夜寝る前やちょっとした空き時間に、ついスマホを手に取り、SNSやニュースを延々とスクロールしてしまうことはありませんか?

気づけば数十分、時には数時間が過ぎてしまい、眠気や不安感を強めてしまう――このような行動は「ドゥームスクロール」と呼ばれています。現代社会では誰もが陥りやすい習慣であり、放置すると心身の不調につながることもあります。

この記事では、ドゥームスクロールの意味や心理的な背景、そして具体的な対策について専門的な視点からわかりやすく解説します。

第1章:ドゥームスクロールとは?その背景と心理

まず最初に、「ドゥームスクロール」という言葉自体に耳慣れない方も多いかもしれません。これは「doom(破滅・不安)」と「scroll(スクロールする)」を組み合わせた造語で、ネガティブなニュースやSNS投稿を次々と見続けてしまう行為を指します。

コロナ禍以降に急速に注目され、心理学やメディア研究の分野でも取り上げられるようになりました。この章では、ドゥームスクロールの定義や背景、そしてなぜ人がこの習慣に引き込まれてしまうのかを心理学的に整理していきます。

1. ドゥームスクロールの定義と特徴

ドゥームスクロールは、インターネットやSNSで不安をかき立てるニュース、炎上、災害や事件の速報などを延々と閲覧してしまう行為を意味します。特に夜間、就寝前にスマホを手放せず、気がつけば深夜になってしまうケースが多く報告されています。
特徴としては以下のようなものがあります。

  • 止めたくても止められない:ある程度「もうやめよう」と思っても、次の投稿をチェックしたくなる。
  • ネガティブな情報に偏る:ポジティブなニュースよりも、不安や怒りを伴う記事に目が行きやすい。
  • 時間感覚が失われる:数分のつもりが数十分、あるいは数時間経過している。

これらは単なる「ネットサーフィン」や「SNSの利用」とは異なり、不安やストレスに関連した強迫的な要素を含むことが特徴です。


2. 背景にある社会的要因

ドゥームスクロールが広がった背景には、社会環境の変化があります。

  • コロナ禍の不安
    世界中で感染状況や経済不安が広がり、人々は「最新の情報を知っていないと危険かもしれない」という感覚に駆られました。
  • SNSとニュースアプリのアルゴリズム
    SNSはエンゲージメントを高めるために刺激的なコンテンツを優先表示します。ネガティブなニュースほどクリック率が高いため、無意識に閲覧時間が長くなります。
  • 常時接続社会
    スマホが生活必需品となり、どこでも情報にアクセスできる環境が「習慣化」を助長しています。

3. 心理学的なメカニズム

ドゥームスクロールにはいくつかの心理的な背景が指摘されています。

  • ネガティビティ・バイアス
    人間は進化の過程で危険やリスクに敏感に反応するようになりました。そのため、不安や怒りを伴う情報に自然と注意が向いてしまいます。
  • FOMO(Fear of Missing Out)
    「大事な情報を見逃すかもしれない」という不安が、スマホチェックをやめられなくさせます。
  • 強化学習のループ
    SNSの「いいね」や通知は報酬系を刺激し、スクロールをやめにくくする仕組みを作っています。

このように、ドゥームスクロールは個人の意志の弱さではなく、環境と心理が絡み合った行動パターンだと理解することが大切です。


ここまで、ドゥームスクロールの定義や背景について整理してきました。単なる「スマホの使いすぎ」ではなく、社会的要因や心理的バイアスが深く関係していることが理解できたと思います。

では、こうした習慣は私たちの心身にどのような影響を与えるのでしょうか?

次章では、睡眠障害や不安感、生産性低下といった具体的な悪影響について、研究データや臨床的な知見を交えながら詳しく解説していきます。

第2章:ドゥームスクロールがもたらす影響

「少しだけ見るつもりだったのに、気づいたら夜更かししてしまった」「見れば見るほど不安が増して、気持ちが落ち込んでしまう」――ドゥームスクロールには、こうした悩みがつきものです。これは単なる習慣の問題ではなく、心と体に少なからぬ影響を及ぼす行動パターンでもあります。

この章では、睡眠やメンタルヘルスへの影響、日常生活や仕事のパフォーマンスにどのような影響が出るのかを整理しながら、なぜドゥームスクロールを放置するとリスクが高まるのかを解説します。

1. 睡眠障害との関連

ドゥームスクロールがもたらす最も身近な影響は「睡眠の質の低下」です。

  • 就寝前のスマホ使用による脳の覚醒
    ブルーライトが体内時計に作用し、メラトニン分泌を抑えることが知られています。その結果、眠気が遠のき、入眠が遅れてしまいます。
  • 情報による精神的な興奮
    事件や災害ニュース、不安を煽る投稿を見ると交感神経が優位になり、心拍数や呼吸が速くなります。これによりリラックスできず、睡眠導入が困難になります。
  • 睡眠不足の悪循環
    翌日の集中力低下、イライラ感が増し、再び夜にスマホに逃避するというサイクルに陥りやすくなります。

2. 不安や抑うつの悪化

ドゥームスクロールは心理的な不安を強める要因でもあります。

  • ネガティブ情報の増幅効果
    人はネガティブなニュースを見ると、現実以上に危険や不安を感じやすくなります。これが慢性的に続くと「世界は危険だ」「自分は無力だ」という思考に偏りがちです。
  • 抑うつ症状との関係
    海外の研究では、長時間のニュース閲覧が抑うつ傾向と相関していることが示されています。SNSの使用時間が増えるほど、自己評価の低下や気分の落ち込みが強まる傾向も確認されています。
  • 比較による自己否定
    SNSで他者の成功や楽しそうな投稿を見続けることで、自分の生活が劣っていると感じる「ソーシャル・コンパリゾン(社会的比較)」が強まり、精神的負担を増やします。

