、それだけで診断が確定するものではありません。
点数や項目に過度に意味づけをするよりも、「今の自分は何に困っているのか」「どんな場面でつらさが強くなるのか」を言葉にして整理することが、適切な支援につながる第一歩になります。
性格傾向と障害の違い
「自信がある」「プライドが高い」「評価を気にしやすい」といった特徴は、多くの人に程度の差はあっても見られるものです。
これらは性格傾向であり、それ自体が直ちに精神疾患を意味するわけではありません。
一方で、パーソナリティ障害と診断される場合には、こうした傾向が非常に強く、柔軟性を欠き、長期にわたって本人の生活や対人関係に大きな支障を生じさせていることが前提となります。
ICD-11では、従来の「○○型」という分類よりも、
・自己イメージの安定性
・感情調整の困難さ
・対人関係の機能
といった機能面の障害の程度が重視されています。
つまり、「自己愛的な特徴がある=自己愛性パーソナリティ障害」と短絡的に結論づけることはできません。
性格傾向と障害のあいだには連続性があり、白か黒かで切り分けられるものではない、という理解が重要です。
相談を考えるタイミング
「では、いつ専門家に相談すればよいのか」と迷う方も多いでしょう。
明確な期間の基準が一律に決まっているわけではありませんが、次のような状態が継続して生活の質に影響している場合は、相談を検討してよいサインと考えられます。
・不安や自己否定感が強く、仕事や日常生活に支障が出ている
・対人関係での緊張や衝突が続き、強いストレスを感じている
・感情の揺れが大きく、自分で調整するのが難しいと感じる
・考え方が極端になり、自分自身が振り回されている感覚がある
重要なのは、「診断名をつけてもらうため」に受診する必要はない、という点です。
精神科や心療内科は、困りごとを整理し、負担を軽くするための選択肢を一緒に考える場所でもあります。
早い段階で相談することで、自分の特性を理解し、無理のない対処法を見つけられる場合もあります。
精神科・心療内科・カウンセリングの使い分け
相談先について迷ったときは、それぞれの役割を知っておくと判断しやすくなります。
精神科・心療内科では医師が診察を行い、必要に応じて診断や薬物療法を含めた医療的サポートを検討します。
不安や抑うつ、不眠などの症状が強い場合には、医学的な評価が助けになることがあります。
一方、カウンセリングでは、臨床心理士や公認心理師などが対話を通じて、考え方のクセや感情の動き、人間関係のパターンを整理する支援を行います。
自己愛性パーソナリティ障害を含むパーソナリティ傾向の問題では、心理療法が重要な役割を果たすことが多いとされています。
「どこに行けばいいかわからない」と感じる場合は、まず精神科・心療内科で相談し、必要に応じてカウンセリングを併用する形でも問題ありません。
大切なのは、一人で抱え込まず、安心して話せる専門家とつながることです。
- 診断名よりも、今の生活で感じている「困りごと」を整理することが大切
- 性格傾向とパーソナリティ障害は連続的なもので、単純に線引きできない
- 不安や対人関係のつらさが続く場合、相談は早すぎることはない
- 精神科・心療内科とカウンセリングは役割が異なり、併用も可能
- 相談することは弱さではなく、自分を守るための選択
治療や改善は可能なのか
自己愛性パーソナリティ障害について調べていると、「治らない」「一生変わらない」といった強い言葉を目にすることが少なくありません。
しかし、医学的な視点から見ると、この障害は治療がまったく不可能なものではありません。
この章では、精神科医の立場から、自己愛性パーソナリティ障害の治療の現実的な位置づけと、改善が見られるケースについて、最新の医療基準に基づいて丁寧に整理していきます。
現状、薬物療法は存在しない
まず大切な点として、自己愛性パーソナリティ障害そのものを直接「治す」ための薬は、現在の医学では存在していません。
DSM-5-TRやICD-11においても、自己愛性パーソナリティ障害に対する特異的な薬物療法は位置づけられていません。
ただし、これは「薬が一切使われない」という意味ではありません。
自己愛性パーソナリティ障害のある方は、経過の中で抑うつ、不安、不眠、怒りの爆発、衝動性といった症状を併発することがあります。
こうした併存症状に対しては、抗うつ薬や抗不安薬、気分安定薬などが補助的に処方されることもあります。
重要なのは、薬物療法はあくまで「治療の土台を整える役割」にとどまるという点です。
感情の波を和らげ、日常生活を安定させることで、精神療法やカウンセリングに取り組める状態を作るためのサポートと考えられます。
性格傾向や対人関係のパターンそのものを、薬だけで変えることは難しい、というのが現在の医学的な共通認識です。
精神療法(心理療法)が中心になる理由
自己愛性パーソナリティ障害の治療の中心は、精神療法(心理療法)やカウンセリングです。
これは国際的な診療ガイドラインや、信頼性の高い医療情報源でも一貫して示されています。
この障害の本質は、「自分をどう捉えているか」「他者とどのような関係を築いているか」といった、長い時間をかけて形成された内的なパターンにあります。
誇大的な自己評価や、極端に傷つきやすい自尊心、他者からの評価への過敏さは、単なる助言や指示だけで修正できるものではありません。
精神療法では、こうした特徴を「問題行動」として一方的に修正するのではなく、その背景にある心理や防衛のあり方を、治療関係の中で丁寧に扱っていきます。
認知行動療法、精神力動的精神療法、スキーマ療法、対人関係に焦点を当てたアプローチなど、複数の方法が用いられることがあります。
カウンセリングの場では、「あなたが間違っている」「変わらなければならない」と責めることはしません。
むしろ、これまでその自己愛的な在り方によって、どのように自分を守ってきたのかを理解しつつ、同時に生きづらさが生じている部分を一緒に見つめていきます。
そのため、治療は短期決戦ではなく、時間をかけて進めるものになることが一般的です。
