近年、生活に彩りを与える「推し活」が広がる一方で、熱中が過度になり心身や生活に支障をきたすケースが医療・支援の現場で注目されています。単なる「熱中」とケアが必要な「行動依存」をどう見極めればよいのでしょうか。
本記事では、現代のSNS環境における過度な有名人崇拝を捉える新たな評価尺度(ECWBQ)を開発した最新論文(He & Liu, 2024)を解説します。9つの構成因子やデータが明かすファンの実態、臨床・社会的活用法まで、医療者・支援者のアセスメントや当事者・ご家族の理解に役立つエビデンスをお届けします。🎁✨
📚参考文献表記
He Y, Liu Q. The excessive celebrity worship behavior questionnaire: Chinese scale development and validation. PLoS One. 2024;19(5):e0303683. doi:10.1371/journal.pone.0303683
1. 「推し活」が過度になると何が起きるのか?新時代の行動依存としての側面
(対応原文:1. Introduction / 1.1 Literature review)
推し活は日々の活力を生む一方で、過度な没入のリスクを伴うこともあり、その健全な境界線を見極めるのは容易ではありません。
本章ではまず、背景にあるSNS環境の変化と、心理学における「行動依存」としての理論的枠組みを整理します。その上で、論文が示すエビデンスに基づき、過度なファン行動が心身や日常生活に及ぼす影響とその心理構造を紐解いていきます 🌿
デジタルメディアの発達とファンダム文化の変容
論文では、近年のデジタルプラットフォームやSNSの発達により、東アジアをはじめとする若者の間でファン活動(ファンダム文化)への関与がより広く、深く変化したことが指摘されています。
しかし同時に、ネット上のファンコミュニティにおいては以下のような問題が生じ、社会的懸念が高まっています。

このように、オンラインメディアの進化は応援の機会を広げた一方で、集団的・行動的な過熱を招きやすい環境を生み出しているのです。
「行動依存モデル」との共通点
心理学や精神医学の研究において、過度な有名人崇拝(Excessive Celebrity Worship)は、執着(Obsession)・強迫性(Compulsion)・侵入的思考(Intrusion)を伴う行動依存研究の知見を参考に理解されてきました。
従来の研究では、ファン活動における没入が進んでいくプロセスを「吸収-依存モデル(Absorption-Addiction Model)」などで説明しています。最初は純粋な娯楽(吸収)であったものが、生活のストレスや孤立感を埋めるための手段となり、徐々により強い刺激を求める「依存的な心理状態」へと移行していくと考えられているのです。この状態に陥ると、自己効力感や自尊心が低下し、うつ病、不安、解離症状などの精神的健康の悪化や、ストーキング、過剰な購買といった社会的問題を引き起こすことが先行研究で示されています。
健全な関わりと過度な依存傾向のアセスメント視点
それでは、実際の臨床やセルフチェックにおいて、健全な関わり方と過度な状態をどのように区別すればよいのでしょうか。
論文内の文献レビューに基づき、一般的に研究されている「健全な偶像化(Identification-Emulation Idolatryなど)」と「過度な状態」の違いを表にまとめました。
| 評価軸 | 健全なファン行動 🌸 | 過度な有名人崇拝🚨 |
| 自己形成・心理的影響 | アイデンティティ形成の助けとなり、心理的発達に寄与する | 自己効力感・自己肯定感・知的関心の低下を引き起こす |
| 行動コントロール | オンライン利用時間や購買を自ら調整できる | 時間や資源(資金)の制御能力を失い、衝動的になる |
| 刺激に対する耐性 | 軽度な応援や鑑賞で満足感を得られる | 耐性(Tolerance)が生じ、より刺激的・病理的なレベルへ深まる |
| 中断時の反応 | 一時的に離れても日常生活に支障をきたさない | 中断された際に強いイライラや不安(離脱様反応)を呈する |
| 生活機能への影響 | 学業・職業・対人関係と両立できている | 学業・仕事・社会的機能・生活全般に著しい障害が出る |
先行研究が明かす心身・生活への影響(エビデンス)
上記の評価軸からもわかるように、「過度な状態」に陥ると、単に「お金を使いすぎる」といった表面的な問題にとどまらず、心身の健康や社会的適応に多面的な悪影響が及ぶことが数々の先行研究(エビデンス)によって示されています。
1. 心理・精神保健面への影響
- 精神的健康の悪化:抑うつ、不安、神経症的傾向(Neuroticism)、身体症状、負の感情(Negative affect)、解離症状
- 心理的ウェルビーイングの低下:自尊心の低下、アイデンティティ達成の阻害
