「やめよう」と思っているのに、なぜか繰り返してしまうギャンブル。
そのたびに自己嫌悪や不安が強くなり、「自分は意志が弱いだけなのでは」と責めてしまう方も多いのではないでしょうか。
また、ご家族として「どう関わればいいのか分からない」「何度も裏切られて苦しい」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。
ギャンブル依存症は、本人の性格や努力不足ではなく、脳や心理の仕組みと深く関係する“治療と支援が必要な病気”です。
正しく理解し、適切なサポートにつながることで、回復を目指すことができます。
この記事では、ギャンブル依存症の症状や原因、治療法、支援の選択肢について、専門的な内容をできるだけやさしくお伝えしていきます。
ギャンブル依存症とは?【病気としての正しい理解】
「やめようと思えばやめられるはずなのに、どうしても同じことを繰り返してしまう」「結局は自分の意志が弱いだけなのではないか」──ギャンブル依存症について調べている方の多くが、こうした強い自責の気持ちを抱えています。
しかし現在の精神医学では、ギャンブル依存症は単なる性格の問題や努力不足として片づけられるものではなく、医療や心理的支援の対象となる精神疾患として位置づけられています。
この章では、精神科医の立場から、ギャンブル依存症を「病気」としてどのように理解すべきかを、できるだけ丁寧に解説していきます。
ギャンブル依存症の定義(依存症・嗜癖行動)
ギャンブル依存症は、医学的にはギャンブル行動に対するコントロールが持続的に損なわれ、その結果として生活や人間関係、仕事、経済状況などに明確な支障や苦痛が生じている状態と定義されます。
ここで重要なのは、ギャンブル依存症が「趣味の延長」や「一時的な浪費癖」とは明確に区別されている点です。
嗜癖行動とは、本人が望んでいないにもかかわらず、特定の行動を繰り返してしまい、その行動が人生の中で過度に優先されてしまう状態を指します。
具体的には、
- やめたい、減らしたいと思っても実行できない
- ギャンブルをしていないと落ち着かない、強い焦燥感が出る
- 借金や家庭・仕事への悪影響があっても続けてしまう
といった「コントロールの障害」が中心的な特徴としてみられます。
現在の精神医学では、こうした状態が一定期間以上続き、社会的・職業的・家庭的な機能に支障をもたらしているか?が、診断を考えるうえで重要なポイントとされています。
意志の弱さではなく「脳の病気」とされる理由
「病気だとしたら、なぜ自分で止められないのか」と疑問に感じる方も多いと思います。
この点を理解するうえで重要なのが、ギャンブル依存症では意思決定や行動制御に関わる脳の仕組みが影響を受けている可能性があるという視点です。
研究では、ギャンブル障害を含む依存症において、脳内の報酬処理に関わる神経回路(いわゆる報酬系・ドーパミン系)や、衝動抑制・判断を担う前頭前野を含む回路の機能的な偏りや関連が報告されています。
これらの回路は、本来「どの行動を優先すべきか」「今はやめたほうがいいか」といった判断を支える重要な役割を担っています。
ギャンブルは、
- 結果が予測しにくい
- 勝ったときの刺激が非常に強い
- 短時間で大きな報酬を得られる可能性がある
といった特徴を持ち、こうした性質が報酬処理や意思決定に関わる脳の働きを強く動かしやすいことが指摘されていて、その結果として、ギャンブル行動が他の活動よりも優先されやすくなる、つまり「やめたほうがいいと分かっていても選択してしまう」状態が生じやすくなります。
重要なのは、これは「本人が考えていない」「反省していない」という意味ではないという点です。
多くの方が強い後悔や反省を繰り返しながらも、行動のコントロールが難しい状態に陥ります。
現在の医学では、ギャンブル依存症は意志の力だけで解決することが難しい場合があり、医療的・心理的な支援を通じて回復を目指すべき状態と考えられています。
- ギャンブル依存症は、DSM-5-TRおよびICD-11で定義された精神疾患です
- 単なる趣味や浪費ではなく、依存症・嗜癖行動の一種として扱われます
