お子さんが学校へ行けなくなると、親御さんは不安や戸惑いを抱えるものです。
場合によっては「親として自分が間違っていたのかも?」と自分を責めてしまうケースも少なくありません。
しかし、不登校の背景には“心のエネルギーが限界に近づいているサイン”が隠れていることがよくあります。
メンタルの不調やストレス、環境の変化など、さまざまな理由が重なって子どもはうまく言葉にできないまま苦しんでいるのです。
この記事では、専門的な知見をもとに、
- 不登校とメンタル・精神疾患の関係
- 親ができるサポート
- 受診の目安
- 進路の選択肢
などを優しく丁寧に解説します。
不登校とメンタルヘルスの関係について。
子どもが学校に行けなくなる背景には、心の問題が潜んでいることがあります。
不登校は、心身が限界を迎えたときに表れる「心のSOS」であることも多く、精神医学的な視点から適切に理解することが大切です。
この章では、不登校にかかわるメンタルヘルスの基礎知識を、専門的かつやさしく解説します。
不登校は“怠け”ではなく「心のSOS」であるケースが多い
不登校の原因はひとつではありません。
中には、はっきりとした外的なきっかけ(いじめや教師とのトラブル)がある場合もありますが、多くのケースでは、じわじわと蓄積されたストレスやプレッシャーにより、子ども自身も自覚しきれていない心の限界が背景にあります。
日本の文部科学省が公表している不登校の統計においても、「無気力」「不安」「人間関係の悩み」などの心理的背景が原因の上位に挙げられています。
これは、単なるサボりや甘えでは説明できないことを示しています。
精神科医の立場から見ても、不登校は「うつ病」「適応障害」「不安症群(ICD-11コード6B00〜6B0Z)」などの診断基準に合致するケースが少なくありません。
とくに中学生や高校生の年代では、自己肯定感がまだ十分に育っていないため、ちょっとした失敗や否定的な評価が大きなストレスとなり、「もう学校に行きたくない」という気持ちにつながることがあります。
また、身体の不調として現れることも多く、頭痛、腹痛、倦怠感、立ちくらみなどが「登校時だけ」生じるように見えることがあります。
こうした身体症状は、自律神経のバランスが崩れたサインであり、心の負担が身体に表れたものと理解すべきです。
心が疲れ果てている状態で無理に登校させることは、逆に症状の悪化や長期的な不登校の固定化を招きかねません。
まずは「学校に行けていない」という行動ではなく、「なぜ今、行けない状態にあるのか」という心理的背景に目を向けることが大切です。
不登校は、心のレッドサイン。
今、何かが苦しいのだという無言のメッセージに、耳を傾けてあげてください。
よくみられる心理状態(不安・抑うつ・ストレス過敏)
不登校の子どもに多く見られる心理状態は、大きく分けて以下のような傾向があります。
1. 強い不安感
登校前になると、理由がはっきりしないまま胸がドキドキしたり、お腹が痛くなったりするケースがあります。
これは「登校場面に対する条件づけられた不安反応」であり、不安症群に該当することもあります。
国際的な精神疾患診断マニュアルであるDSM-5-TRやICD-11では、こうした不安は「状況依存的な回避行動」として捉えられます。
2. 抑うつ状態や睡眠障害
気分が落ち込み、興味や意欲がなくなり、食欲の低下や睡眠障害を伴うこともあります。
いわゆる「仮面うつ(身体症状が目立ち、気分の低下が目立たない抑うつ状態)」として表れることも多く、周囲からは気づかれにくい傾向があります。
3. ストレスへの過敏性
「ちょっとしたことでもすぐに落ち込む」「人からどう見られているかが気になる」「完璧にできないと不安になる」といった特徴も見られます。
これは、自己肯定感の低さや、発達特性(ASDやADHD)の影響とも関係している場合があります。
4. 外に出るのが怖い(社交不安・対人緊張)
登校しようとすると、心拍数が上がったり、「人に見られている気がする」「失敗したらどうしよう」といった強い緊張を感じたりすることがあります。
これは、社交不安症や対人恐怖的な反応が背景にあることも。
5. 感情のコントロールが難しい
些細なことで怒ったり、涙を流したりするような情緒の不安定さも見られます。
これは、心理的なストレス耐性が低下しているサインであり、背景に慢性的な緊張状態や自律神経の乱れがあると考えられます。