2. 行動・生活機能面への影響
- 不適応行動:問題あるインターネット・SNS使用、非行・物質乱用(Delinquency and substance abuse)
- 対人・社会的トラブル:ストーキング行動、問題のある過剰な購買(Compulsive buying)、社会的機能不全(Social dysfunction)
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本論文の研究チームは、上記のような現代SNS特有の問題行動を客観的に評価するため、「過度な有名人崇拝行動質問票(ECWBQ)」という新たな尺度を開発しました。
続く第2章では、この研究がどのように行われたのか、その「調査手法(Methods)」について詳しく解説していきます。
2. 中国のファンコミュニティを対象とした実証研究と調査方法
(対応原文:1.2 The current study / 2. Methods)
第1章では、過度な推し活の背景や心身への影響について整理しました。本研究の最大の目的は、行動依存の枠組みを用いて、現代のオンライン・ファンコミュニティに特化した「過度な有名人崇拝行動質問票(ECWBQ)」を新たに開発することです。
本章では、ファンのリアルな姿を捉えるために採用された、質的調査と1,200名以上のデータを用いた厳密な科学的検証(Methods)のプロセスを詳しく解説します 🌿
段階的アプローチ:質的調査から統計的検証へ
本研究の特徴は、既存の心理尺度をそのまま当てはめるのではなく、実際のファンの生々しい言動を観察することからスタートし、段階的に尺度を開発・検証していくプロセスを採用している点にあります。
[Phase 1:定性的研究(質的アプローチ)]
├ 📱 ネットノグラフィー(SNS観察:107名)
└ 🗣️ 深層インタビュー(熱狂的ファン28名)
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✨ 質問項目案(予備質問票)の作成
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[Phase 2:定量的研究(量的アプローチ)]
├ 🔍 サンプル1(n = 465):探索的因子分析(EFA)による構造の発見
└📏 サンプル2(n = 804):確認的因子分析(CFA)による妥当性の証明
現場の生の声を捉える「質的調査」(予備調査)
(対応原文:2.1 Preliminary questionnaire)
研究チームはまず、ポップカルチャーコミュニティで高い人気を誇る3大ソーシャルメディア(Weibo、WeChat、Douban)を対象に、オンライン上の人間関係や行動パターンを分析する「ネットノグラフィー」を実施しました。
具体的には、6つのファングループと107名のファンを長期間にわたって縦断的に観察・追跡し、その中から抽出された28名の熱狂的なファンに対して半構造化インタビューを行っています。
- 「このように没入・執着するようになってから、どれくらいの期間が経ちますか?」
- 「このアイドルのために、何か特別な(極端な)行動をしたことはありますか?」
- 「スーパーファン(熱狂的ファン)になってから、自分自身に何か変化はありましたか?」
- 「その深い愛着や活動が、あなたの現実の生活に支障・影響を与えていますか?」
インタビューからは「推し活費を捻出するために借金をした」「推し活のせいでルームメイトが食事をとらなくなった」といった生々しい発言が得られました。これらの豊富な定性データと、既存のインターネット依存尺度などを統合し、過度な推し活行動を示す初期の質問項目案(80項目)が作成されました。
データの統計的検証とサンプル構成
(対応原文:2.2 Sample and procedures / 2.3 Statistical methods)
初期項目を作成した後、研究チームは実際にSNSを利用している若いファン層から2つの独立したデータを収集し、尺度の精度を高めるための高度な統計解析を行いました。
収集したデータを基に「探索的因子分析(EFA)」を実施。80あった質問項目の中から、因子負荷量が低いものや複数の因子にまたがる曖昧な項目を厳密に排除し、背後に潜む潜在的な因子構造を抽出しました。
ステップ①で抽出された構造が別のデータセットでも成り立つかを確認するため、「確認的因子分析(CFA)」を実施しました。また、再テスト信頼性や他の既存尺度(中国語版CAS尺度など)との基準関連妥当性も検証されました。
このようにして収集・解析されたデータから、一体どのような「因子」が導き出されたのでしょうか。
続く第3章では、分析の結果(Results)として明らかになった「9つの心理・行動的特徴」について解説します。
3. 研究結果①:過度な推し活行動を評価する「9つの因子」とは?
