「もしかして飲みすぎかもしれない」「やめようと思っても、ついお酒に手が伸びてしまう」

そんな不安を抱えながら、このページにたどり着いた方も多いのではないでしょうか。

アルコール依存症は、意志が弱いから起こるものではなく、脳の働きやストレス環境が深く関わる“治療できる病気”です。

しかし、正しい情報に触れる機会が少なく、ひとりで悩みを抱え込んでしまう方が少なくありません。

この記事では、精神科の視点から、

  • アルコール依存症の特徴
  • 原因
  • セルフチェック診断や治療の考え方
  • 家族の関わり方

などを、できるだけわかりやすく丁寧に解説していきます。

アルコール依存症とは?医学的な定義

アルコール依存症は性格や根性の問題ではなく、明確な診断基準をもつ精神疾患であり、慢性疾患として理解されている病気です。

この章では、最新の医療基準であるDSM-5-TRおよびICD-11に基づき、アルコール依存症とはどのような状態なのかを、専門的な内容をかみ砕きながら、できるだけやさしく解説していきます。


アルコール依存症の定義と特徴

医学的には、アルコール依存症は精神医学の診断体系の中で位置づけられている疾患です。

DSM-5-TRでは「アルコール使用症(Alcohol Use Disorder)」という診断名が用いられ、一定期間にわたり複数の症状が認められる場合に診断されます。

一方、ICD-11では「アルコール依存」や「アルコールの有害な使用パターン」といった枠組みで整理されており、両者は表現や分類は異なるものの、アルコールによるコントロール障害と生活への悪影響を中核に捉えている点は共通しています。

アルコール依存症の本質は、「どれくらい飲んでいるか」という量の多さだけではありません。

重要なのは、

  • 飲酒量や頻度を減らそう、やめようと思っても思うようにできない
  • 飲酒が生活の中心になり、仕事や家庭、人間関係に支障が出ている
  • 健康面や社会的な不利益を自覚していても、飲酒を続けてしまう

といった飲酒行動のコントロール障害がみられるかどうかです。

また、アルコール依存症は一時的な問題ではなく、適切な対応がなされない場合、症状が増えて重症化しやすい慢性疾患として理解されています。

初期の段階では「少し飲みすぎているだけ」「疲れているから仕方ない」と見過ごされがちですが、時間の経過とともに飲酒への優先度が高まり、生活全体に影響が広がっていくことがあります。

ここで大切なのは、「毎日飲んでいるか」「大量に飲むかどうか」だけで判断しないことです。

医学的には、自分の意思で飲酒を調整できなくなっている状態こそが、アルコール依存症を考えるうえでの重要なサインとされています。


意志の問題ではなく「脳の病気」である理由

アルコール依存症が誤解されやすい背景には、「飲むか飲まないかは本人の選択だ」という考え方があります。

しかし、現在の医学では、アルコール依存症は脳機能の変化を基盤とした精神疾患であることが、数多くの研究から示されています。

アルコールは、脳内の報酬系と呼ばれる神経回路に作用し、ドーパミンなどの神経伝達物質の働きを介して「快」の感覚を強く印象づけます。

この作用が繰り返されると、脳はアルコールのある状態を優先するように学習し、飲酒行動が強化されていきます。

その結果、自己制御や判断に関わる脳の回路、特に前頭前野を含む領域の働きが影響を受け、

「飲まない方がいいと頭ではわかっているのに、やめにくい」

「不安や落ち着かなさを感じると、飲酒に頼ってしまう」

といった状態が生じやすくなります。

これは意志の弱さではなく、脳機能の変化によって行動のコントロールが難しくなっている状態と理解されます。

DSM-5-TRやICD-11では、こうした状態を他の精神疾患と同様に、診断基準をもつ治療対象として明確に位置づけています。

つまり、「意志が弱いから飲む」のではなく、病気の結果として飲酒行動が制御しにくくなっているというのが、現代の医学的な捉え方です。

この視点は、当事者にとって自分を過度に責めず、治療や支援につながるための大切な一歩になります

。また、家族や周囲の人にとっても、「叱る」「責める」よりも、「治療が必要な状態なのだ」と理解し、適切な支援につなげるための重要な考え方になります。


まとめ
  • アルコール依存症は、DSM-5-TR・ICD-11に基づく正式な精神疾患です
  • 飲酒量そのものよりも、コントロール障害が診断の核心になります
  • 放置すると症状が増え、生活への影響が広がることがあります
  • 意志や性格の問題ではなく、脳機能の変化に基づく病気です
  • 正しい理解が、治療と回復への第一歩になります