これらの心理状態が複合的に絡み合い、子どもは「学校に行かなきゃいけない」と頭では分かっていても、身体と心がついていかない状態に陥っているのです。
その苦しさを、どうか「怠け」や「甘え」とは決めつけず、まずは受け止めてあげてください。
- 不登校は、心の限界を知らせる「SOS」であることが多い
- 背景には、うつ・不安・適応障害などの精神的負担が隠れている
- 自己肯定感の低下やストレス過敏なども不登校のリスク因子
- 心理的な苦しさが身体症状として表れることもある
- 無理な登校支援より、まずはメンタルケアの視点が大切
不登校の背景にある「心の疲れ」や「不安」は、さまざまな要因によって引き起こされます。
次の章では、不登校につながりやすい主なメンタルの要因を詳しく見ていきましょう。
不登校の背景にある主な心理・精神的要因
不登校の背景には、「心のエネルギーが削られるような心理的負荷」が重なっていることが多くあります。
それは単に学校に行きたくないという感情だけでなく、心身のバランスを崩すような深いストレスや葛藤の積み重ねです。
この章では、不登校につながりやすい代表的な心理・精神的要因について、臨床現場でよく見られる事例を交えて解説していきます。
学校ストレス(友人関係・いじめ・勉強の負荷)
学校は、子どもにとって社会生活の中心となる場所ですが、それゆえに人間関係のトラブルや過度なプレッシャーは強いストレス源となります。
とくに以下のような状況では、心理的な緊張や不安が日常的に高まります。
- いじめ(身体的・言葉の暴力):長期にわたって自尊心が傷つけられ、自己肯定感が低下し、学校そのものが「危険な場所」に変わってしまいます。
- 勉強の遅れ・進度の速さ:周囲と比較される環境のなかで「自分は劣っている」「ついていけない」と感じることが、気分低下や意欲喪失につながります。
こうしたストレスの蓄積は、学校に行こうとするだけで強い緊張や不安を感じさせ、心身の抵抗力を奪っていきます。
うつ病や不安障害の可能性
不登校の背景には、うつ病性障害や不安症群(ICD-11コード6A70〜6B0Z) といった精神疾患が関与していることもあります。
以下のような症状が見られる場合には、医療的な評価が必要です。
- 気分の落ち込み(気分低下):以前は楽しめていたことへの関心がなくなり、朝が特につらい。
- 意欲の著しい低下:勉強だけでなく、好きだったゲームや趣味にも興味を示さなくなる。
- 身体症状:頭痛、吐き気、極端な疲れや倦怠感などの「仮面うつ」のような形で現れることも。
また、不安障害では、「学校に行くこと自体が怖い」「人にどう思われるか気になって動けない」といった強い緊張や予期不安が見られ、登校を妨げる大きな要因になります。
適応障害やストレス反応
適応障害(ICD-11コード6B43)は、明確な環境ストレスに対して心の反応が過敏に出る状態を指します。
学校の担任変更、進級、席替えなど、些細に見える変化でも、心が敏感に反応する子どもにとっては重大な“事件”になり得ます。
- 発症までのタイミングが比較的明確(例:進学後2週間で不登校)
- 本人は「行かなきゃ」と思っているが、心と身体が動かない
- 日によって波がある(行ける日と行けない日がある)
こうしたケースでは、「まだ行ける日もあるから大丈夫」と楽観視されがちですが、心の疲労は確実に蓄積しており、早めの支援が重要です。
発達特性(ASD・ADHD)による困難さ
発達特性が背景にある場合、周囲の理解不足や環境のミスマッチがストレスの原因となり、不登校へとつながることがあります。
- ASD(自閉スペクトラム症):聴覚過敏、スケジュールの変化への苦手さ、人との距離感の取りづらさなどにより、学校生活に強いストレスを感じやすい。
- ADHD(注意欠如・多動症):授業中に集中できず注意を受け続ける経験が、「自分はダメだ」という感覚につながりやすい。
発達特性のある子どもは、自分を責めやすく、学校という“集団規範”の場で「適応できない自分」に対して強い劣等感を持つ傾向があります。
気持ちの揺れや、ちょっとした指摘への過敏な反応も見られます。
家庭環境の変化や親子関係の影響
子どもは、家庭という“安全基地”からの心理的影響を非常に強く受けます。
以下のような家庭内の変化や関係性の問題が、不登校の背景として作用することもあります。
- 転居・両親の離婚・再婚などの環境変化
- 親の過干渉または無関心