(対応原文:3. Results / 3.1 Exploratory factor analysis / 表2)
第2章で解説した厳密な統計解析(探索的因子分析および確認的因子分析)の結果、最終的に全36項目・9因子構造の質問票(ECWBQ)が完成しました。
本章では、研究結果として抽出されたこの「9つの構成因子」について、論文内で定義されている概念や実際の質問項目(表2)に基づき、当事者の心理状態や行動の実態と関連させながらより詳細に解説していきます 🌿
過度な有名人崇拝行動を評価する「9つの因子」
研究チームは、行動依存研究の枠組みをファンダム行動に当てはめ、ファンの不適応行動を以下の9つの多面的な特徴として抽出しました。
① 社会的機能の障害(Impaired social functioning)
過剰な崇拝行動が、学業、仕事、社会関係などの日常的な社会的機能に支障をきたし、周囲との葛藤を引き起こしている状態です。 具体的には、推しに夢中になるあまり他のことを後回しにして予定を遅らせたり、他の趣味や家族との交流の時間が減ってしまう行動が挙げられます。また、誰かと食事や会話をしているような不適切な場面であっても、推しを追うために頻繁にスマホを見てしまうといった、日常的な社会的適応の低下が評価のポイントとなります。
② 現実の社会的関係から仮想の社会的関係への置換(Replacement of real to virtual social relationships)
現実世界での対人関係よりも、オンラインのファンコミュニティ内で親密な関係を築くことを優先し、オフラインの社会的交流を置き換えてしまう現象です。 当事者は、現実の仲間よりもネット上のファン仲間といる方が「ありのままの自分を受け入れてくれる」「尊重され、認知されている」と感じます。現実の複雑な人間関係を避け、ネット上の独立した空間でコミュニケーションをとる方が安全であり、高い満足感やリラックスを得られると感じる傾向が強まります。
③ 睡眠と摂食の問題(Sleep and eating problems)
有名人の崇拝に過度に執着することが、睡眠や食事といった人間の基本的な生活活動に深刻な影響を与えている状態です。 推しを追う時間を確保するために習慣的に睡眠時間を削ったり、動画視聴などで夜更かしをした結果、日中にエネルギーが枯渇してしまう状態が含まれます。また、推し活に没頭するあまり食事を抜いてしまうなど、身体的健康を損なうリスクに直結する行動です。
④ 離脱様反応(Withdrawal)
仕事や勉強の事情でスマホにアクセスできない、アイドルの活動が追えなくなるなど、ファンシップ体験が何らかの障害に直面した際に生じる否定的な心理的・行動的反応です。 推しの情報にアクセスできないと、落ち着きがなくなり強い不安を感じたり、気分が沈んで憂鬱になったりします。単なる退屈ではなく、「何か大切なものを見失ったような気がする」といった強烈な焦燥感や不快感を伴うのが特徴です。
⑤ 気分変容(Mood alteration)
ファン活動を通じて、肯定的な感情体験や気分の変化を得ることを指します。 推しを追うことで孤独感が和らいだり、心が穏やかになったりします。ネットでの推し活に没頭しているときが最も心地よくリラックスでき、悩みを忘れて気楽でいられるなど、推し活が感情をポジティブに調整するための強力な手段となっている状態を示します。
⑥ 顕著性(Salience)
有名人やファンコミュニティの存在がファンの思考や行動の大部分を占め、明らかな執着と注意の偏り(注意偏向)が生じて制御を失っている状態です。 いったんネットで推し活を始めると他のことは何も考えられなくなり、ほぼそれに自分自身のすべてを捧げているような状態になります。推しの最新情報を得るためにネットに繋ぐと、他のことをほとんどすべて忘れてしまうほどの強い没入を指します。
⑦ 過剰な購買・消費行動(Excessive buying)
アイドルを支持していることを示し、コミュニティ内での認知を得るために、自身の妥当な経済力をはるかに超える支出をしてしまう行動です。 推し活への出費が予想を大きく上回るだけでなく、お金を使いすぎていると周囲から注意や批判を受けたり、ファンコミュニティでの消費問題について家族と言い争いになったりするなど、現実的な金銭トラブルを伴う状態を指します。
⑧ 渇望感の増大(Increased craving)
