「頭では分かっているのに、不安や落ち込みが止まらない」「同じことを何度も反すうして疲れてしまう」――そんなとき、心の中で起きている“考え方のクセ”を見える化して整える方法として役立つのが、認知行動療法(CBT)でよく用いられるコラム法(思考記録)です。
コラム法は、出来事・感情・浮かんだ考え(自動思考)を“列(コラム)”に分けて書き、根拠を点検し、よりバランスのよい捉え方に更新していく練習です。
この記事では、初心者の方でも取り組めるように、コラム法の基本、書き方、具体例、つまずきやすい点と対処法まで、やさしく丁寧に解説します。
1. コラム法とは?
コラム法は、認知行動療法でよく使われるワークの一つで、一般には思考記録(Thought Record)とも呼ばれます。
ポイントは、「出来事 → 感情 → 浮かんだ考え」を切り分けて書くこと。人は、出来事そのものよりも、出来事をどう解釈したか(考え方)によって感情や行動が大きく揺れます。
- 出来事:上司に返事をもらえなかった
- 自動思考:「嫌われたに違いない」
- 感情:不安 80%、落ち込み 60%
- 行動:何度もチャットを確認、仕事が手につかない
こうした流れを見える化し、思考の根拠を点検して、より現実的で自分を追い詰めない捉え方に調整していくのがコラム法です。
2. なぜ効くの?コラム法が役立つメカニズム
つらい気分のとき、私たちの頭には瞬間的にいろいろな言葉が流れます。これが自動思考です。自動思考は速すぎて気づきにくく、気づかないまま信じてしまうと、感情が強く揺れます。
コラム法で期待できることは、主に次の3つです。
- 感情の“理由”が分かる
「なぜこんなに不安なのか」を、出来事ではなく“解釈”の側から整理できます。 - 認知の歪み(考え方のクセ)に気づける
例:白黒思考、先読み、過度の一般化、心の読みすぎ、べき思考 など。
クセに気づくだけでも、感情が少し下がることがあります。 - 行動が選びやすくなる
思考が整うと、「今できる小さな一歩(行動実験)」が見つかりやすくなります。
3. コラム法はどんな人に向いている?向かない場合は?
向いているケース
- 不安、抑うつ気分、イライラが「考え方」で増幅している感覚がある
- 反すう(ぐるぐる思考)を止めたい
- 人間関係・仕事のストレスで自己否定が強くなりやすい
- カウンセリングやセルフケアとして、思考の整理を学びたい
注意が必要なケース(無理にやらない)
- 書くことで感情が急激に悪化する(フラッシュバックが出る等)
- 強い希死念慮、極端な不眠、食事が取れないなど“危機”がある
- トラウマ関連の症状が強いとき(まずは安全確保・専門家の伴走が優先)
この場合は、コラム法を一人で抱え込まず、医療機関や心理職への相談も選択肢に入れてください。
4. コラム法の基本フォーマット
コラム法にはいくつかの型がありますが、初心者には以下が分かりやすいです。
よく使われる7コラム
| コラム | 書く内容 | 例 |
|---|---|---|
| ①状況 | いつ・どこで・何が起きた | 月曜朝、上司に送った連絡が未読 |
| ②気分(感情) | 感情の種類+強さ(0〜100) | 不安80、焦り70 |
| ③自動思考 | 頭に浮かんだ言葉(短文) | 「怒ってる」「評価が下がる」 |
| ④根拠(賛成) | そう思う理由・事実 | 以前返信が遅い時に指摘された |
| ⑤反証(反対) | 反対の事実・別解釈 | 会議中かも、他の人にも返信遅い |
| ⑥バランス思考 | 現実的で優しい捉え方 | 「今は忙しい可能性。必要なら再送」 |
| ⑦結果 | 感情の変化・行動案 | 不安80→45、昼に一度だけ確認 |
5. 実際のやり方(初心者向け:5ステップ)
STEP1:状況は「事実だけ」で短く
- 5W1Hを意識しつつ、実況中継のように
- 解釈(「嫌われた」)はここに入れない
STEP2:感情は「種類+点数」
- 不安/悲しみ/怒り/恥/罪悪感 など
- 0〜100で体感を数字にします(精密さより目安でOK)
STEP3:自動思考を“そのまま書く”
- 例:「終わった」「どうせ私なんて」「見捨てられる」
- 複数あれば箇条書きでOK
- 裏にある“核心の怖さ”があるときは、こう自問します