- 中心的な特徴は「コントロールの障害」と「生活への支障や苦痛」です
- 脳の報酬処理や意思決定に関わる仕組みの影響が示唆されており、意志の弱さだけで説明できるものではありません
- 回復には、本人の努力に加えて、医療や支援につながることが重要です
ここまでで、ギャンブル依存症が「本人の性格や意志の問題として責めるべきものではない」ということをお伝えしてきました。
ただ、実際には「自分や家族の状態がどこまで当てはまるのか」「どんなサインが出たら注意すべきなのか」と悩まれている方も多いはずです。
次の章では、ギャンブル依存症に見られやすい具体的な症状や行動の特徴について、本人・周囲の人それぞれの視点から整理していきます。
ギャンブル依存症の主な症状とサイン
ギャンブル依存症は、「賭け事が好き」「自分に甘い」といった性格の問題だけでは説明できない精神疾患です。
この章では、精神科医の立場から、ギャンブル依存症に特徴的な症状や行動のサインを整理していきます。
やめようとしてもやめられない心理状態
ギャンブル依存症の中心的な症状の一つが、「やめたいと思っても、行動をコントロールできない」という状態です。
多くの方は、「これで最後にしよう」「もう二度とやらない」と何度も決意します。
しかし、その決意とは裏腹に、再びギャンブルに向かってしまうことがあります。
国際診断基準であるDSM-5-TRおよびICD-11では、ギャンブル依存症(ギャンブル障害)は、行動のコントロールが困難になることを中核的な特徴の一つとして位置づけています。
具体的には、賭ける頻度や金額を自分で制御できなくなったり、やめようと試みても失敗を繰り返したりする状態です。
この背景には、ギャンブルに関連する強い「とらわれ」があります。
賭けのことが頭から離れず、結果や次の機会について考え続けてしまう状態です。
また、負けたお金を取り戻そうとしてさらに賭けてしまう「追いかけ行動」も、診断基準に含まれる重要な特徴です。
研究の分野では、こうした行動の背景として、報酬に関わる脳の働きや衝動性の調整機能が関与している可能性が示唆されています。
嘘・隠し事・金銭トラブルが増える理由
ギャンブル依存症が進行すると、本人がギャンブルへの関与の程度を隠すようになることがあります。
DSM-5-TRでは、「賭博への関与を隠すために嘘をつくこと」が、診断基準の一つとして明記されています。
最初は小さな隠し事でも、次第に説明できない出費や借金といった金銭トラブルが生じることがあり、生活費が足りなくなる、貯金を取り崩す、周囲に金銭的な援助を求めるといった状況が重なるケースも少なくありません。
こうした嘘や隠し事の背景には、「責められるのではないか」「信用を失ってしまうのではないか」という不安や恐れが関係していることがあります。
本人自身も「なぜこんな行動をしてしまうのか」と強い自己嫌悪を抱えている場合が多く、意図的に誰かをだまそうとしているわけではありません。
また、負けを取り戻そうとする追いかけ行動によって賭け金が増えやすくなり、その結果として金銭問題が拡大していくこともあります。
これらは人格の問題というより、病気の経過の中で生じやすい行動パターンとして理解することが重要です。
日常生活(仕事・家庭・人間関係)への影響
ギャンブル依存症は、ギャンブル行動そのものだけでなく、仕事、家庭、人間関係といった生活の重要な領域に影響を及ぼします。
DSM-5-TRおよびICD-11では、こうした生活機能への悪影響が診断上の重要なポイントとされています。
仕事の面では、集中力が続かなくなったり、遅刻や欠勤が増えたりすることがあります。
賭けの結果や次の機会が気になり、仕事に身が入らなくなり、その結果、評価の低下や職場での信頼関係の悪化につながることもあります。
また家庭生活では、金銭的不安が大きな負担となり、家族との話し合いを避けるようになることで、関係性に緊張が生じることもあります。
必ずしもすべての家庭で関係が破綻するわけではありませんが、安心して生活する基盤が揺らぐことは大きなストレスになるため、早めの改善・治療が望ましいでしょう。
- ギャンブル依存症では、やめたいと思っても行動をコントロールできない状態が続く