ファンシップ体験に対する内なる欲求がますます強くなり、拡大していく心理的ニーズを満たすために、崇拝行動への関与がさらに深まっていく現象です。 以前と同じ程度の応援では満足感が得られなくなり、より多くの時間を推し活に費やさなければならなくなります。その結果、毎週推しを追うためのネット利用時間が以前よりも明確に増加していく状態(耐性の形成)を示します。
⑨ 現実逃避(Escape from real life)
現実生活での否定的な経験やストレスを避けるための逃避的アプローチとして、ファン活動に完全に没頭している状態です。 推し活をしている間は人生の困難について考えずに済むため、嫌な出来事や「やりたくないけれどやらなければならないこと」から目を背ける手段として、ネット上の推し活を利用する防衛的な行動を指します。
データと理論が裏付ける「多次元的」な依存構造
本研究における探索的因子分析(EFA)の過程では、尺度の妥当性を示す非常に重要な学術的発見がありました。
解析の当初、「① 社会的機能の障害」「③ 睡眠と摂食の問題」「⑦ 過剰な購買」の3つの項目は、統計的に互いに強い相関を持っていました。しかし研究チームは、これらを単一の「生活の乱れ」としてひとまとめにはしませんでした。なぜなら、「対人関係・仕事」「睡眠・食事」「消費活動」は、それぞれ異なる次元の日常活動であり、理論的に区別して評価されるべきだからです。
結果として抽出されたこの「9因子構造」は、データ(統計的根拠)に適合しているだけでなく、行動依存(インターネット依存など)に共通する「離脱」「耐性(渇望感の増大)」「顕著性」といった中核症状を理論的にも網羅しています。これにより、推し活の過熱を多次元的かつ科学的に測定できる確かな基盤が確立されました。
これら9つの因子を用いて実際のファンデータを解析した結果、現代のファン層にはどのようなスコア傾向が見られたのでしょうか。
続く第4章では、データが明かす「ファンのリアルな実態」について解説します。
4. 研究結果②:現代ファンのリアルな実態とスコア傾向
(対応原文:3. Results / 3.6 Discriminant validity / 3.7 Demographic based scoring / 表4 / 表10)
第3章では、過度な推し活行動を構成する『9つの因子』について解説しました。では、集められたデータ(全36項目・9因子)の分析から、現代のファン層にはどのような心理や行動の特徴が見られたのでしょうか。
本章では、統計解析から明らかになった「ファンのリアルの実態」と、臨床的にも非常に興味深いデータ上の意外な発見について詳しく解説していきます 🌿
9つの因子の得点傾向:何が最も強くあらわれるのか?
分析結果(因子得点の平均値等の比較)において、9つの構成因子の間には明確な得点差が見られました。ファンの行動依存的側面において、「どの症状が強くあらわれやすく、どれが相対的にあらわれにくいのか」を示したデータは以下の通りです。
| スコア傾向 | 該当する構成因子 | 臨床的解釈とデータ上の意味 |
| 最もスコアが高い🥇 | ⑤ 気分変容(Mood alteration) | 推しの言動や評価によって情緒が激しく左右される傾向が、最も頻繁・強固にあらわれる |
| 中間層のスコア🥈 | ⑥ 顕著性(Salience) ⑨ 現実逃避(Escape from real life) ⑧ 渇望感の増大(Increased craving) など | 推しのことで頭がいっぱいになる認知の占有や、ストレス回避手段としての没入が続く |
| 最もスコアが低い🥉 | ⑦ 過剰購買(Excessive buying) | 身の丈に合わない過度な課金・購買行動は、全体の平均値としては最も低いスコアを示した |
データから見えた傾向と客観的解釈
この統計データは、世間のイメージや従来の認識と照らし合わせた際に、支援者にとっても重要な気づきを与えてくれます。
1. 高スコアを示した「気分の変容(Mood alteration)」
ニュースやメディアでは「推し活での借金」や「高額な投げ銭(スパチャ)」といった過剰購買(Excessive buying)が目立ちやすいため、金銭的トラブルが依存の主因と思われがちです。