アルコール依存症が「脳の病気」であると理解すると、「では、具体的にはどんな症状が現れるのだろう」と感じる方も多いかもしれません。

次の章では、身体面・心理面・行動面に分けて、アルコール依存症に特徴的な症状を詳しく解説していきます。

アルコール依存症の主な症状

この章では、DSM-5-TRおよびICD-11の診断概念に沿って、アルコール依存症でみられる代表的な症状を、身体的・心理的・行動/生活面の3つの側面から丁寧に整理していきます。


身体的な症状(離脱症状・耐性など)

アルコール依存症の身体的な症状として、特に重要なのが離脱症状耐性です。

これらは、長期間にわたる飲酒によって身体がアルコールに適応した結果として起こる反応と考えられています。

離脱症状とは、飲酒を中断したり、大きく量を減らしたりした際に現れる身体症状のことです。

具体的には、手の震え、発汗、動悸、吐き気、不眠、不安感などが代表的です。

症状の程度には個人差がありますが、重症の場合には、けいれんや意識の混濁、幻覚などを伴うこともあり、医療的な対応が必要となるケースもあります。

一方、耐性とは、同じ酔いの感覚や効果を得るために、以前よりも多くのアルコールが必要になる状態を指します。

はじめは少量で満足していた飲酒量が、気づかないうちに増えていくことは珍しくありません。

この変化はゆっくり進むことが多いため、ご本人が自覚しにくい場合もあります。

DSM-5-TRやICD-11では、耐性や離脱症状といった身体的適応は、アルコール使用障害・依存の評価における重要な要素の一つとされています。

ただし、これらの症状が明確にみられない場合でも、依存症が否定されるわけではなく、あくまで全体像の中で総合的に判断されます。


心理的な症状(渇望・不安・抑うつ)

アルコール依存症では、身体的な変化以上に、心理的な症状がつらさの中心になる方もいます

その代表的な症状が渇望です。

渇望とは、「お酒を飲みたい」という強い欲求が繰り返し湧き上がり、頭から離れなくなる状態を指します。

仕事中や家庭で過ごしている最中でも飲酒のことが気になり、集中しづらくなったり、落ち着かない感覚やいらだちとして現れたりすることがあります。

この渇望は、意志の弱さや性格の問題ではなく、長期的な飲酒によって脳の報酬回路やストレス応答の仕組みが変化することで生じると考えられています。

DSM-5-TRおよびICD-11でも、強い欲求(渇望)や使用のコントロール困難は、診断上の重要なポイントとされています。

また、不安感や抑うつ気分がみられることも少なくありません。

飲酒中は一時的に気持ちが和らいでも、アルコールが切れると不安や焦燥感、抑うつ的な気分が強まり、それを和らげるために再び飲酒してしまう、という悪循環に陥ることがあります。

実際に、アルコール依存症とうつ病や不安障害が併存するケースは多く、心理的なケアを含めた包括的な支援が重要になります。


行動面・生活面への影響(仕事・家庭・金銭)

アルコール依存症が進行すると、飲酒の影響は行動や生活全体に及び、生活機能が大きく損なわれる状態に近づいていくことがあります。

仕事の面では、遅刻や欠勤が増える、集中力が低下してミスが増える、職場での信頼関係が揺らぐといった変化が起こり得ます。

家庭では、家族との口論が増えたり、約束を守れなくなったりすることで、関係性が少しずつ悪化していくこともあります。

金銭面への影響も重要です。

飲酒にかかる支出が増え、生活費を圧迫したり、借金に発展したりするケースも見られますが、それでも飲酒を優先してしまう背景には、「やめたいと思ってもやめられない」状態が存在します。

DSM-5-TRおよびICD-11では、身体的・心理的・社会的な不利益が生じているにもかかわらず使用を続けることが、アルコール依存症を特徴づける重要な要素とされています。