- きょうだい間の比較・プレッシャー
- 家の中で「休まらない」雰囲気がある
子どもはとても敏感で、言葉にしなくても親の表情やトーンから“察する”ことが多いです。
「親に心配かけたくない」「期待に応えなきゃ」という気持ちが強すぎると、自分の気持ちを抑えてしまい、やがて心が疲れてしまうのです。
また、家庭内で安心して「学校に行きたくない」と言える雰囲気がない場合、子どもは一人で苦しみを抱え込みやすくなり、気持ちの揺れや緊張が日々強まっていきます。
- 学校での人間関係・学業プレッシャーは不登校の大きな引き金となる
- うつ病や不安障害など、医学的な評価が必要なケースも多い
- 発達特性のある子どもは学校環境で強い負荷を感じやすい
- 家庭の雰囲気や親子関係の影響も心に大きく作用する
- 不登校の背景は多因子的で、見た目だけでは判断が難しい
不登校の背後にある心理的要因は、複雑に絡み合っていることが多いため、表面的な行動だけで判断するのは難しいものです。
次の章では、こうした状態に気づくために、家庭で見られる「メンタル不調のサイン」について詳しく見ていきましょう。
受診の目安——精神医療が必要なサイン
この章では、精神科や心療内科の受診を検討すべき具体的なサインについて、専門的な観点から優しく解説します。迷いや不安を整理する一助になれば幸いです。
2週間以上つらい状態が続いている
「2週間」という期間は、医学的に重要な目安とされています。
たとえば、うつ病や不安障害など多くの精神疾患では、「ほぼ毎日、2週間以上」苦しい状態が続くことが、診断基準の一つとされています(国際診断マニュアルDSM-5-TR、ICD-11に準拠)。
具体的には、以下のような様子が続いている場合、早めに専門家に相談することをおすすめします。
- 朝から気分が落ち込み、元気が出ない
- 笑顔や会話が減った
- 以前は楽しめていたことにも無関心
- 「死にたい」「消えたい」などの言葉が増えた
子どもの場合、「疲れた」「だるい」といった身体的な訴え方をすることも多く、大人と比べて気分の落ち込みが見えにくい傾向があります。
家庭で「明らかに様子が違うな」と感じたら、それが心の不調のサインかもしれません。
朝になると体調不良(腹痛・頭痛)が強い
不登校の子どもに多く見られるのが「朝になると体調が悪くなる」という訴えです。
特に多いのが、腹痛・頭痛・吐き気・倦怠感などの「身体化症状(からだに出るストレス反応)」です。
これは、本人の意識とは無関係に、心のストレスが身体症状として表れる状態です。
決して「仮病」や「甘え」ではなく、医学的に認められた反応です。
多くの場合、午前中がつらく、午後には元気になるといった日内変動が見られます。
このパターンも心因性である可能性が高く、無理に登校を促すことでさらに症状が強まってしまうこともあります。
また、こうした体調不良が繰り返されると、親も「またか…」と対応に疲れてしまうことがあります。
そのようなときこそ、第三者である医師に相談することで、新たな気づきやサポートが得られるかもしれません。
強い不安・パニック・涙が止まらない
朝になると不安が強まり、登校準備の途中で泣き出したり、着替えられずに動けなくなる――このようなケースも珍しくありません。
以下のような状態が繰り返される場合、「不安障害」や「パニック症」などのメンタル不調が背景にある可能性が考えられます。
- 登校の話題になるだけで泣いてしまう
- 突然過呼吸のような症状が出る
- 「もう行けない」「こわい」「何も考えられない」と訴える
特に、小学生〜中学生では、自分の感情をうまく言語化できず、涙や沈黙という形で表現されることがあります。
家庭ではなかなか対応が難しいため、心療内科・児童精神科などでの早期評価が望まれます。
寝られない・食べられないなど身体症状
「眠れない」「食べられない」という症状は、心の不調の代表的なサインです。
これらは、自律神経のバランスが崩れた状態や、うつ病・不安障害などの症状としてもよく見られます。
具体的な例としては:
- 夜なかなか寝つけず、寝不足が続く
- 明け方に目が覚めてしまう(早朝覚醒)
- 食欲が著しく低下し、食事量が減っている
- 無気力で、顔色も悪い
成長期の子どもにとって、食事と睡眠は心と体を整える土台です。
これらのリズムが崩れている場合、早めにケアを開始することで、悪化を防ぐことができます。
家庭での支援だけでは限界を感じる場合
