「心理療法にはいろいろな種類があります」と聞いても、実際にどんな違いがあり、どのように受けるものなのか、具体的なイメージが湧かない方は多いのではないでしょうか。

一対一で話をするのか、家族やパートナーと一緒に受けるのか、あるいはグループで行うのか――心理療法は、その考え方(理論)だけでなく、実施形式によっても体験や得られる効果が大きく変わります。

この記事では、心理療法を専門とする臨床の視点から、「心理療法の種類」を理論と実施形式の両面からやさしく整理します。専門用語はできるだけかみ砕きながら、初めて心理療法を検討する方にも安心して読んでいただける内容を目指します。
「自分にはどんな心理療法が合いそうか」を考えるヒントとして、ぜひ参考にしてみてください。

第1章|心理療法は「何を」「誰と」行う治療なのか

心理療法という言葉を聞くと、「心の深い話をする治療」「特別な人が受けるもの」といったイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし実際には、心理療法はもっと幅広く、日常の延長線上にある支援方法でもあります。

この章ではまず、心理療法の基本的な考え方を整理しながら、「心理療法は何を目的とし、誰と、どのような枠組みで行われるのか」という全体像をお伝えします。後の章で紹介するさまざまな心理療法の種類を理解するための、土台となる章です。

心理療法とは何をする治療なのか

心理療法とは、主に対話を通じて心の状態や行動、人との関わり方に働きかけていく治療・支援の総称です。
医師や臨床心理士・公認心理師などの専門家が、一定の理論や技法に基づき、安心できる関係性の中で支援を行います。

ここで大切なのは、心理療法が「悩みをすぐに消す魔法」ではないという点です。
心理療法は、悩みや不調を一緒に整理し、その人なりの回復や変化を支えていくプロセスといえます。うまく言葉にできない気持ちを言語化したり、これまで無意識に繰り返してきた考え方や行動のパターンに気づいたりすることが、少しずつ心の負担を軽くしていきます。

心理療法には「理論」と「実施形式」がある

心理療法の種類を理解するうえで、重要な視点が二つあります。
一つはどのような考え方(理論)に基づいているか、もう一つはどのような実施形式で行われるかです。

たとえば、認知行動療法や精神分析、人間性心理学的アプローチなどは「理論」の違いを表しています。一方で、同じ認知行動療法でも、一対一で行われることもあれば、グループで実施されることもあります。
つまり、「心理療法の種類=理論の名前」だけでは、実際の受け方までは分からないのです。

この点を知らないまま心理療法を調べると、「思っていたものと違った」「自分には合わない気がする」と感じてしまうこともあります。心理療法は、理論と実施形式の組み合わせによって、体験が大きく変わるものだという理解がとても大切です。

心理療法は「一人で受けるもの」とは限らない

心理療法というと、静かな部屋で専門家と一対一で話すイメージを思い浮かべる方が多いかもしれません。確かに個人療法は最も一般的な形式ですが、それがすべてではありません。

心理療法には、

  • パートナーと一緒に関係性を見直すカップルセラピー
  • 家族全体の関わり方に焦点を当てる家族療法
  • 同じテーマを持つ人たちと行うグループセラピー

といった実施形式もあります。これらは「誰かが悪いから治す」という発想ではなく、人と人との相互作用や関係性そのものに目を向ける点が特徴です。
特に対人関係の悩みや、家庭・職場など環境要因が大きい場合には、個人だけでなく複数人で取り組む心理療法が役立つこともあります。

上記で挙げたもの以外にも、動物と人とのふれあいを通じて、ストレスの軽減や気分の安定を促す心理療法の一つとして、アニマルセラピーというのもあります。

薬物療法との違いと併用という考え方

心理療法と並んでよく話題になるのが薬物療法です。
薬物療法は、脳内の神経伝達物質などに作用し、症状の緩和を目指す治療です。一方、心理療法は、考え方・感情・行動・人間関係といった側面に働きかけます。

どちらが優れているというものではなく、状態や目的によって役割が異なると考えるのが現実的です。
実際の臨床では、心理療法と薬物療法を併用するケースも少なくありません。症状が強い時期には薬物療法で負担を軽減しつつ、心理療法で再発予防や生活の質の向上を目指す、という形が取られることもあります。

大切なのは、「自分にはどの選択肢が合いそうか」を専門家と一緒に考えていく姿勢です。

まとめ
  • 心理療法は、対話を通じて心や行動に働きかける治療・支援
  • 心理療法には「理論」と「実施形式」という二つの軸がある
  • 一対一の個人療法だけでなく、カップル・家族・グループで行う形式もある
  • 人間関係や環境要因に焦点を当てる心理療法も存在する
  • 薬物療法と心理療法は対立するものではなく、併用されることも多い