- 嘘や隠し事、金銭トラブルは、診断基準にも含まれる症状の一部
- 仕事・家庭・人間関係など、生活機能への影響は重要な判断材料になります
- これらは性格の問題ではなく、医学的に説明される状態です
ギャンブル依存症の原因【なぜハマってしまうのか】
ギャンブル依存症について考えるとき、多くの方がまず「どうして自分はこんなにハマってしまったのだろう」「意志が弱いからではないか」と自分を責めてしまいがちです。
しかし、精神科の臨床現場で見えてくるのは、ギャンブル依存症が単なる性格や根性の問題ではなく、脳の働き・心理的なストレス・環境要因が重なって生じる状態だという事実です。
この章では、「なぜハマってしまうのか」という疑問に対して、脳と心理の両面から、できるだけ分かりやすく整理していきます。
脳内報酬系とドーパミンの関係
ギャンブル依存症を理解するうえで欠かせないのが、脳内報酬系の存在です。
報酬系とは、人が「うれしい」「達成感がある」「またやりたい」と感じるときに働く脳の仕組みで、その中心的な役割を担う神経伝達物質がドーパミンです。
ギャンブルで勝った瞬間、人は強い高揚感や快感を覚えますが、このとき脳内ではドーパミンが放出され、「この行動は価値がある」「繰り返すべきだ」という学習が起こります。
これは本来、食事や社会的成功など、生きるために必要な行動を強化するための正常な仕組みです。
しかしギャンブルには、もう一つ大きな特徴があります。それは、勝つかどうかが分からない“不確実な報酬”であることです。
研究では、報酬が確実に得られる場合よりも、「得られるかもしれない」という予測や期待がある状況のほうが、ドーパミン系が強く関与しやすいことが示されています。
その結果、脳は「勝ったときの快感」だけでなく、「次は当たるかもしれない」という期待そのものにも反応するようになります。
DSM-5-TRでは、ギャンブル障害は物質使用障害と同じ“嗜癖(addictive)領域”に分類されていて、これは、アルコールや薬物と同様に、報酬系が繰り返し強く刺激されることで、行動のコントロールが難しくなる点が共通しているためです。
そして繰り返すうちに、以前と同じ賭け方では満足できなくなり、賭け金や頻度が増えていくことがあります。
これは診断基準でも示されている特徴で、「耐性に近い状態」と表現されることもあります。
この段階になると、頭では「やめた方がいい」と理解していても、衝動を抑える認知制御の働きが弱まり、結果としてギャンブル行動が優先されやすくなります。
これは意志の問題というより、脳のバランスが一時的に崩れている状態と考えるほうが現実に近いのです。
ストレス・不安・孤独との関係
またギャンブル依存症の背景には、心理的ストレスが深く関わっていることが少なくありません。
実際、診断基準でも「不安や抑うつ、つらい気分のときにギャンブルをする」といった行動が特徴の一つとして挙げられています。
仕事のプレッシャー、人間関係の悩み、将来への不安、強い孤独感。
こうした状態が続くと、人はその苦しさから一時的にでも離れられる手段を求めます。
ギャンブルは結果が出るまでの間、現実の問題から意識をそらす作用があり、感情を一時的に麻痺させる“逃げ場”として機能してしまうのです。
この段階では、ギャンブルはもはや娯楽ではなく、ストレスへの対処行動に変わっています。
不安な夜にオンラインで賭ける、落ち込んだ気分を紛らわすためにパチンコ店に向かう、といった行動が繰り返されると、「ストレスを感じる=ギャンブルをする」という結びつきが脳内で強化されていきます。
さらに、負けが続くことで自己嫌悪や焦りが強まり、その苦しい感情を打ち消すために再び賭けてしまう、という悪循環に陥ることもあるのです。
- ギャンブル依存症は、脳内報酬系とドーパミンの働きが深く関与する状態です
- 不確実な報酬や期待が、ギャンブル行動を繰り返す学習を強めます
- ストレス・不安・孤独は、ギャンブルを感情調整の手段に変えてしまう要因になります
- これらは意志の弱さではなく、心理と脳、環境が影響し合った結果です
セルフチェック診断|もしかしてギャンブル依存症?