しかし、実際のデータで最も高いスコアを示したのは「気分変容(Mood alteration)」でした。 ファンが最も苦しんでいるのは、「推しのスキャンダルやSNSでの評価、ファン同士の衝突によって感情が天国から地獄へと乱高下すること」であり、金銭的な支出よりも、感情が大きく左右される情緒不安定さの負担が先行して生じている実態が浮き彫りとなりました。
2. 金銭的破綻は「一部の表出」であり、心理的依存が基盤にある
過剰購買のスコアが相対的に低かったことは、「ファン全員がお金を使いすぎているわけではない」ことを示しています。
お金を使う行動は依存が深刻化した段階や特定のタイプで顕著になるものの、その手前にある「心理的な逃避」や「生活の中心化(頭から離れない)」、「離脱時のイライラ」といった内面的な心理症状こそが、幅広いファン層に潜む本質的な課題であると言えます。
年齢・性別による傾向の違い
本研究では、回答者の性別や年齢層によっても特定の因子に差が見られることが報告されています(表10参照)。
- 年齢による違い(年長ファンの傾向):本研究のデータでは、23歳以上のファンの方が、23歳未満のファンよりも過剰行動の総合的なレベルが高い傾向が示されました。高齢のファンは経済的に自立しておりリソースを動員しやすいことや、現実社会での精神的ストレスが大きいため、推し活による気分の変化や仮想関係への没入が深まりやすい可能性が示唆されています。
- 性別による表現型の差異:合計スコアに有意な男女差はありませんでしたが、男性ファンは「現実から仮想の人間関係への置き換え」や「過剰な購買」のスコアが高く出やすい一方、女性ファンは「気分の変化」のスコアが有意に高くなるなど、性別によるパターンの違いが確認されました。
これらの結果を踏まえ、臨床現場において私たち支援者はどうアプローチすべきでしょうか。
続く最終章(第5章)では、論文の考察(Discussion)をもとに客観的評価の活用についてお伝えします。
5. 研究データから導く臨床的・社会的示唆:客観的評価をどう活かすか?
(対応原文:4. Discussion )
第4章では、データ分析から見えた過度な推し活の本質について解説しました。金銭問題以上に「感情の揺れ(気分変容)」や「現実逃避」が心を深く揺さぶっている実態が明らかになりましたね。
最終章となる本章では、本論文の考察(Discussion)に基づき、この研究と新たに開発された尺度(ECWBQ)が、現場の支援者や当事者・ご家族にどのような実践的価値(Practical implications)をもたらすのかを詳しく解説していきます 🌿
1. 行動依存モデルに基づく心理・行動メカニズムの理解
論文の考察では、今回特定された「9つの因子」を探求したことにより、過度な有名人崇拝行動の根底にある心理・行動的メカニズムが「問題のあるインターネット利用(Problematic Internet Use)」と高度に類似している可能性が推測されました。
これまで曖昧だった「推し活の過熱」という現象を、行動依存の多次元的な症状として捉え直すことで、当事者が抱える生きづらさや不適応行動の構造をより科学的に理解できるようになります。
2.「連続体(Continuum)」としての評価とセルフモニタリング
こうしたメカニズムを踏まえ、本尺度の運用において論文内で非常に重要な考え方として示されているのが「連続体(Continuum)」という視点です。
3. 社会・学校・保護者・プラットフォームにおける客観的アセスメントの活用
評価の前提(連続体)を踏まえた上で、研究チームは今回開発された質問票(ECWBQ)が、単なる学術研究にとどまらず、社会のさまざまな場面で具体的に活用できるアセスメントツールであると強調しています。

このように、ファンを個人的に責めるのではなく、関係機関や保護者が「客観的な指標に基づいて不適応行動を正しく把握し、適切なサポートへつなげること」が論文内で提案されています。
「推し活」は生活を彩る豊かな体験ですが、コントロールを失い心身の不調を招く事例も少なくありません。本研究が示したアセスメント枠組みは、当事者を単に病理化し批判するためのものではなく、医療者・支援者がご本人やご家族と客観的な状態像を共有し、健全な境界線を再構築するためのアセスメントを補助するツールです。
当事者やご家族にとっても、ご自身を責めることなく現状を正しく把握し、適切なケアへ繋がるための道しるべとなります。当事者の方が自分らしく健やかな生活を取り戻せるよう、本評価軸を診療やカウンセリングの現場でぜひお役立てください。⭐