どんなに愛情をもって支えていても、親だけの対応には限界があります。
特に、数週間〜数か月にわたって状態が改善しない場合、以下のようなサインが見えてくることがあります。
- 家族が常にピリピリした雰囲気になっている
- 子どもに対して「また休むの?」「いつまでこうなの?」と責めたくなる
- 兄弟姉妹との関係がぎくしゃくする
- 親自身が眠れない・イライラする
このような状況では、親の“ケア疲れ”や“共倒れ”が起こりやすくなります。
親子関係が悪化する前に、専門家の介入が必要な段階です。
医師や臨床心理士は、子ども本人だけでなく、親への支援も含めて全体を見てくれます。
「医療につなぐこと」は、「親の限界宣言」ではありません。
むしろ、よりよい回復のための“最善の選択”です。
- 精神医学的に「2週間以上の不調」は受診を検討すべき重要なサイン
- 朝の腹痛や頭痛は、心因性のストレス反応の可能性がある
- 泣く、パニック、不安などが続く場合は、心療内科・精神科での評価が望ましい
- 睡眠や食事が乱れているときは、早めの介入が効果的
- 家庭だけで抱え込まず、外部の専門家の力を借りることが大切
家庭でできるメンタルサポートとNGな対応例
お子さんが不登校になったとき、多くのご家庭では「どう声をかけたらいいのか」「どう接するのが正しいのか」と迷いや不安を抱えます。
この章では、家庭でできる具体的なサポート方法と、逆効果になりやすいNG対応について、専門的な視点から丁寧にお伝えします。
子どもの気持ちを否定しない「傾聴」
まず何より大切なのは、「聞く姿勢」です。
不登校の子どもは、学校に行けない自分に対して、すでに強い罪悪感や無力感を感じていることが多くあります。
そのため、無理に励ましたり、「行けるでしょ?」といった軽い声かけが、かえって傷つけてしまうことも。
傾聴とは、評価せず、アドバイスもせず、ただ「そう感じているんだね」「つらかったんだね」と、そのまま受け止める関わり方です。
心の安全基地になる存在がいることで、子どもは少しずつ安心感を取り戻していきます。
「何を言えばいいか分からない」というときは、言葉よりも“態度”や“表情”が大切です。
ただそばにいてくれるだけでも、子どもにとっては大きな支えになります。
NG対応(急かす、比較する、正論で押す)
善意からの言葉であっても、知らず知らずのうちに子どもを追い詰めてしまうことがあります。
以下は、不登校の回復を遅らせるNG対応の典型です。
急かす:「いつになったら行けるの?」「来週からは行けるでしょ?」
→ 子どもに「回復ペースを急がされている」と感じさせ、プレッシャーになります。
比較する:「○○ちゃんは頑張って行ってるのに…」「お兄ちゃんのときは…」
→ 自尊心を傷つけ、自己肯定感を下げます。兄弟関係が悪化することも。
正論で押す:「将来困るよ」「学校は行くべき場所だよ」
→ 頭では分かっていても“行けない”状態の子どもにとっては、責められているように感じてしまいます。
親の側も不安や焦りが募りますが、「変わってほしい」と願うほどに逆効果になることがある点に、注意が必要です。
安心できる生活リズムを整える
学校に行けなくなると、昼夜逆転・生活リズムの乱れが起きやすくなります。
しかし、不規則な生活は自律神経を不安定にし、心身の回復をさらに遅らせてしまう要因になります。
大切なのは、「学校に行けるリズム」ではなく、「安心できる生活リズム」を取り戻すことです。
- 起床時間・就寝時間を毎日できるだけ同じにする
- 朝は日光を浴びて、体内時計をリセット
- 食事は1日3食、バランスよく
- スマホやゲームの使用時間にメリハリをつける
- 昼夜逆転を無理に戻すのではなく、徐々に調整する
生活リズムの安定は、メンタルの安定にも直結します。
最初は「午前中に起きられた」「昼ごはんを一緒に食べられた」など、小さな成功体験を重ねることから始めてみましょう。
“理由を無理に聞き出さない”ことの大切さ
不登校になった理由がはっきりしないと、親としては「なぜ行けないの?」と聞きたくなるものです。
しかし、本人にも理由が明確でないことは多く、言葉にできないつらさを抱えている場合も少なくありません。
無理に聞き出そうとすると、「説明できない自分が悪い」と感じ、さらに心を閉ざしてしまうこともあります。
大切なのは、「理由よりも今の気持ちに寄り添うこと」。
「話したくなったらいつでも聞くよ」
「理由が言えなくても大丈夫だよ」