「もしかして、自分はギャンブル依存症なのではないか」
そう感じてこの章を読んでいる方の多くは、すでに強い不安や迷いを抱えているのではないでしょうか。
まずお伝えしたいのは、その違和感に気づいていること自体が、とても大切な第一歩だということです。
この章で紹介するセルフチェックは、「診断」を目的としたものではありません。
あくまで、今のご自身の状態を整理し、必要であれば相談につながるための“気づきの材料”として使っていただくものです。
結果に一喜一憂せず、落ち着いて読み進めてください。
簡単なチェックリスト
以下のチェック項目は、DSM-5-TRおよびICD-11におけるギャンブル障害の中核的な考え方
(コントロールの困難さ、行動の持続性、生活への悪影響など)を参考に、一般の方にも分かりやすい形に整理したものです。
直近1年ほどを振り返りながら、YES/NOで答えてみてください。
- ギャンブルを始めると、予定していた時間や金額を超えてしまうことがありますか
- 負けたあとに「次は取り戻せる」という考えが強くなり、さらにギャンブルをしてしまうことがありますか
- ギャンブルを減らそう、やめようと何度か試みたものの、うまくいかなかった経験がありますか
- ギャンブルの頻度や使った金額について、家族や周囲に隠したり、事実と違う説明をしたことがありますか
- ストレス、不安、落ち込み、孤独感を感じたときに、それを紛らわせるためにギャンブルをすることがありますか
- ギャンブルが原因で、仕事・学業・家庭・人間関係に支障が出たことがありますか
- ギャンブルに関連して、借金や金銭トラブルが生じたことがありますか
- ギャンブルをしていないときでも、結果のことや次に賭けることを繰り返し考えてしまいますか
いくつか当てはまったからといって、すぐに「依存症」と決まるわけではありません。
ただし、当てはまる項目が増えるほど、ギャンブル行動が問題化している可能性があります。
特に、「やめたいと思っているのにやめられない」「生活や人間関係に影響が出ている」と感じている場合は、注意深く状況を見つめ直す必要があります。
チェック結果の受け止め方
セルフチェックの結果を見て、不安が強くなったり、自分を責める気持ちが湧いてきた方もいるかもしれません。
しかし、そのような自己否定は、回復にとって必ずしも助けになるとは限りません。
グレーゾーンという考え方
ギャンブル依存症は、「問題なし」か「依存症」かの二択で分けられるものではありません。
実際の臨床では、症状の重さや生活への影響の程度には幅があり、DSM-5-TRでは重症度の段階が、ICD-11では行動の持続性や悪影響の有無が重視されています。
いわゆる「グレーゾーン」とは、診断基準をすべて満たすわけではないものの、すでにコントロールの難しさや生活への影響が出始めている状態を指します。
この段階で立ち止まり、支援につながることができれば、借金や人間関係の深刻な悪化といったリスクを下げられる可能性があります。
重要なのは、「診断がつくかどうか」よりも、今のギャンブル行動がご自身の人生にどのような影響を与えているかという視点です。
早期相談の重要性
「まだ病院に行くほどではない」
「もう少し自分で何とかしてから考えたい」
そう感じるのは自然なことです。
ただ、ギャンブル問題が深刻になるにつれて、恥や不安、罪悪感から相談そのものが難しくなってしまう人が多いことも、臨床現場ではよく知られています。
早期相談の目的は、必ずしもすぐに診断を受けたり、治療を始めたりすることではありません。
今の状態を専門家と一緒に整理し、ギャンブル以外の対処法や、再発を防ぐための環境づくりを考えることが主な目的です。
精神科・心療内科、依存症専門の相談窓口、カウンセリングなどでは、「今すぐ医療的介入が必要かどうか」も含めて、丁寧に評価が行われます。
地域や窓口によっては、匿名で相談できる場合もあり、相談を通じて状況が整理しやすくなることもあります。
- セルフチェックは診断ではなく、気づきのための手段です
- 当てはまる項目が多いほど、ギャンブル行動が問題化している可能性があります
- ギャンブル依存症は連続的な状態で、グレーゾーンが存在します
- 診断の有無よりも、生活への影響に目を向けることが重要です
- 早めの相談は、将来のリスクを下げる選択肢の一つです
ギャンブル依存症の治療方法と支援
この章では、精神科医の立場から、DSM-5-TRおよびICD-11に準拠した現在の治療の考え方と、病院・カウンセリング・再発予防までを、できるだけ安心して読んでいただけるように整理してお伝えします。
完治ではなく「回復」を目指す考え方
ギャンブル依存症の治療を考える際に、まず共有しておきたいのが、「完治」ではなく「回復」を目指すという考え方です。
依存症は再発を含みうる経過をたどることが多いため、臨床の現場では長期的な視点での回復支援が重視されています。
ここでいう回復とは、「ギャンブルの衝動が二度と起こらない状態」を指すものではありません。