ここまで、心理療法の基本的な考え方と、「理論」と「実施形式」という二つの視点について整理してきました。
次の章では、いよいよ心理療法の実施形式ごとの特徴を詳しく見ていきます。

個人療法、カップルセラピー、家族療法、グループセラピーには、それぞれどのような特徴があり、どんな悩みに向いているのでしょうか。「自分はどの形式が合いそうか」を考えながら、読み進めてみてください。

第2章|心理療法の主な実施形式とその特徴

心理療法について調べていると、「認知行動療法」「家族療法」「グループセラピー」など、さまざまな言葉が並び、混乱してしまう方も多いのではないでしょうか。その理由の一つは、心理療法の「理論」と「実施形式」が混ざって語られやすいことにあります。

この章では、心理療法を「どのような単位で受けるのか」という実施形式に焦点を当て、それぞれの特徴や向いているケースをやさしく整理していきます。実施形式を知ることで、心理療法がより身近で現実的な選択肢として感じられるようになるはずです。

個人療法|心理療法士と一対一で取り組む基本的な形

個人療法は、心理療法士とクライアントが一対一で行う、最も一般的な心理療法の形式です。
静かで守られた空間の中で、自分のペースで話ができるため、「他人に聞かれたくない話題がある」「じっくり自分自身と向き合いたい」という方に向いています。

個人療法では、不安や抑うつ、ストレス、自己肯定感の低さ、人間関係の悩みなど、幅広いテーマが扱われます。
また、認知行動療法、精神分析的アプローチ、人間性心理学的アプローチなど、多くの心理療法の理論が個人療法の形で実施されるという点も特徴です。

一方で、個人療法はあくまで「その人自身」に焦点を当てるため、家族関係やパートナーとの相互作用が強く影響している場合には、別の実施形式が検討されることもあります。


カップルセラピー|関係性そのものを扱う心理療法

カップルセラピーは、恋人や夫婦など二人の関係性を一つのテーマとして扱う心理療法です。
どちらか一方を「治す」ことを目的とするのではなく、二人の間でどのようなやり取りやパターンが生じているのかを整理し、よりよい関係性を模索していきます。

たとえば、コミュニケーションのすれ違い、価値観の違い、感情のぶつかり合いなどは、どちらか一方の問題というより、関係の中で生まれている課題であることが少なくありません。
カップルセラピーでは、第三者であるセラピストが入ることで、感情的になりやすい話題も安全に扱いやすくなります。

なお、カップルセラピーは「関係を続けること」を強制するものではなく、関係について冷静に考えるための場として利用されることもあります。


家族療法|家族というシステム全体に目を向ける

家族療法は、家族を個人の集合ではなく、一つのシステムとして捉える心理療法です。
誰か一人に問題が現れているように見えても、実際には家族内の役割分担や力関係、コミュニケーションのあり方が影響していることがあります。

このアプローチでは、親子関係、きょうだい関係、世代間の関係などを含め、家族全体の相互作用を見直していきます。
そのため、セッションには複数の家族メンバーが参加することもあれば、状況に応じて一部のメンバーのみが参加することもあります。

家族療法は、子どもや思春期の問題、介護やライフステージの変化に伴う葛藤など、個人だけでは解決しにくい課題に対して検討されることが多い実施形式です。


グループセラピー|「他者との関わり」の中で回復を目指す

グループセラピーは、共通のテーマや課題を持つ少人数のグループで行われる心理療法です。
不安、抑うつ、依存、対人関係の困難など、さまざまなテーマで実施されることがあります。

この形式の大きな特徴は、参加者同士が互いに支え合い、学び合う関係が生まれる点です。
「自分だけが苦しんでいるわけではない」と感じられることや、他者の体験を通して新しい視点を得られることが、回復を後押しする場合もあります。

また、グループという安全な場の中で、コミュニケーションの練習や新しい行動を試すことができる点も、グループセラピーならではの利点です。
一方で、集団の中で話すことに強い抵抗がある場合には、無理のない形が検討されます。

まとめ
  • 心理療法には「誰と受けるか」という実施形式の違いがある
  • 個人療法は、一対一でじっくり自分自身と向き合いたい人に向いている
  • カップルセラピーは、二人の関係性そのものをテーマとして扱う
  • 家族療法は、家族全体の相互作用や力関係に目を向ける
  • グループセラピーは、他者との関わりの中で支え合いながら進む

ここまで、心理療法の主な実施形式について見てきました。
実際の臨床では、これらの実施形式が心理療法の理論と組み合わさって用いられることがほとんどです。たとえば、認知行動療法は個人療法だけでなく、グループ形式で行われることもあります。