そんなスタンスで接することで、子どもが「ここにいていいんだ」と安心できる土台ができます。
成功体験を少しずつ積ませる環境づくり
メンタルに不調を抱えた子どもは、自己肯定感が著しく低下しています。
「自分には価値がない」「何もできない」といった否定的な思考が強くなっていることもあります。
このときに大切なのが、小さな成功体験を積み重ねることです。
- 朝起きられた
- 家族と会話できた
- 簡単な家事を手伝えた
- 好きなアニメを観て笑えた
これら一つひとつを、「できたね」「うれしかったよ」と肯定的にフィードバックすることで、「自分にもできることがある」「前に進めるかもしれない」という感覚が育っていきます。
焦らず、比べず、「今日できた一歩」を一緒に喜ぶ姿勢が、回復へのステップになります。
- 子どもにとって安心できる「傾聴の姿勢」が支えになる
- 急かす・比較する・正論で押すと、逆効果になりやすい
- 生活リズムを整えることが、心身の安定につながる
- 理由を無理に聞かず、「今の気持ち」に寄り添う姿勢が大切
- 小さな成功体験を見逃さず、自己肯定感を育てる関わりを
親が抱え込みすぎないために—不登校の子どもが歩める道
不登校の子どもを支える親御さんは、心身ともに大きな負担を抱えがちです。
「自分の育て方が悪かったのでは」「このまま将来が閉ざされるのでは」といった不安や罪悪感が、日々の心の中に影を落とすこともあるでしょう。
この章では、親自身の心のケアの重要性と、不登校からの回復の道筋についてお伝えします。
親自身の不安・罪悪感への対応
不登校という状況に直面したとき、多くの保護者が「自分のせいではないか」と自責の念を抱きます。
確かに、親の関わり方は子どもの情緒に影響を与えることがありますが、それだけが原因ではありません。
現代の不登校は、学校での人間関係、学習の困難、発達特性、メンタルヘルスの不調(うつ・不安・適応障害など)といった、複合的な背景が絡み合って起こることが多いのです。
また、「なんとか登校させなければ」との焦りから、子どもに厳しく接してしまい、関係が悪化するケースもあります。
こうした悪循環を避けるためには、まず親自身が自分の感情に気づき、向き合うことが大切です。
親が「怖い」「情けない」「どうしたらいいかわからない」と思ってもいいのです。
それは“ダメな親”だからではなく、それほど子どもを大切に思っている証拠です。
こうした不安や葛藤を一人で抱えるのではなく、カウンセリングや親の会、地域の相談窓口などを活用することも検討してみてください。
専門家と話すことで、客観的な視点を得られ、心が軽くなることがあります。
親のメンタルケアが子どもの安定につながる理由
子どもは、思っている以上に親の感情の波を敏感に察知しています。
とくに思春期の子どもは、「自分のせいで親が苦しんでいる」と感じると、罪悪感や自己否定感を強めることがあります。
だからこそ、親の心の安定は、子どもの安心感につながります。
親が笑顔でいられるとき、子どもは「自分は責められていない」と感じ、自分を少しずつ許せるようになります。
これは、DSM-5-TRやICD-11でも指摘されている「家庭環境の安定が子どもの情緒的回復に影響する」という臨床的知見にも一致します。
日々の生活で、無理に励ましたり説得したりせず、「ただ一緒に過ごす時間」「会話のない静かな共有」なども立派なサポートになります。
親自身が休める時間を確保し、趣味や仲間とのつながりも大切にしてください。
通信制高校・定時制という選択
不登校が長引いた場合、多くの保護者が「このまま高校に進学できないのでは」と不安を抱きます。
しかし、通信制高校や定時制高校、サポート校など、多様な進路の選択肢が用意されています。
これらの学校では、自分のペースで学べる環境が整っており、不登校や発達特性を持つ生徒も多く在籍しています。
登校日数が少なめに設計されていたり、オンライン授業を取り入れていたりする学校もあります。
中には、心理支援スタッフやカウンセラーが常駐している学校もあり、子どもが安心して学べる環境づくりがなされています。
重要なのは、「高校=全日制の普通科」という固定観念を手放すことです。
子どもの特性や希望に合わせて、“その子に合った学び方”を選ぶことが、将来の自己肯定感や社会的自立につながります。
高校卒業後の進学・就職は可能
通信制高校や定時制を卒業した後、大学や専門学校への進学、就職などの進路は十分に開かれています。