3. 注意力・集中力の低下

スマホによる情報過多は、日常生活や仕事の効率にも直結します。

  • 集中力の断片化
    数分おきにSNSをチェックする習慣がつくと、脳が「短い情報処理」に慣れてしまいます。結果として、読書や資料作成のような長時間の集中作業が難しくなります。
  • マルチタスクの錯覚
    複数の情報を同時に処理しているつもりでも、実際には注意が分散しているため、作業の質が落ちてしまいます。
  • 学習効率の低下
    学生においては、勉強中にSNSをチェックすることが学業成績に悪影響を及ぼすことが報告されています。

4. 人間関係への影響

ドゥームスクロールは個人の内面だけでなく、周囲との関係性にも影響します。

  • 家族やパートナーとの時間の減少
    食事中や就寝前にスマホを見続けることで、コミュニケーションが減少します。
  • 共感疲労
    SNS上で他者の辛いニュースや悩みを見続けることで、自分も心理的に疲弊する「共感疲労」に陥ることがあります。
  • 孤立感の増加
    ネガティブ情報を追い続けるうちに「誰も理解してくれない」と感じ、孤立感を深めるケースもあります。

5. 「依存」的側面

ドゥームスクロールは医学的に正式な依存症と定義されているわけではありませんが、依存的な特徴を持つことは確かです。

  • やめたいのにやめられない
    意志の力だけで制御するのが難しく、自己嫌悪を伴います。
  • 脳の報酬系との関わり
    新しい情報を得たときにドーパミンが分泌されるため、次々と画面をスクロールしたくなる衝動が生まれます。
  • 日常生活への侵食
    通勤中や会議前など、本来スマホを見る必要のない場面でも無意識にスクロールしてしまうことがあります。
まとめ
  • ドゥームスクロールは睡眠不足や不眠を引き起こしやすい
  • 不安や抑うつを強め、気分の落ち込みにつながる
  • 集中力・注意力を低下させ、仕事や学業の効率を下げる
  • 人間関係の希薄化や共感疲労を招くことがある
  • 依存的側面があり「やめたいのにやめられない」悪循環に陥る

ここまで、ドゥームスクロールが心身や日常生活に及ぼす悪影響について解説してきました。「なんとなく体験している問題」が、実際には心理学的・医学的にもリスクを伴う習慣であることが見えてきたと思います。

では、こうした行動から抜け出すにはどうすれば良いのでしょうか?次章では、日常生活の中で実践できる工夫や、心を整えるセルフケア方法、さらに必要に応じた専門的支援について具体的にご紹介していきます。

第3章:今日からできるドゥームスクロール対策

ドゥームスクロールの背景や影響を理解すると、多くの方が「やめたいけど、どうすればいいのか分からない」と感じるのではないでしょうか。実際、これは強い意志だけで克服するのは難しい行動習慣です。しかし、日常のちょっとした工夫やセルフケアの取り入れ方を工夫することで、徐々に改善することが可能です。

この章では、スマホ使用の環境調整、生活習慣の工夫、そして心を整える方法について、すぐに取り入れられる実践的な対策をご紹介します。

1. スマホ使用の環境を整える

  • 通知をオフにする
    ニュース速報やSNSの通知は「今すぐ見なければ」という衝動を生みます。必要のない通知を切るだけで、無意識に手を伸ばす回数が減ります。
  • スクリーンタイム機能を活用する
    iPhoneやAndroidにはアプリ使用時間を制限できる機能があります。自分で制限を設けることが「使いすぎ防止」の第一歩になります。
  • ベッドにスマホを持ち込まない
    就寝前はドゥームスクロールが最も起こりやすい時間帯です。ベッドサイドには紙の本を置くなど、代替行動を用意しておくと効果的です。

2. 習慣を置き換える

  • 短い読書や日記の習慣
    スマホを見る代わりに数ページの読書や日記を書く習慣を作ると、徐々に行動の切り替えができます。
  • 呼吸法やストレッチ
    不安で落ち着かないときにスマホを開く代わりに、深呼吸やストレッチで体を整える習慣を取り入れるのも有効です。
  • 「ながら使用」を避ける
    食事中や人と一緒にいるときには、スマホを机に置かず、会話や食事に集中する意識を持つことが大切です。

3. マインドフルネスの実践

マインドフルネス瞑想は「今、この瞬間」に意識を向ける練習です。SNSやニュースによる情報の洪水に流されにくくなる効果が期待されます。

  • 1日5分でも呼吸に意識を向ける練習を取り入れる
  • 不安が出てきたら「今、自分は不安を感じている」と気づくだけでも効果がある
  • 睡眠前に行うとリラックス効果が高まる

4. 専門家に相談する選択肢

セルフケアだけでは難しい場合、専門家の支援を得るのも大切です。

  • カウンセリング:習慣化の背景にある心理的要因を整理できる
  • 精神科・心療内科の受診:強い不安や抑うつが続く場合は、早めに相談することで適切な治療やアドバイスが得られる

ドゥームスクロールは、現代社会に生きる私たちにとって誰もが陥りやすい習慣です。その背景には、社会の不安やSNSの仕組み、そして人間の心理的なバイアスが存在します。

放置すると睡眠不足や不安の悪化、生産性の低下につながることもありますが、環境調整や習慣の置き換え、マインドフルネスなどを通じて改善の道を探ることができます。大切なのは「意志の弱さ」ではなく「仕組みの影響」と理解すること。

無理なく一歩ずつ取り組むことで、心身の健康を守りながら情報との健全な付き合い方を取り戻すことができるでしょう。