本人にとっては苦しさを和らげるための行動であっても、結果として仕事や家庭、経済面にまで影響が及び、いわゆる生活破綻に近づいていくことがあるのが、この病気のつらい側面です。


まとめ
  • アルコール依存症の症状は、身体・心理・生活全体に広がります
  • 離脱症状や耐性は、身体がアルコールに適応した結果として現れます
  • 渇望や不安、抑うつは、脳の変化による症状であり意志の問題ではありません
  • 仕事・家庭・金銭への影響が重なると、生活機能が大きく損なわれます
  • DSM-5-TR・ICD-11では、これらを総合的に評価して診断します

ここまでの内容を読み、「自分や身近な人に当てはまる部分があるかもしれない」と感じた方もいるかもしれません。

次の章では、アルコール依存症のセルフチェックの考え方や、医療現場で用いられる診断基準について、より具体的に解説していきます。

アルコール依存症の診断基準とセルフチェック(改訂版)

「お酒の飲み方が気になるけれど、どこからが“依存症”なのかわからない」「自分や家族が病気なのか判断できず、不安だけが募っている」

こうした思いを抱えながら、この記事を読んでいる方も多いのではないでしょうか。

この章では、最新の医療基準(DSM-5-TR・ICD-11)に基づく診断の考え方と、日常生活の中で気づけるセルフチェックの視点、そして早期介入がなぜ重要なのかを整理してお伝えします。


医療現場で用いられる診断の考え方

アルコール依存症の診断は、「お酒をどれくらい飲んでいるか」という量だけで決まるものではありません。

精神科・心療内科の医療現場では、飲酒によって生活や心身にどのような支障が生じているか、そして飲酒行動を自分の意思でコントロールできているかといった点を総合的に評価します。

現在、国際的に広く参照されている診断枠組みとして、DSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル改訂版)とICD-11(国際疾病分類第11版)があります。

DSM-5-TRでは、アルコール使用障害を「臨床的に意味のある障害や苦痛を伴う問題的な飲酒パターン」と定義し、過去12か月間に11項目のうち2項目以上が当てはまるかによって診断が検討されます。

これら11項目は、次のような観点から評価されます。

  • 飲酒量や頻度を思うようにコントロールできない
  • 飲酒によって仕事・学業・家庭生活に支障が出ている
  • 健康問題や人間関係の悪化があっても飲酒を続けてしまう
  • 飲酒を減らしたりやめようとしてもうまくいかない
  • 飲まないと落ち着かない、不安が強まるなどの変化がみられる

ICD-11でも同様に、強い飲酒欲求(内的な駆動)飲酒行動のコントロール困難有害な結果が生じていても飲酒を優先してしまう状態などが、アルコール依存の中核的な特徴として示されています。

ここで大切なのは、診断基準が「病名をつけるための線引き」ではなく、いまどのような困りごとが起きていて、どのような支援が必要かを整理するための道具だという点です。

診断はゴールではなく、回復に向かうためのスタート地点なのです。


セルフチェックで気づけるサイン

医療機関を受診する前の段階でも、セルフチェックを通じて気づけるサインはいくつかあります。

これは正式な診断に代わるものではありませんが、早期介入につながる重要なきっかけになります。

たとえば、次のような変化に心当たりはないでしょうか。

  • 飲まないつもりだったのに、気づくとお酒を手に取っている
  • 「今日は少しだけ」と思っても、結果的に量が増えてしまう
  • 飲酒を控えようとすると、イライラや不安が強くなる
  • 健康面の問題や周囲からの指摘があっても、飲酒を続けてしまう
  • お酒が生活や気分を支える“中心的な存在”になっている

これらは、アルコール使用障害の診断基準でも重視されるコントロールの困難さ有害な結果があっても続けてしまう状態と重なるサインです。

特に注意したいのは、ストレスや不安、不眠への対処手段として飲酒が固定化している場合です。

このような状態が続くと、問題飲酒が強まり、依存へと進行するリスクが高まることがあります。

「少し気になる」「以前より当てはまる項目が増えた」と感じた段階で専門家に相談することは、決して大げさなことではありません。


早期発見が重要な理由

アルコール依存症は、比較的早い段階で気づき、支援につながるほど、重症化を防げる可能性が高まる病気です。

初期の段階であれば、生活習慣の見直しや医療的サポートによって、状態の悪化を防げるケースもあります。

一方で、気づかれないまま進行すると、肝臓や脳、心血管系などの身体的影響に加え、仕事の継続が難しくなる、人間関係が壊れてしまうといった社会的な影響も大きくなります。