治療が進みにくいと言われる背景
自己愛性パーソナリティ障害は、臨床の現場でも「治療が難しい」と感じられやすい障害です。
その理由は、本人の努力不足ではなく、この障害が持つ構造的な特徴にあります。
まず、自己愛性パーソナリティ障害は自我親和的であることが多く、本人が「自分に問題がある」と感じにくい傾向があります。
困っているのは周囲であり、本人は「理解されない」「正当に評価されていない」という感覚を強めている場合が少なくありません。
そのため、治療の動機が内側から生まれにくいことがあります。
また、治療者との関係性そのものが揺れやすい点も特徴です。
治療者を理想化したかと思えば、わずかな不一致や指摘をきっかけに強い失望や怒りを感じ、通院を中断してしまうケースも見られます。
こうした治療関係の不安定さは、自己愛性パーソナリティ障害の特徴そのものが反映された現象とも言えます。
さらに、この障害の背景には、幼少期の愛着の問題や心理的なトラウマが関係していることが多く、それらに触れる過程で強い防衛反応や不安が生じることも、治療を進めにくくする要因となります。
改善が見られるケースの特徴
一方で、自己愛性パーソナリティ障害においても、改善が見られるケースがあることは医学的にも確認されています。
ここでいう改善とは、「性格が完全に変わる」「自己愛がなくなる」といったものではありません。
改善とは、対人関係のトラブルが減り、感情の揺れに少し距離を取れるようになり、生きづらさが和らいでいく状態を指します。
自分の反応パターンに気づき、「いま自分は傷ついている」「防衛的になっている」と一歩引いて考えられるようになることも、大きな変化です。
改善が見られやすいケースには共通点があります。
ひとつは、「このままでは自分が苦しい」という内的な気づきが芽生えていることです。
人間関係の破綻や仕事上の失敗など、現実的な体験がきっかけになることもあります。
もうひとつは、長期的な視点で治療に取り組める環境があることです。
揺れ戻りや停滞を含めて治療のプロセスとして受け止め、信頼できる治療者との関係を継続できるかどうかは、予後に大きく影響します。
周囲の人が過度に「治そう」「変えよう」と介入しすぎないことも、結果的に改善につながる場合があります。
本人が自分自身の課題として向き合える余地を残すことが、回復の土台になります。
- 自己愛性パーソナリティ障害そのものを直接治す特効薬は存在しない
- 薬物療法は、併存する抑うつや不安などへの補助的な治療として用いられる
- 治療の中心は精神療法・カウンセリングであり、時間をかけて取り組む必要がある
- 本人が問題を自覚しにくく、治療関係が不安定になりやすいため、進行が難しい場合も多い
- ただし、自己理解が深まり、対人関係や感情調整が安定していくなどの改善は十分に起こりうる
終わりに:記事のまとめ
ここまで、自己愛性パーソナリティ障害について、定義や特徴、背景、治療や関わり方までを丁寧に見てきました。
大切なのは、この障害が「単なる性格の悪さ」でも「誰かを一方的に断罪するための言葉」でもない、という点です。
自己愛的な言動の裏側には、強い不安や自己防衛が隠れていることも少なくありません。
一方で、身近な人との関係であなたが深く傷ついているのであれば、「理解しようと頑張りすぎる」必要はありません。相手の問題と、あなたの心の安全は別のものです。距離の取り方や境界線を考えることも、立派なセルフケアです。
また、「自分が当てはまるかもしれない」と感じた場合も、ネット情報だけで結論を出す必要はありません。
診断は専門家が慎重に行うものであり、相談すること自体が弱さを意味するわけではありません。
- 自己愛性パーソナリティ障害は医学的に定義されたパーソナリティ障害の一つ
- 特徴には誇大性や共感の難しさがあるが、個人差が大きい
- 背景には愛着や自己防衛の問題が関係することがある
- 治療や支援は可能だが、長期的な視点が必要
- 周囲の人は「変えようとしすぎない」こと、自分を守ることが大切
この記事が、混乱や不安を少し整理し、「次にどうするか」を考えるための静かな支えになれば幸いです。
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<参考文献>
・自己愛性パーソナリティ障害(NPD)は「誇大性(空想または行動)・賞賛欲求・共感性の欠如」を中核とする持続的パターンである。精神科協会
・ネット上の「自己愛(自己愛強い人)」「自己愛性=悪」などのスラング的用法は、診断概念とズレる:APA 精神科協会
・自己愛性パーソナリティ障害(NPD)では、周囲から自信満々/プライドが高い/自信過剰に見える言動(外的な誇大性)が目立つことがある。-Narcissistic Personality Disorder
・“脆弱(vulnerable)側面/自己価値の不安定さ”はNPD理解の重要論点としてレビューで繰り返し述べられる(個人差はあるが一般論として支持)。Narcissistic Personality Disorder: Progress in Understanding and Treatment
・NPDの共感性は「完全に欠如」ではなく、機能不全(dysfunctional)/偏り(歪み)として現れるという理解がある。Empathy in Narcissistic Personality Disorder: From Clinical and Empirical Perspectives
・パーソナリティ障害関連では心理教育・心理療法等の支援が重要(ガイドラインで治療や情報提供が扱われる):NICE CG78 NICE+1
・Mayo Clinic:NPDに特異的に使う薬はない。Mayo Cl
・Mayo Clinic:併存疾患(うつ等)があれば薬が含まれ得る。Mayo Clinic
・StatPearls:egosyntonicで本人が認識しにくく、周囲の勧めで受診しがちと説明。NCBI/