次章では、認知行動療法や精神分析、人間性心理学などの理論別アプローチに注目しながら、「どの理論が、どの実施形式で行われやすいのか」「自分にはどの組み合わせが合いそうか」を考えていきましょう。

第3章|心理療法の理論別アプローチと実施形式の組み合わせ

ここまで、心理療法の基本的な考え方と、実施形式ごとの特徴について見てきました。
しかし実際に心理療法を受ける場面では、「個人療法かグループ療法か」といった形式だけでなく、どのような理論に基づいた心理療法なのかも重要なポイントになります。

この章では、代表的な心理療法の理論を取り上げながら、それぞれがどの実施形式と組み合わされることが多いのかを整理していきます。「自分にはどんな組み合わせが合いそうか」を考えるヒントとして、読み進めてみてください。

認知行動療法(CBT)|個人療法からグループ療法まで幅広く使われる

認知行動療法(CBT)は、「ものごとの受け取り方(認知)」と「行動」に働きかける心理療法です。
不安や抑うつ、ストレス関連の悩みなど、幅広いテーマで用いられており、エビデンスが比較的多いことでも知られています。

CBTは、個人療法として行われることが多い一方で、グループセラピーとして実施されるケースも少なくありません
グループ形式では、同じテーマに取り組む参加者同士が体験を共有しながら、考え方や対処法を学んでいきます。他者の取り組みを知ることで、「自分だけができていないわけではない」と安心できる場合もあります。

このようにCBTは、実施形式の柔軟性が高く、生活の中で実践しやすい点が特徴といえるでしょう。


精神分析・力動的心理療法|個人療法を中心に深い内面を扱う

精神分析や力動的心理療法は、無意識の働きや過去の体験、人との関係性のパターンに注目するアプローチです。
現在の悩みを「その場の問題」としてだけでなく、これまでの人生の中で形づくられてきた心の動きとして理解しようとします。

このアプローチは、個人療法として行われることがほとんどです。
一対一の安定した関係の中で、自由に話す時間を重ねることで、気づきや理解が深まっていきます。

即効性よりも、長期的な変化や自己理解を重視する傾向があるため、「じっくり自分を知りたい」「同じ悩みを繰り返している理由を考えたい」という方に検討されることがあります。


人間性心理学的アプローチ|関係性を大切にする柔軟な実施形式

人間性心理学に基づく心理療法(来談者中心療法など)は、「人は本来、成長し回復する力を持っている」という考え方を大切にします。
セラピストは助言や分析を押しつけるのではなく、共感的に話を聴き、安心できる関係性を築くことを重視します。

このアプローチは、個人療法として行われることが多いですが、カップルセラピーやグループセラピーとも親和性が高いとされています。
対話そのものが治療的な意味を持つため、関係性の中での体験が重要になるからです。

自己肯定感の低下や、人間関係での生きづらさを抱える方にとって、安心感のあるアプローチと感じられることもあります。


第三世代の認知行動療法|マインドフルネスやACTの広がり

近年注目されている第三世代の認知行動療法には、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)やマインドフルネスを取り入れたアプローチがあります。
これらは、「考えを変える」ことよりも、「考えとの付き合い方を変える」ことを重視する点が特徴です。

ACTやマインドフルネスは、個人療法として行われることもあれば、グループ形式で実践されることも多いアプローチです。
瞑想やワークを通じて体験的に学ぶ要素があるため、グループでの実施が適している場合もあります。

ストレス対処や価値観の整理など、診断名に限定されないテーマで用いられることもあります。


「どの理論 × どの形式」が合うかは人それぞれ

ここまで見てきたように、心理療法は「理論」と「実施形式」の組み合わせによって、多様な形を取ります。
大切なのは、「この療法が正解」「この形式でなければ意味がない」と考えることではありません。

今の悩みの内容、生活状況、対人関係の状態、安心して話せるかどうかなど、その人の状況によって合う組み合わせは変わります
迷ったときは、専門家に相談しながら、無理のない形を一緒に検討していくことが大切です。

まとめ
  • 心理療法は「理論」と「実施形式」の組み合わせで成り立っている
  • 認知行動療法は個人療法・グループ療法の両方で行われることが多い
  • 精神分析・力動的心理療法は個人療法が中心
  • 人間性心理学的アプローチは関係性を重視し、形式の幅が広い
  • ACTやマインドフルネスはグループ形式とも相性がよい

心理療法の種類について調べると、専門用語の多さに戸惑ってしまうこともあるかもしれません。しかし、心理療法は決して特別な人だけのものではなく、自分の心と向き合うための選択肢の一つです。

理論や形式に正解はなく、「今の自分に合いそうかどうか」が何より大切です。この記事が、心理療法を少し身近に感じ、自分に合った支援を考えるきっかけになれば幸いです。