また、うつ病や不安障害など、他の精神疾患を併発することもあります。

早期に相談できるメリットの一つは、治療や支援の選択肢が比較的広いことです。

状況によっては、断酒だけでなく減酒を含めた柔軟な方針が検討される場合もあります。

ただし、どの方法が適切かは個人差が大きいため、必ず医療者と相談しながら決めていくことが重要です。

「まだ自分で何とかできそう」「そこまで深刻ではない」と感じている段階こそ、実は専門家につながりやすい時期でもあります。

早期介入は、生活や健康が大きく揺らぐ前に支えを得るための、非常に大切な一歩です。


まとめ
  • アルコール依存症の診断は、飲酒量だけでなく生活への影響やコントロール障害を重視する
  • DSM-5-TR・ICD-11では、アルコール依存症を意思の問題ではなく医療的な疾患として位置づけている
  • セルフチェックは正式診断ではないが、早期介入の重要な手がかりになる
  • 飲酒が感情調整の手段として固定化している場合は注意が必要
  • 早めに相談・支援につながることで、重症化を防げる可能性が高まる

診断基準やセルフチェックを通して、「なぜここまでお酒に頼るようになったのだろう」と感じた方もいるかもしれません。

次の章では、アルコール依存症がどのような背景や要因によって生じるのか、脳の働きやストレスとの関係、他の精神疾患との関連などを含めて解説していきます。

アルコール依存症の原因と背景

アルコール依存症は、「お酒が好きだから」「自制心が足りないから」起こるものではありません。

この章では、最新の診断基準(DSM-5-TR・ICD-11)の考え方を踏まえながら、アルコール依存症の背景にある仕組みを、できるだけやさしく整理していきます。


脳・神経伝達物質との関係

アルコール依存症を理解するうえで重要なのが、脳内の神経伝達物質の働きです。

中でもよく知られているのが、ドーパミンセロトニンです。

アルコールを摂取すると、脳の「報酬系」と呼ばれる神経回路が刺激されます。

この回路ではドーパミンが放出され、「心地よい」「楽になる」「またやりたい」といった感覚が生じますが、これは本来、食事や人とのつながりなど、生きていくうえで必要な行動を強化するための仕組みです。

しかし、アルコールによる刺激が繰り返されると、脳は次第にその快感を学習し、飲酒行動を優先するように変化していきます。

この過程では、「飲まないと落ち着かない」「飲まないと一日が始まらない」といった感覚が強まることがあります。

また、同じ量のアルコールでは満足感が得られにくくなる「耐性」が形成されることも少なくありません。

その結果、飲酒量や頻度が増えやすくなります。

さらに依存が進むと、判断力や衝動のコントロールに関わる脳の働きが十分に機能しにくくなり、「今日はやめよう」と思っても実行できない状態が起こりやすくなります。


うつ病・不安障害などとの併存

アルコール依存症では、うつ病や不安障害などの精神疾患を併存しているケースが非常に多いことも重要な特徴です。

実際の臨床では、どちらか一方だけが単独で存在するよりも、複数の問題が重なっていることの方が一般的です。

うつ病では、気分の落ち込み、意欲の低下、不眠、自責感などが続きます。

こうしたつらさを和らげようとしてアルコールを使い始め、次第に飲酒が習慣化していく方も少なくありません。

一方で、長期的な大量飲酒そのものが、気分の不安定さや抑うつ症状を悪化させることもあります。

不安障害の場合も同様です。

不安や緊張を一時的に軽くする目的で飲酒が続くと、結果的に不安や睡眠の質が悪化し、さらにお酒に頼らざるを得なくなるという悪循環に陥ることがあります。

DSM-5-TRやICD-11に基づく診療では、アルコールに関する問題を独立した疾患として評価すると同時に、併存するうつや不安の状態を丁寧に見立てることが重要とされています。