- 「それが本当だとしたら、何が一番怖い?」
STEP4:根拠と反証を“同じ熱量”で集める
- 根拠(賛成)だけ集めると、思考は固定されます
- 反証(反対)は、言い訳ではなく、事実・可能性・確率の視点で
STEP5:バランス思考 → 次の一歩(行動)
- “最高に前向き”ではなく、現実的で自分に優しい結論へ
- 最後に「今できる小さな行動」を1つ決めます(行動実験)
6. 認知の歪み(考え方のクセ)をやさしく整理
コラム法でよく見つかる“クセ”を、代表的なものだけ紹介します。
- 白黒思考:「成功か失敗か」「好かれるか嫌われるか」
- 過度の一般化:「一度ミスした=いつもダメ」
- 心の読みすぎ:「きっと怒っている」「嫌われた」
- 先読み:「どうせうまくいかない」
- べき思考:「完璧にやるべき」「弱音を吐くべきじゃない」
- 破局化:「最悪だ、終わった」
- 拡大視・過小評価:「欠点は巨大、長所はゼロ」
“歪み”という言葉がきつく感じる人は、「思考のクセ」「脳の省エネ機能」と捉えて大丈夫です。誰にでも起こります。
7. 具体例で理解する:仕事のミスで落ち込むケース
①状況
金曜夕方、提出した資料に誤字があり、同僚に指摘された。
②感情(0〜100)
恥 70、落ち込み 80、不安 60
③自動思考
- 「私は仕事ができない」
- 「信用を失った」
- 「もう挽回できない」
④根拠(賛成)
- 誤字があったのは事実
- 最近疲れていて集中が落ちていた
⑤反証(反対)
- 誤字は誰にでも起こり得る
- 内容の骨子は評価されていた
- これまでの成果もある
- 指摘してくれたのは改善の機会
⑥バランス思考
「誤字は改善点。私は“常にできない”わけではない。次は提出前チェックを仕組み化して再発を減らそう。」
⑦結果(感情・行動)
落ち込み80→45、不安60→30
行動:チェックリスト導入/提出前に5分だけ見直し時間を確保
8. 続かない人のための“やさしい運用”
①ミニコラム(3列だけ)にする
状況/感情/自動思考
「書けた」体験を積むのが目的。まずは1日1回、1〜3分で。
②“反証”が難しい人は「別の可能性を3つ」考えるだけにする
例:「返信がない」→1 忙しい 2 通知に埋もれた 3 後で返すつもり
③書けない日は「体のケア」へ切り替え
睡眠、食事、散歩、呼吸、入浴、ストレッチ
心が荒れている日は、認知より先にコンディション調整が効くことがあります。
よくある質問(Q&A)
Q1. うまく書こうとして手が止まります
A. 上手さは不要です。むしろ“雑でいいので事実と感情を分ける”だけでも十分価値があります。③自動思考は、敬語にせず心の声そのままでOKです。
Q2. 反証が見つからず、余計に落ち込みます
A. そのときは「確率の視点」を足してください。
「100%そう言える?」と自問し、1%でも違う可能性があれば、それが反証の種になります。
Q3. ポジティブに書かなきゃいけませんか?
A. いいえ。目指すのは“ポジティブ”ではなく“現実的でバランスのよい見方”です。納得できる範囲で十分です。
Q4. どのくらいの頻度でやればいい?
A. 目安は週2〜3回から。つらい出来事があった日に1回でもOKです。続けるより、負担を増やさないことを優先してください。
以下が続く場合は、医療機関や専門家に相談することも検討してください。
- 不眠が続く/食欲が極端に落ちる
- 日常生活(仕事・家事・学業)が回らない
- 強い絶望感や希死念慮がある
- 書くことで症状が悪化する、フラッシュバックが強い
コラム法は有用なスキルですが、一人で耐えるための道具ではありません。伴走があった方が安全で進めやすい場合も多いです。
まとめ
コラム法(思考記録)は、認知行動療法でよく使われる「出来事・感情・自動思考」を整理し、考え方のクセ(認知の歪み)に気づきながら、よりバランスのよい捉え方へ更新していく練習です。
大切なのは、無理にポジティブになることではなく、事実を点検して“現実的で自分に優しい見方”を増やすこと。最初はミニコラム(3列)でも十分です。
書くことでつらさが強まるときや生活に支障が大きいときは、セルフケアにこだわりすぎず、専門家のサポートも選択肢に入れてください。あなたの心が少しでも軽くなる方向へ、できる一歩から始めていきましょう。