衝動が生じること自体はあり得ますが、その衝動に飲み込まれず、行動に移さずに対処できる状態を目指していきます。
このような状態は、治療や支援を通じて少しずつ身についていくものであり、最初から完璧にできる必要はありません。
精神科・心療内科での治療内容
ギャンブル依存症の治療は、主に精神科(依存症外来など)を中心に行われます。
診察では、ギャンブルの頻度や金額だけでなく、借金や金銭管理の状況、仕事や家庭生活への影響、抑うつや不安、睡眠の問題など、生活全体を丁寧に確認します。
治療の中心は心理社会的なアプローチです。
現時点では、ギャンブル依存症そのものに対する承認された特効薬は確立しておらず、薬物療法は補助的な位置づけになります。
たとえば、強い不安や抑うつ、衝動性が目立つ場合には、それらの症状を和らげる治療が回復を支えることがあります。
医療機関では、「とにかくやめさせる」ことだけを目的にするのではなく、生活の立て直しや再発予防を含めた中長期的な支援が行われます。
必要に応じて、家族への説明や社会資源の活用も含めながら、現実的な回復プランを一緒に考えていきます。
カウンセリング・心理療法の役割
ギャンブル依存症の治療において、カウンセリングや心理療法は非常に重要な役割を担います。
特に、認知行動療法を基盤とした支援では、「どのような状況で衝動が強くなるのか」「そのとき、どんな考えが浮かびやすいのか」を丁寧に整理していきます。
たとえば、「今回こそは勝てる」「少しだけなら大丈夫」といった考えが浮かび、そのまま行動につながってしまうことがあります。
カウンセリングでは、こうした思考の癖に気づき、別の対応を選べるよう練習を重ねていきます。
また、ギャンブルの背景にあるストレス、不安、孤独感、自己否定感などを扱うことも重要です。
ギャンブルが一時的な逃げ場になっていた場合、その役割を理解せずにやめようとすると、かえって苦しさが強まることがあります。
さらに、自助グループなどのピアサポートも、回復を支える一つの選択肢です。
同じ問題を経験している人の話を聞くことで、孤立感が和らぎ、「自分だけではない」と感じられる方も多くいます。
医療やカウンセリングと併用することで、支えが重なり、回復が安定しやすくなる場合もあります。
再発リスクと向き合い方
ギャンブル依存症では、回復が進んだあとでも再発リスクが完全になくなるわけではありません。
これは珍しいことではなく、依存症の特性によるものです。
重要なのは、「再発しないこと」を目標にするのではなく、「再発の兆しに早く気づき、立て直せること」です。
治療やカウンセリングでは、あらかじめ再発しやすい状況を整理します。
人によって異なりますが、強いストレスや孤独感、飲酒、特定の場所や時間帯などが引き金になることがあるため、そうした兆しに直面したときに、「誰に相談するか」「どの行動に切り替えるか」を事前に決めておくことが、再発予防に役立ちます。
また、「一度ギャンブルをしてしまったから、もう意味がない」と感じてしまうと、支援から離れやすくなり、立て直しが遅れることがあります。
回復は直線的なものではなく、揺れ戻しを含む過程です。
医療機関やカウンセリング、自助グループとつながり続けることが、長期的な安定を支える大切な要素になります。
- ギャンブル依存症の治療では「完治」よりも「回復」という視点が重視されます
- 精神科を中心に、心理社会的治療が治療の柱となります
- 薬物療法は補助的で、併存する不安や抑うつへの対応として用いられます
- カウンセリングでは衝動や思考の癖、背景にある心理的要因を扱います
- 再発は起こり得るものとして、早期対応と支援の継続が重要です
ここまで、ギャンブル依存症の治療と支援についてお伝えしてきました。
しかし、回復の過程で大きな影響を受けるのが、家族や身近な人の関わり方です。
善意の対応が、結果として本人を追い詰めてしまうこともあります。
最終章では、家族ができる支援と、避けたほうがよい対応について、具体的に整理していきます。
最終章:家族ができる対応・やってはいけないこと
ギャンブル依存症は、本人だけの問題ではなく、家族や身近な人の生活や心にも大きな影響を及ぼす精神疾患です。
「何とか止めさせたい」「このままでは生活が壊れてしまう」という切実な思いから、家族は必死に関わろうとします。
しかし、その関わり方によっては、良かれと思った対応が回復につながりにくくなることもあります。
この章では、DSM-5-TR・ICD-11に基づく最新の考え方と臨床知見を踏まえながら、家族ができる現実的な対応と避けたい関わり方を、できるだけ分かりやすくお伝えします。
責める・説得することが逆効果になる理由
「どうしてやめられないの?」「もう十分苦しんだでしょう」
こうした言葉は、家族として自然な感情から生まれるものです。
しかし、ギャンブル依存症の回復という視点では、責めることや正論で説得することが、必ずしも良い結果につながらないことが分かっています。