飲酒だけを止めることを目標にするのではなく、背景にある心理的なつらさや精神症状にも並行して向き合うことが、回復への現実的な道筋になります。

まとめ
  • アルコール依存症は、ドーパミンなどを含む脳の報酬系の変化と深く関係している
  • ストレスや生活環境は「原因」ではなく、発症リスクを高める背景要因として重なり合う
  • 性格そのものが依存症を生むわけではなく、誰にでも起こりうる
  • うつ病や不安障害などの併存疾患が非常に多く, 包括的な評価と治療が重要

次の章では、こうした理解を土台に、アルコール依存症にはどのような治療方法があり、回復はどのように進んでいくのかを具体的に解説していきます。今の状態から、どんな支援につながれるのかを一緒に整理していきましょう。

アルコール依存症の治療方法

アルコール依存症の治療について考えるとき、多くの方が「本当に治るのだろうか」「自分にできるだろうか」と不安を感じます。

けれど、まずお伝えしたいのは、アルコール依存症は意志や性格の問題ではなく、医学的に定義され、治療と支援によって回復を目指せる精神疾患であるという点です。

この章では、「断酒か減酒か」「薬や心理療法はどんな役割を果たすのか」「入院と通院はどう違うのか」について、臨床現場の実情を踏まえながら、できるだけ安心して理解できるように説明していきます。


断酒と減酒の考え方

アルコール依存症の治療を考えるとき、よく話題になるのが「断酒」と「減酒」の違いです。

断酒とはアルコールを完全にやめること、減酒とは飲酒量を医学的に安全とされる範囲まで減らすことを目標にする考え方です。

依存の程度が重く、飲酒のコントロールが難しい場合には、少量の飲酒が再び大量飲酒につながるリスクが高くなることがあります。

そのため、強い渇望や離脱症状、身体的な合併症が認められるケースでは、まず断酒を目標に据えた治療プログラムが勧められることが少なくありません。

これは「厳しいから」ではなく、「安全に回復を進めるため」の医学的判断です。

一方で、依存の程度が比較的軽度で、社会生活を維持できている場合には、減酒を治療目標として設定することもあります。

減酒は「妥協」ではなく、治療への心理的ハードルを下げ、通院や治療継続につなげるための現実的な選択肢になり得ます。

ただし、自己判断での減酒はうまくいかないことも多く、医療者と一緒に計画を立て、経過を確認しながら進めることが重要です。

大切なのは、断酒と減酒のどちらが「正しいか」ではありません。

その人の病状、生活背景、治療への準備性を丁寧に評価し、現時点で最も無理のない目標を設定し、必要に応じて見直していくことが、現代のアルコール依存症治療の基本的な考え方です。


薬物療法と精神療法

アルコール依存症の治療では、薬物療法と精神療法を組み合わせることで、回復を支えやすくなることが知られています。

ただし、薬だけで依存症が「完全に治る」わけではなく、治療を継続しやすくするための重要な支えとして位置づけられます。

薬物療法には、いくつかの種類があり、代表的なものとして、飲酒を続けにくくする薬や、飲酒欲求(いわゆる「飲みたい衝動」)を和らげる薬があります。

薬剤ごとに作用の仕方や適応は異なり、再飲酒の予防や飲酒量の低減に役立つ場合がありますが、どの薬が適しているかは、飲酒パターン、身体状況、通院状況などを踏まえて慎重に判断されます。