最近では、総合型選抜(旧AO入試)や推薦入試で、多様な経験を評価する大学も増えてきました。
また、通信制出身者の中には、大学で心理学・教育・福祉を学び、支援者になる人や、IT・デザイン・創作など自分の得意を生かした就職を果たす人も多くいます。
一度不登校を経験したからといって、将来が狭まるわけではありません。
- 親の不安や罪悪感は自然な感情であり、抱えてよいものです
- 親自身の心の安定が、子どもの安心と回復につながります
- 通信制・定時制など多様な進路の選択肢があります
- 不登校経験者も大学進学・就職を果たしている実例が多数あります
- 焦らず「心の回復」を優先した関わりが、子どもの再起を支えます
まとめ
不登校は、決して「弱さ」や「甘え」ではありません。
多くの場合、子どもが自分を守るために精一杯出している“心のSOS”です。親御さんがそのサインに気づき、責めることなく寄り添ってあげられると、子どもは安心し、少しずつ回復に向かう力を取り戻していきます。
サポートの正解は一つではありませんし、学校復帰がすべてのゴールでもありません。
子どもの心の状態に合わせて、家庭・学校・医療機関を上手に活用していくことで、それぞれに合った「その子らしい未来」へ進むことができます。
もし親御さん自身が不安や疲れを抱えていると感じたら、それも大切なサインです。
あなたの心が安定していることが、子どもにとって何よりの支えになります。
どうか一人で抱え込まず、必要に応じて医療や相談機関へつながってください。
どんな不登校にも、必ず回復の道があり、未来への選択肢があります。
焦らず、少しずつ、一緒に歩んでいきましょう。
- 不登校は「心のSOS」であり、怠けではない
- 背景には不安・抑うつ・ストレス・発達特性など複数の要因が関与する
- 親が否定せず寄り添うことで、子どもの心は安定しやすくなる
- 受診の目安は「2週間以上つらさが続く」「身体症状が強い」など
- 通信制高校・定時制・復学支援など、進路の選択肢は多様
- 回復には段階があり、焦らず「その子のペース」で進めば十分
【参考文献】
学校拒否(school refusal)は、しばしば不安・抑うつなどの情緒的問題と関連し、「情動的苦痛に起因する登校困難」と定義される。PMC
・いじめ被害は児童の自己評価低下や抑うつ・不安と関連し、学校拒否のリスク因子となる。PMC+2www.elsevier.com+2
・学校拒否児では登校場面に対する顕著な不安・情緒的緊張が認められ、不安症や抑うつと関連する。PMC+2deconstructingstigma.org+2
・学校拒否行動は、不安症やうつ病などの精神疾患と高い併存率を示す。PMC+2www.elsevier.com+
・児童・思春期では抑うつが身体症状として表現されることが多く、身体愁訴主体で医療につながる例が報告されている。PMC+2drugsandalcohol.ie+2
・ADHDの不注意症状は学業成績の低下や教師からの注意の増加と関連し、それが自己評価の低下と関連することが示されている。Nature+2セル.com
・親の養育態度や家庭内の葛藤は、児童の情緒問題や学校拒否と関連しうることが指摘されている。Frontiers+2deconstructingstigma.org+2
・親の感情的支援が、自己効力感を高めることで子どもの心理症状を軽減するという前向きな関連が報告されているFrontie
・親による感情のバリデーション(感情を否定せずに受け止めること)は、子どもの感情の強度を下げ、落ち着きやすくすることが示されているManhattan Psycholo
・思春期において睡眠の不規則性は、うつ症状やその他のメンタルヘルス症状の増加と関連することが報告されているPubMed+2PubM
・行動活性化療法(BA)は、価値のある活動を少しずつ増やすことで達成感と自己効力感を高め、抑うつ症状を改善するエビデンスベースの治療法PMC+2Child Mind Institute+
・文科省の不登校定義では「心理的、情緒的、身体的、社会的要因・背景により登校しない・したくてもできない状態」とされ、多因子的背景が明記されている。文部科学省
・子どものメンタルヘルス研究では、親のメンタルヘルスや感情状態が子どもの不安・抑うつ・自己評価に影響することが数多く報告されている。国立成育医療研究センター+