ギャンブル依存症(ギャンブル障害)は、悪影響が生じていても行動を繰り返してしまう「依存行動による障害」として整理されています。
つまり、「分かっていてもやめられない」という状態そのものが、病気の特徴なのです。
責められたり、強く説得されたりすると、本人は
- 恥や罪悪感
- 自己否定感
- 「誰にも理解されない」という孤立感
を強めやすくなります。
こうした感情は、問題を隠したり、相談を避けたりする方向に働きやすく、結果として回復につながる行動を取りにくくすることがあります。
現在の依存症支援では、本人を追い詰める関わりよりも、非難せず、病気として向き合える関係性を保つことが重要だとされています。
家族の役割は、本人を「説得する人」になることではなく、支援につながるための土台を守る人であると考えてみてください。
家族自身のサポートの重要性
ギャンブル依存症の家族は、慢性的な不安や緊張、怒り、無力感にさらされやすい状態にあります。
こうした状態が続くことで、家族自身が抑うつや不安、睡眠障害、身体症状を抱えることも珍しくありません。
ICD-11に基づく近年の依存症支援の考え方や各国の治療ガイドラインでは、本人だけでなく、家族や身近な人(影響を受ける周囲の人)への支援の重要性が強調されています。
家族が疲れ切ってしまうと、結果として本人を支える余力も失われてしまいます。
家族に必要なのは、「もっと頑張ること」ではなく、支えられる場所を持つことです。
- 家族向けの相談窓口
- 依存症に理解のある専門家
- 同じ立場の人が集まる家族会
こうした支援を利用することは、決して弱さではありません。
家族が安心して気持ちを整理できる環境を持つことは、本人が治療や支援につながる可能性を高めることにもつながります。
- ギャンブル依存症は精神疾患であり、責めたり説得したりする対応は回復につながりにくい
- 恥や自己否定を強める関わりは、相談や支援から遠ざかる要因になり得る
- 家族自身が支援を受け、心身を守ることが、結果的に本人の回復環境を整える
終わりに
ギャンブル依存症は、「もう治らない」「一生このまま」と感じてしまいやすい病気です。
けれど実際には、多くの方が適切な治療や支援を受けながら回復の道を歩んでいます。
大切なのは、ひとりで抱え込まず、「助けを借りてもいい」と認めることです。
この記事でお伝えしてきたポイントを、あらためて整理してみましょう。
- ギャンブル依存症は、意志の弱さではなく脳の報酬系や心理的要因が関係する病気です
- 「やめたいのにやめられない」「嘘や借金が増える」といった症状は、依存症の典型的なサインです
- 治療は「完治」ではなく、再発と向き合いながら回復を続けていく考え方が大切です
- 精神科・心療内科、カウンセリング、自助グループなど、回復を支える選択肢は複数あります
- 家族や周囲の人も、無理をせず支援を受けながら関わることが重要です
もし今、「このままではつらい」「誰かに相談したい」と感じているなら、それはとても自然な気持ちです。
小さな一歩で構いません。相談窓口に連絡する、医療機関の情報を調べる――その行動自体が、回復への大切なスタートになります。
あなた(そしてあなたの大切な人)が、少しでも安心できる方向へ進めることを、心から願っています。
【参考文献】
・WHOはギャンブル障害をICD-11の診断要件(コントロール障害等)を伴う障害として整理している。世界保健機関+1
・APAはギャンブル障害を行動嗜癖として位置づけ、生活上の複数領域の問題が生じても継続するパターンとして説明。アメリカ精神医学会
・神経生物学レビューで、報酬処理や前頭前野などの変化/関連が議論されている。PMC+1
・APAはギャンブル障害を治療対象として位置づけ、他の依存症と類似する点を背景に理解と治療につなげる必要を述べている。精神医学会+1
・DSM基準に「負けを取り戻そうとする(chasing losses)」「賭博へのとらわれ(preoccupation)」が含まれる CT.gov+1
・DSM基準に「仕事・学業・関係性の喪失/危機(jeopardized/lost)」 hca.wa.gov+1
・リスク要因を体系的に整理したレビューで、心理・環境・併存症など多要因性が示される。 PMC
・ドーパミンが報酬予測誤差(reward prediction error)に関与し、報酬学習に重要。 PMC+1
・不確実・断続的報酬がドーパミン伝達や嗜癖化に関与しうる(総説)。 サイエンスダイレクト+1
・依存症を慢性・再発性の障害として説明するNIDA(“chronic, relapsing”)。NIDA+1
・NICEが心理介入(CBT等)や動機づけ面接を推奨し、行動・状況への介入と整合。NICE+1
・ピアサポートは専門治療との併用が望ましい可能性を示すレビュー。PMC
・NICEは家族・affected othersへの介入・支援章(1.7)を設け、支援提供を推奨。 NICE+1