精神療法では、認知行動療法や動機づけ面接などが用いられます。

「どんな場面で飲酒に頼りやすいのか」「飲酒以外に気持ちを整える方法はあるか」を一緒に整理し、再発しやすい状況への対処法を身につけていくことが目的です。

また、集団療法や自助グループなどを通じて、「同じ悩みを持つ人がいる」「一人で抱えなくていい」と感じられることが、治療の継続を支える力になることもあります。

依存症の回復は一直線ではありません。

うまくいかない時期や再飲酒があっても、それを「失敗」と捉える必要はありません。

通院や治療につながり続けていること自体が、回復の大切な一歩です。


入院治療と外来治療の違い

アルコール依存症の治療は、入院治療と外来治療(通院)という形で行われます。

どちらが適しているかは、症状の重さや安全性の評価によって決まります。

入院治療は、重度の依存がある場合や、強い離脱症状、重い身体合併症が懸念される場合に選択されます。

医療管理下で安全に離脱期を乗り越え、集中的な治療プログラムを受けられる点が大きな特徴です。

生活リズムを整えながら、断酒の基盤を作る期間として位置づけられます。

外来治療は、仕事や家庭生活を続けながら、定期的に通院して治療を行う方法です。

診察、薬物療法、精神療法を組み合わせ、日常生活の中で回復を積み重ねていきます。

外来治療では、再飲酒のリスクと向き合いながら、自分に合った対処法を少しずつ身につけていくことが重要になります。

治療の場は固定されたものではありません。

状態の変化に応じて、入院から外来へ、あるいは外来から入院へと柔軟に治療環境を調整していくことが、現実的で安全な治療の進め方です。


まとめ
  • アルコール依存症は医学的に定義された、治療と支援で回復を目指せる精神疾患です
  • 断酒と減酒は優劣ではなく、病状や生活背景に応じて目標設定されます
  • 薬物療法と精神療法は、治療継続と再発予防を支える重要な柱です
  • 入院治療と外来治療にはそれぞれ役割があり、状態に応じて選択・調整されます
  • 「完璧にできているか」より、「治療につながり続けているか」が回復の鍵です

最終章:家族・周囲ができる関わり方

アルコール依存症は、飲酒している本人だけの問題ではありません。

長く一緒に過ごす家族や周囲の人の心身、生活、価値観にも、少しずつ影響を及ぼしていきます。

最終章では、家族支援の観点から、避けたい対応、本人を支える声かけ、そして家族自身のケアについて、丁寧に整理していきます。


やってはいけない対応

ご家族の多くは、「何とかして止めたい」「これ以上悪くなってほしくない」という切実な思いから行動しています。

しかし、その善意が、結果として回復を遠ざけてしまうことがあります。

代表的なのが、強い叱責や説教です。

「どうして分からないの」「意志が弱いからだ」と責められると、本人は恥や罪悪感を強めやすくなります。

アルコール依存症のある方は、すでに自分を責めていることが多く、非難的な関わりは、飲酒を隠したり、相談や受診を避けたりする方向につながることがあります。

これは、依存症に伴うスティグマ(偏見や自己否定)が、治療へのアクセスを妨げやすいこととも一致します。

また、飲酒による問題の「後始末」を家族が引き受け続けることにも注意が必要です。

仕事の欠勤理由を代わりに説明する、金銭トラブルを肩代わりする、体調不良を周囲に隠す――こうした行動は一時的には場を収めるかもしれませんが、結果として本人が問題と向き合う機会を先延ばしにしてしまうことがあります。

これは、いわゆる共依存と呼ばれる関係性につながることがあり、家族が無意識のうちに問題行動を支えてしまう状態です。

さらに、「完全に断酒すると約束しなさい」と白黒をつけるような関わりも、現実的とは言えません。

アルコール依存症は、再発と回復を繰り返しやすい慢性疾患であり、失敗を許さない関わり方は、本人の絶望感を強めるリスクがあります。家族が監視者や管理者にならないことは、支援の基本と言えるでしょう。


本人を支えるための声かけ

では、家族としてどのような声かけが望ましいのでしょうか。

大切なのは、「責めていない」「一人で抱え込ませない」という姿勢を、言葉として丁寧に伝えることです。

たとえば、

「やめられないのは、相当つらい状態なのかもしれないね」

「困っているなら、一緒に考えたいと思っている」

といった言葉は、本人の防衛的な反応を和らげ、対話の余地を残します。

ここで重要なのは、飲酒行動そのものを非難するのではなく、困っている状態や苦しさに目を向けることです。

「最近、体調や仕事のことで大変そうに見える」「お酒のことで苦しんでいるなら、医療の力を借りる選択肢もあるよ」といった伝え方は、アルコール依存症が医療の対象であるという理解につながりやすくなります。

受診や相談を勧める際には、タイミングも大切です。

飲酒直後や感情が高ぶっている場面ではなく、比較的落ち着いて話せるときを選び、「責めたいわけではない」「心配しているから」という前置きを添えることで、拒否感が和らぐことがあります。

すぐに同意が得られなくても、「選択肢として伝える」こと自体が、後の行動につながる場合も少なくありません。


家族自身のケアの重要性

アルコール依存症の問題に向き合い続ける中で、家族自身が強いストレスを抱えてしまうことは珍しくありません。

不安、怒り、無力感が長期間続くと、不眠や気分の落ち込み、身体的な不調として表れることもあります。

これは、決して家族の弱さではなく、慢性的な心理的負荷にさらされた結果です。

家族支援で最も大切な考え方の一つは、「家族も支援を受けてよい」ということです。

依存症は本人と周囲の関係性の中で影響し合う疾患であり、家族向けの相談窓口や支援プログラム、自助グループなどは、感情を整理し、適切な関わり方や距離感を学ぶ場として役立つことが報告されています。

共依存から抜け出すことは、本人を見捨てることではありません。

むしろ、家族が自分の生活と心を守りながら、できる範囲で支える関係に戻ることを意味します。

「自分が何とかしなければならない」という思い込みを手放し、医療や専門職につなぐことは、責任放棄ではなく、推奨される支援の一部です。家族が健康でいることが、結果的に本人の回復を長く支える力になります。


まとめ
  • 叱責や説教、過度な管理は回復を妨げることがある
  • 問題の後始末を引き受け続ける関わりは、共依存につながりやすい
  • 声かけは非難せず、困りごとや苦しさに焦点を当てる
  • 受診や相談は落ち着いたタイミングで、選択肢として伝える
  • 家族自身も支援を受け、心身を守ることが重要

終わりに

アルコール依存症について知ることは、「自分や家族を責めるため」ではなく、「回復への道筋を見つけるため」にあります。

飲酒の問題は、本人の努力だけで解決しようとすると、かえって苦しさが増してしまうことも少なくありません。大切なのは、これは医療や支援の対象となる状態であり、ひとりで抱え込まなくてよいという視点です。

本記事でお伝えしてきたポイントを、あらためて整理してみましょう。

本記事のまとめ
  • アルコール依存症は意志の問題ではなく、脳や心の働きが関係する病気
  • 飲酒量よりも「コントロールできなくなっているか」が重要な判断軸
  • 早めに相談・治療につなぐことで、回復の選択肢は広がる
  • 治療は断酒だけでなく、心理的サポートや環境調整も含めて考える
  • 家族や周囲も、無理をせず支援を受けることが大切

もし今、「相談してもいいのだろうか」と迷っているなら、その気持ち自体が大切なサインです。

専門家に話すことで、状況が整理され、少し心が軽くなることもあります。

あなたや大切な人が、安心して回復への道を歩めるよう、この情報がその第一歩になれば幸いです。

【参考文献】

DSM-5-TRでは診断名としてAUD(Alcohol Use Disorder)を用い、NIAAAもDSM-5-TRのAUD基準を解説。

・NIAAAはAUDを「不利益(社会・職業・健康)にもかかわらず、止める/コントロールする能力の障害」と定義。

依存の“脳疾患モデル”として、報酬・ストレス系に加え、自己制御(前頭前野を含む回路)の障害が重要とされる。

重症離脱の合併症として離脱けいれんやせん妄(幻覚・錯乱など)が記載。

依存の神経科学として、渇望や負の情動状態が使用を駆動する枠組みが示される。

・NIAAAはAUDと併存しやすい精神疾患として抑うつ障害・不安障害などが“最も一般的”と記載

NIAAA(VTA→側坐核へのドーパミン信号を説明)

Sleep Foundation(鎮静で寝付きは良くなるが睡眠を乱し得る)

NIAAA:治療は画一ではなく、エビデンスに基づく多様な治療選択肢を提示(目標設定含む)

・重い離脱は入院/解毒などでの集中的管理が推奨され得る

・NIAAA:治療は行動療法+薬物療法+相互支援の組み合わせが選択肢

・家族を治療・ケアに関与させ支援する(NICE)

家族が長期に不安・怒り・無力感を抱えると、不眠や抑うつなど心身の不調が出ることがある。